35歳、私が「帰省キャンセル」した理由
「私はシフト制の仕事をしているのですが、今回は元日と2日は休めるはずでした。ところが年末になって職員たちにかなりインフルエンザがまん延してしまい、急きょ大晦日から3連チャンで働くことに。まあ、私は仕事が好きだし、自ら買ってでたところもありますが」マミさん(35歳)は笑いながらそう言った。常に忙しく、親にもたまにLINEで連絡するくらいしかできないため、今回は大晦日の夜には帰ると伝えてしまっていた。ところが忙しくて連絡ができず、気づいた時は年があらたまっていた。
「慌てて元日の朝に、急な仕事で帰れないと連絡しました。すると仕事中に何度も電話がかかってくる。夕方になって『いいかげんにしてよ、仕事中なんだから』と電話に出ると、明らかにお酒が入った父と母が『まだ結婚しないの?今年もしないの?仕事ばっかりしてても幸せになれないよ〜』と大声で叫んでる。
本気で腹が立って、さっさと電話を切り、それきり親からの電話には出ていません」
正月早々のLINE攻撃が……
すると今度はLINEが続々とやってきた。おじおば、いとこに至るまで、次から次へとメッセージが入ってくる。「年下のいとこだけが、『おねえちゃん、私も結婚より仕事だから頑張ろうね』って。それ以外は結婚しろ祭りでしたね。それがイヤだから、ここ数年帰っていないんですが、父が70歳で二度目の退職をしたというし、たまには会おうかなと思って帰省するって言っちゃった。
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マミさんの両親は、同じ敷地内に長男一家が住んでいるから、決して“寂しい老後”を送っているわけではない。ただ、娘の行く末が心配なのだろう。心配されても、結婚ばかりは自分の思い通りにはならないとマミさんは苦笑する。
「結婚はしてもしなくてもいいんですが、今より何かがプラスにならないとする気にはなれません。結婚して家事が増えるのも嫌だし、人と暮らすのはそもそもストレスになるし。別居婚ならいいかもと思いますが、それじゃ結婚する意味がないと言われますね」
しばらく両親からの電話攻撃は続くだろうとマミさんは予測している。
元日に親が現れた!?
やはり仕事のため年末年始に帰省できなかったリツコさん(37歳)は、事前にそれを親に伝えていた。「大晦日は遅番で仕事だから帰宅は深夜、2日の午後から仕事。だから帰れないと言ってあったんです。すると元日の朝早くにチャイムが鳴って。オートロックなのでカメラを見たら、両親が手を振っていました(笑)」
元日は眠り続けると決めていたのにと思いながら、しかたなく施錠を解除した。両親は部屋になだれ込むようにやってきた。
「あなたがここに越してきてから初めてよ、私たちが来るの。いつも仕事仕事って、ちっとも時間をとってくれないから……と、あーだこーだ言い始めて。3年前に越してきたんですが、狭いんですよ、うち。
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田舎が嫌だから都会に出てきたんですよ、私は。そして願い通りの仕事に就いて頑張っているのに、それを認めようともせずに帰って来いとは……」
見合い話を進めたかっただけ?
思わず仏頂面になると、「ねえ」と母親はいきなりお見合いの釣書を出してきた。いい人なのよ、土地持ちだし……としゃべり続ける。父親が「まだ朝飯も食べてないんだろ」とおせち料理を並べてくれた。「父はわりと私の気持ちを分かってくれているんだけど、母がうるさいから正直に話せないんですよ。私には兄がいるんですが、不慮の事故で体が不自由になり、施設に入っている。だから親にとって私が唯一の救いみたいになっている。もちろん、気持ちは分かるんだけど、いつでも支配したがる母が重いんですよね」
とりあえず家族3人で朝食をとり、ほっとしたところで、母はまたも「ねえ、結婚しないの」と言いだした。
「なんだかブチッとキレちゃったんですよ、私。今日はずっと眠ろうと思っていたのに、いいかげんにしてよ、もう帰って!と言ってしまった。母は泣き出し、親がこんなに心配しているのにとグチグチ言って。高校生じゃないんだから、もういいかげん放っておいてと決定的な言葉を投げつけました。
父が『とにかく帰ろう』と母を促し、『悪かったな、疲れているところを』って」
マンションから出ていく2人を見ながら、リツコさんは苦い思いをかみしめていた。親が来なければ、1月末に数日間休みがとれるから帰ってみるつもりだった。だが、こうなってしまっては帰る気持ちが失せていく。
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元旦から揉めたくはなかったけど、とリツコさんは声を落とした。
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。(文:亀山 早苗(フリーライター))