今、東京では多くの再開発が進行中だ。様々な場所で工事が進んでいるが、懐疑的に見ている人も少なくない。長年開発が行われ、新規施設が続々オープンしている渋谷ですら、「休む場所がない」と言われてしまっている。そんな中、また一つ芝浦で大規模な開発が進んでいる。「BLUE FRONT SHIBAURA」という通り、海辺を活用したプロジェクトだが、従来の再開発やウォーターフロント事業と何が違うのか? われわれ庶民の居場所はあるのか? 野村不動産の担当者に話を聞いた。
そんな大規模開発が続く東京で、また一つ、新プロジェクトが進行している。浜松町駅周辺を開発する「BLUE FRONT SHIBAURA(芝浦プロジェクト)」だ。同プロジェクトは、浜松町ビルディングの建替事業として、オフィスや商業施設、ホテル、住宅が入るツインタワーを建設するというもの (ツインタワーS棟は2025年2月、N棟は2030年度に竣工予定)。
開発はこの建替に留まらない。ツインタワー近くの日の出ふ頭には、船客待合所にカフェ・レストランを併設した「Hi-NODE」(ハイノード)が2019年にオープン。この日の出と晴海を約5分でつなぐ舟運サービス「BLUE FERRY」の運航は、2024年5月から始まっている。陸だけでなく、海も含めての大規模開発が、この「BLUE FRONT SHIBAURA」なのだ。
「確かに様々な再開発によって東京の都市機能はアップグレードされて、都市力が向上していますので、良いことだと認識しています。しかし、人間が人工的にいろいろなものをいじった結果、“人間自体が疎外されている”状況が今、あるのかな、とも思います」と、四居さんは率直に述べる。それでは「BLUE FRONT SHIBAURA」は、“人間が疎外されない”ものになるのだろうか?
「自分は水風呂に入るためにサウナに入っていますが…(笑)。言ってみれば、多くの人々が楽しむ商業施設が高温サウナで、何もせずに自然を感じるTokyo×Nature側の場所が水風呂のようなものだと捉えています。たとえば、ある人が年間5回ほど再開発された施設に行くとして、『5回のうち1回は“水風呂”のような芝浦に行こうかな』と思ったり。そういう新たな選択肢を東京に与えられるとしたら、それは『BLUE FRONT SHIBAURA』の価値かなと思っています」
水辺と緑と新たな施設を融合させて“何もしない空間”を提供する「BLUE FRONT SHIBAURA」。とかく再開発は、ノスタルジックな原風景を破壊する行為のような捉え方をする人も多いが、同プロジェクトは人々を“原初の笑顔”に戻すという、これまでのイメージとは真逆の取り組みだと言えるだろう。そんな「BLUE FRONT SHIBAURA」には、街づくりとしての考えも背景にあるという。
この「BLUE FRONT SHIBAURA」は建物と周辺だけでなく、水上交通にも積極的に取り組んでいくという。東京は電車やバスの交通網が発達しているものの、水上交通に関しては、前述の広島ほど活発とは言えない。人口増加によるタワーマンション建設で駅が過密化し、車の渋滞も含めて地上は限界に達しようとしている現在、水上交通は東京にどんな効果をもたらすのだろうか?
「コロナ禍の時、外出するのが怖くても、多くの人々が日の出桟橋の『Hi-NODE』の芝生の広場にいたのを見ました。そんな感覚で、普段丸の内に勤めている人が在宅勤務の際に『BLUE FRONT SHIBAURA』の緑道で過ごしてもいいし、運河沿いをそぞろ歩きしてもいい。そういう選択肢を東京の人々に与えたいんです。結局、再開発で人々に提供できるものって、新しい建物や施設ではなく“選択肢”だと思います」