NECが5月、新たなDXブランドとして価値創造モデル「BluStellar」(ブルーステラ)を立ち上げた。これまでの「御用聞き」の営業方法から、市場環境を把握・分析し、顧客の課題を引き出して、解決に乗り出す手法に変えていく構えだ。
こうした動きは、同業他社も進めてきている。2016年には日立製作所がLumada(ルマーダ)を立ち上げた。2021年10月には富士通が「Fujitsu Uvance」(富士通ユーバンス)、2024年5月にはNEC以外でもKDDIが「WAKONX」(ワコンクロス)、三菱電機が「Serendie」(セレンディ)を、それぞれ始めている。
ブルーステラは、大航海時代に船乗りの羅針盤の役目を果たしていた一等星「シリウス」を指す、イタリア語の「青い星」から名付けた。既存顧客の事例を類型化した「シナリオ」を軸に展開しているのが特徴だ。
なぜNECは、新たにDXブランドを設立したのか。その強みは? ブルーステラのブランド推進に携わるマーケティング&アライアンス推進部門長の帯刀繭子さんに聞いた。
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●ブルーステラ誕生の経緯 コンサルに生成AIをフル活用する強みとは?
――ブルーステラを立ち上げた経緯について教えてください。
当社は2019年からDXを推進しており、社内で専任の体制を作り、上流からのコンサルタントを育成しつつ、「オファリング」と呼ばれる提案型の営業と、グローバルアライアンスに力をいれて、顧客のDXを進めてきました。
当社には「DX経営の羅針盤」という毎年継続的に実施している調査があるのですが、それによれば、DXの必要性を感じている企業は少なくないにもかかわらず、自社の変革に至るようなDXについては十分な成果が出ていない企業が多いことが分かりました。こうした結果を鑑みて、あらためてこれまでのDXの取り組みを体系化、集約したのがブルーステラ設立の流れになります。顧客の置かれている市場を分析し、仮説を持って課題を聞く、より提案力の強いやり方にわれわれも変えなければならないと考えています。
――近年、国内大手がブランドを相次いで設立しています。なぜNECもこの動きに続いたのでしょうか。
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当社もブランドを設立する動きについては2019年以降、長年議論していました。しかし当初は、ブランド設立に対して、そこまで前向きではありませんでした。ブランドが先行してしまうと、社内がそれに引きずられてしまうことを危惧したからです。その代わりに、DXオファリングを顧客に迅速に提供する共通基盤「NEC Digital Platform」を2022年に発表しました。これはブルーステラの前身になります。
2年間NEC Digital Platformを展開して業種ノウハウ、テクノロジーを集約してきましたが、より顧客にシンプルに伝わるものが必要だという結論にたどり着きました。先述の顧客企業のDXに関する調査結果も踏まえ、ブランド設立に至りました。
――ブルーステラの立ち上げは2024年5月と、他社に比べると後発になります。他社の動きをどのように参考にしましたか。
国内外の多くの事例を参考にしました。そこで得たものとしては、ブランド名称による顧客への分かりやすさがあり、かつ実質が伴っている点が重要だという点でした。名称では、DXに直結するようなシャープで、抽象度が低い言葉で表現したい思いがありました。そこで、伝えたいイメージを大切に検討しようという方針が定まりました。
名称を決める際に当社へのブランド調査も実施しています。その結果「信頼できる」「誠実」というイメージは高かった一方、「先進的」「スピード感」「変革」というイメージではやや低い結果が出ました。新しいブランド名称では、これらのイメージを払拭できる言葉にしようとなりました。
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この2つの要素をかけ合わせたのが「ブルーステラ」です。イタリア語で「青い星」を意味しており、この青い星はかつて船乗りの道しるべとなったシリウスを意味しています。羅針盤やナビゲーターという意味があり、未来志向がある言葉として名付けています。
――社内でブルーステラの定義はどのようになっているのでしょうか。
大きく言うと、コンサルティングを起点としたDXによる価値創造をブルーステラの定義にしています。顧客課題を解決するコンサルティングを起点に、end-to-end(上流から下流まで)で、顧客に当社のテクノロジーと組織をつなげた取り組みを推進します。
ブルーステラでは、顧客に「何が欲しいですか?」とは言いません。最初に「今どういったことをしていますか? どういった悩みがありますか?」という問いかけから始まります。これがコンサルですね。そこで顧客の課題を聞き出し「こういう道筋でこういうゴールを目指しましょう」と提案します。ゴールに向け、価値創造に向けたロードマップ、システム開発のスケジュールを作り、そして当社でそのシステムの運用・保守まで進めていく形を取っています。また、課題ごとに当社のノウハウを集約した「シナリオ」を整備し、スピーディに実現までのロードマップが描けるようにしています。
こうした過程で、まず当社の社員が顧客の課題を聞いて分析し、システムを構築していくわけですが、ブルーステラでは、ここでAIを活用しています。従来手法では、課題解決の過程で、何人ものコンサルタントやエンジニアが顧客から情報を聞き取り、設計していくことがほとんどでした。ブルーステラでは、生成AIを活用しながらデータドリブンに分析していくことで、提案までの時間圧縮と効率化を実現しつつ、構想を構想のままで終わらせない、実践につながるコンサルティングを提供しています。このAIを駆使できるトップデータサイエンティスト出身のAIコンサルタント100人を加えて、現在戦略コンサルタントは700人規模になっています。
これ以外にも、共通テンプレートの採用、当社開発の「cotomi」をはじめとする、生成AIの実践的な活用を進めています。また、環境構築の自動化によって、以前は数日かかっていたサービス提供までの時間が半日に短縮できる事例も出てきています。
●生成AIがブランド創出の決め手に
――2023年から生成AIが急速に発展してきています。2024年5月にブルーステラを立ち上げた背景に、生成AIの進展が影響しているのでしょうか。
大きく影響しています。当社はこれまでもコンサル起点の顧客課題解決を進めてきているのですが、それが生成AIの活用によって高速化できるめどが立った点も大きいです。生成AIによって、コンサル以外のプロセスも自動化と自律化が可能になってきています。そうすると「あとはどう型化するか」をブルーステラでは進めています。
この型化の過程で、ブルーステラでは上流から下流までのオファリングの流れを「シナリオ」と呼び、類型化しています。シナリオは顧客の経営改革に刺さる普遍的なテーマになっているかどうか、再現性があるかどうかなどを厳格に精査しており、シナリオの洪水にならないように設計しています。
現時点で8つのシナリオグループに分かれており、顧客に分かりやすく課題解決の道しるべを提供できるのがブルーステラの特徴だと考えています。
――社内で「DX人材」の育成を強化していると聞きました。NECはDXをどう定義していますか? ちまたではツールを導入したことやレガシーシステムの刷新(モダナイゼーション)をDXと呼んでいる例もよく聞かれます。
当社では「新たな価値を創造する」ことをDXと捉えています。新たな価値というのは、当社からの提案などによって顧客の考え方が変わり、経営が変わることです。ですので、顧客がレガシーシステムを刷新したり、新たなツールを導入したりしただけではDXが完成したとはいえません。顧客の考え方が変わることによって、その後も経営改革が自発的に進む状態をDXと定義しています。
DX人材というのは、このDXの本質を理解しながら、社内では自分自身がDXツールを使いこなし、顧客に提案し、ケアできる人材のことを指しています。このDX人材は、ブルーステラに欠かせないコンサル的な考え方を身に付けています。当社ではDX人材を2025年までに1万人にする目標を掲げていましたが、既に達成しました。新たに2025年までに1万2000人とする目標を立て、今後さらなる人材の高度化、拡大を目指していきます。
●「語り部方式」で浸透 コンサルの自社養成が強み
――コンサル起点と明確化している点が、ブルーステラの特徴なのだと思います。戦略コンサルタントが700人いる話も先ほどありましたが、これはNECグループのコンサル企業であるアビームコンサルティングの人数を合わせた数字でしょうか?
この700人にはアビームコンサルティングの数字は入っておらず、全員NEC社員になります。アビームのコンサルタントの人数を入れると、さらに8000人増える形になります。
NEC社員自らがコンサルをすることで、顧客の課題発見からシステム開発や運用、保守まで一貫したプランを提案できます。このコンサルはキャリア採用などで外部から採用した人材もいますが、主には社員のリスキリングを中心に人材を増やしています。
――2023年9月に富士通がオーストラリアのコンサル企業「MF & Associates」を買収したように、コンサルに注力する企業が出てきています。
当社の場合は、教育プログラムを整備し、自社のコンサル人材育成に力を入れています。また、戦略コンサルとまではいかないまでも、コンサル的な考え方をDX人材として全従業員が身に付けるべく進めています。アビームも含めて、グループ社内でコンサルの専門部隊を擁しているのはブルーステラの強みだと捉えています。
――ブランドを推進する過程で、組織変革も必要になると思います。
そうですね。ブルーステラでは、今のところ組織体制の変化は最低限にしています。事業ドメインとの連携の観点では社内アンバサダー制度を取り入れており、製造業や通信業など、社内の各事業ドメインに「ブルーステラアンバサダー」というブランドを浸透させる責任を担っています。
このブルーステラアンバサダーが、例えば「顧客からこういうことを聞かれたらこういうふうに答えるべき」といった内容を教えています。いわば「語り部方式」でブランドの考え方を事業ドメイン単位で従業員に浸透させています。
2024年8月に当社が覆面でブランド認知度調査を実施したところ、ブルーステラの一定の認知度が確認できただけでなく、ブランド認知の情報源に新聞やテレビではなく「営業から聞いた」と答える人が上位に来る結果になりました。この語り部方式はうまくいっていると評価しています。
――ブルーステラの顧客の業種は、今どのようなところが増えているのでしょうか。
金融業や製造業は非常に問い合わせが増えていますね。DXによって業務変革の余地の大きい業種や生成AIによって人材不足の解消や、業務効率化の期待が大きい企業からの問い合わせが多い印象です。
――ブルーステラの今後の課題について教えてください。
今後は、シナリオの実績を顧客に見せていくことを目指したいと思います。まだシナリオは始まったばかりなので、シナリオ方式が成果を出せていることを発表できるようにしていきたいと考えています。
(河嶌太郎、アイティメディア今野大一)
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