能登半島地震の発生からあす(1日)で1年。被災地では事業の再開が進むが、主要産業の漁業や観光業を中心に全面的な営業再開はいまだ見通せない。施設修繕の遅れや費用が大きな課題で、担い手らは厳しい現状を訴えている。
石川県などによると、12月時点で輪島市や七尾市など能登6市町の商工業の営業再開率は約8割。一方で1月以降の廃業は、予定を含め295件に上る。農林水産関係の地震被害は県全体でこれまで約1万6200件に達したとみられ、9月の豪雨で約3500件の被害が重なった。
農地や用水路が崩壊したほか、漁業関連では県内81港のうち72港で施設損壊や地盤の隆起が発生。12月半ばには62港が利用可能となったが、能登6市町の漁獲量や金額は、1〜9月の累計で前年同期の約6割にとどまる。
◇操業制限、我慢続く
海底が最大2メートル隆起した輪島港では、海底にたまった土砂を取り除くしゅんせつ工事や施設の仮復旧が進み、11月からカニの底引き網漁などを再開した。ただ、給油施設や荷さばき所は一部しか使えず、漁獲量や操業時間を大幅に制限している。
県漁業協同組合輪島支所の上浜敏彦統括参事は「復旧作業は始まっているが、全て直すのに何年かかるか分からない」と語る。地元を離れた漁協職員や漁師も多く、「彼らが帰りやすくなる支援が必要だ」と強調する。
輪島港で底引き網漁をする浜谷正和さん(42)は「仮復旧した施設は不便だが、我慢して頑張っている」と話す。ただ、同県産のカニの価格は市場に出回る安価なオオズワイガニの影響で低迷。「漁獲量を半分に減らしているのに、値段も半分になって打撃だ」と苦しさをにじませた。
◇和倉温泉、復活に3〜4年
観光業も苦境にあえいでいる。能登の名所、和倉温泉(七尾市)では施設の傾きやひび割れのほか、給排水管などが破損。公費解体の遅れもあり、同温泉旅館協同組合加盟の21軒中、一般客の受け入れ再開はわずか4軒。七尾商工会議所によると、完全再開に3〜4年はかかる見込みだ。
国と県は1事業者当たり15億円を上限に「なりわい再建支援補助金」を支給しているが、不十分との声は少なくない。営業再開した「宝仙閣」など4軒の旅館を経営する宝仙閣グループの帽子山定雄会長(76)は、激しく傷んだ2軒の復旧費を25億円以上と試算。材料費も高騰し、旅館の規模を大幅に縮小しても費用の工面は難しく、「補助の金額を増やすなどの措置がないと『なりわい』の意味がない」と訴える。
宝仙閣は一般客や復旧事業者で満室が続く。ただ、業者向けの料金は一般の5割程度に抑えており、「人件費も上がる中、もうけは出ない」と漏らす。
「和倉の復活なくして能登の復活はない」。同組合の宮西直樹事務局長はこう言い切り、「国の手厚い支援が必要だ。多くの人に、ぜひ今の能登を見に来てほしい」と力を込めた。
能登半島地震で地割れした輪島港=14日、石川県輪島市
能登半島地震で傾いた和倉温泉の「宝仙閣グループ」の旅館「宿守屋寿苑」=13日、石川県七尾市
宝仙閣グループの帽子山定雄会長と被災した和倉温泉の旅館「渡月庵」=23日、石川県七尾市(和倉温泉旅館協同組合提供)