親の介護で実家に通っていた夫
「結婚して25年になりますが、このところ双方の親が少しずつ弱ってきたりケガをしたりが続いたんです。夫も私もひとりっ子なので、話し合った結果、とりあえずはそれぞれの親のケアをしよう、どうにもならなくなったらまた相談しようと。私は自宅から実家まで30分くらいで行けるのでいいんですが、夫は2時間ほどかかる。それでも週末や代休を利用してときどき様子を見に行っていました」
ヨシエさん(55歳)は同い年の夫と25年間、結婚生活を続けてきた。息子は社会人となって独立、大学生の娘と3人で暮らしている。夫が実家に行って帰ってくると、さすがに疲労が見てとれた。
「義母は足腰が悪く、義父は数年前に脳梗塞を患った影響で少し半身にまひがある。どちらもなんとか身の回りのことは自分でできるんですが、2人とも80代後半ですから、ヘルパーさんには足しげく来てもらっているようです。それでも義母は夕飯の支度くらいは自分で、と頑張っているとか。
私の方も80代の両親は似たような暮らしぶりです。いっそ施設に2人で入ればと言ってみたこともあるけど、やはり長く暮らした自宅にいたいみたいですね」
両親の介護に疲れた様子の夫だったが
ヨシエさんの実家は、自宅と会社の中間点あたりにあるので3日に1度は寄って様子をみている状態。夫は大変だなと思っていたが、偶然、小中学校が一緒だった旧友に会ったことで、少しは励みになったようだ。
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そんな時、ヨシエさんはある女性からSNSでメッセージを受け取った。
介護に帰るフリをして女性を口説いていた?
義父の徘徊が顕著になっていくと同時に、夫は月に1、2回ほど実家に泊まるようになっていった。「私が受け取ったメッセージには、夫の実家のある町の名前が書いてありました。夫とは小中学校が一緒だったそうで、『最近、ご両親の介護でときどきいらしているようですが、あなたの夫は私の家にもやってきます。昔から好きだったんだ、話だけでもしたいと。
でも私も高齢の母親とふたり暮らし。家に入れる気はないし、そもそも私はあなたの夫を好きではありません。これ以上、つきまとわないよう奥様から言ってください』って。
サトコさんという女性でした。なんだこれ、と思いました。夫が以前より頻繁に実家に行くようになったのは、サトコさんに会いたいがためだったのかとびっくりしました」
ヨシエさんはある日、仕事を休んで夫の実家に行ってみた。義父母は大喜びで迎えてくれた。急に来てごめんなさい、仕事で近くまで来たものですからと彼女はうそをつき、家の中の様子をつぶさに観察した。
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こっそり義母に、お義父さんがひとりで外に出て迷子になることはありませんかと聞いたら、『散歩はするけど、普通に帰ってくるわよ』って」
どうもおかしい。夫の言っていることにはうそがありそうだ。ヨシエさんはその場でサトコさんに連絡をとってみた。
「いい年して恥ずかしい」夫
「たまたまサトコさんも自宅にいたんでしょう、会ってくれました。『ヘンなメッセージを送ってごめんなさい』と言われましたが、話を聞くと、確かに夫が彼女に片思いをしているとしか思えなかった。いい年して恥ずかしい。今後は近づかないように言うので、もし何かあったら警察を呼んでくださいと言いました」帰宅すると、夫はすでに帰っていた。あなたの実家に行って両親の様子をみてきたと言うと、「ありがとう」と夫は素直に笑顔を向けた。ついでにサトコさんにも会ったんだけどと続けると、夫の顔がこわばった。
「2時間かけて介護に通うあなたを大変だと思いながらも敬意をもって見ていた。でもあなたが言うのと私が見た両親の様子は違いがある。サトコさんが迷惑だと感じていることをどうして分からないの、とちょっとキツく言ったんです。
すると夫は『好きだったんだよ、昔から。せっかくまた会えたのに』と、まるで彼女が悪いような言い方をするんですよね。あなたがどんなに好きでも、あちらはあなたに興味がないの。それくらい大人なら分かるでしょ、いい年して恥ずかしいことしないでよと凄んでしまいました」
いまだに初恋の人を忘れられないのかとヨシエさんは不思議にすら思ったという。しかも、相手の迷惑を顧みずにしつこく言い寄るなど、今どきあり得ない行為だと腹も立った。
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介護問題のはずが、思わぬところで夫のとんでもない一面があらわになってしまったことに、ヨシエさんは静かにショックを受けている。
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。(文:亀山 早苗(フリーライター))