真・三國無双、25年目の新作 長寿作が直面する“マンネリ化”をどう乗り越えた?

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2025年01月17日 08:31  ITmedia ビジネスオンライン

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『真・三國無双 ORIGINS』(出所:プレスリリース)

 コーエーテクモゲームス(横浜市)は1月17日、「真・三國無双」シリーズの最新作『真・三國無双 ORIGINS』を発売した。


【画像】かつてない美麗グラフィックで描かれる、『真・三國無双 ORIGINS』のプレー画面(全8枚)


 2000年に第1作が誕生した「真・三國無双」シリーズは、数百、数千の敵を一人で蹴散らす「無双アクション」を確固たるジャンルとしてゲーム業界に確立させた。その後、戦国時代を舞台とした「戦国無双」をはじめ、さまざまな作品とコラボレーションの幅を広げていった。シリーズ累計の販売本数は2000万本を超え、四半世紀を越えようとしている長寿コンテンツだ。


 数多くのゲームが日本の娯楽を彩ってきたが、その中でも長寿コンテンツといえるまで継続できたシリーズ、ましてや新たなジャンルを生み出したシリーズはそう多くない。そして、それらの長寿コンテンツについて回る課題が「マンネリ化」である。半世紀がたつゲーム業界で、長寿といえるゲームシリーズは常にこの課題と戦ってきた。


 今回、ナンバリングタイトルとしては7年ぶりの新作となる真・三國無双シリーズだが、その課題に対しどのように対応してきたのか。なお、14日からのアーリーアクセスを経た結論を述べると、上記のようなファンの懸念を吹き飛ばすほどの挑戦・変化があった。新たな世代・顧客の獲得への熱量が伺える。


 最新作で行われた挑戦・変化とはなにか、どのように新規層へアプローチしているのか、歴代作品の特徴に触れつつ考察する。


●歴史エンタメを追求し続けた過去の試み


 まずはこれまでの真・三國無双シリーズを振り返りたい。初代の『真・三國無双』から『真・三國無双4』にかけては、グラフィックやアクションの進化を遂げながらシリーズの人気を確立した時期といえる。その中で特に2つ、取り上げたい要素がある。「一騎討ち」と「立志モード」だ。


 「一騎討ち」システムは『真・三國無双3』で導入されたものであり、日本で人気を博している小説版・漫画版の三国志で描かれている英雄同士の一対一の戦いをゲーム内で再現したものである。


 通常戦闘中に関羽や張飛、呂布といった猛将と接敵し、選択すると時間制限付きの一騎討ちモードに入るという形式だ。余談だが、特に呂布は小説・漫画での「猛将ぶり」が再現されていたのも特徴だ。生半可な装備では、一度操作を誤ると即ゲームオーバー、昨今の“死にゲー”といわれるジャンルに勝るとも劣らない難易度だった。


 もう一つの「立志モード」は『真・三國無双4 猛将伝』で導入されたサブモードだ。プレーヤーが作成したオリジナルの武将を操作し、所属する勢力を選択しながら三国志の世界を追体験することができる。


 RPG的要素を取り入れたこのモードは、サブモードであるにもかかわらず人気を博した。この2つの要素はいずれも以降のバージョンには継承されなかったが、後述するが今回の最新作で復活することになる。


 『真・三國無双6』では、プレイヤーの自由度をさらに高める改革が行われた。それまで武将ごとに固定されていた武器を、自由に選択できるようになったのである。この変更により、好みの武将と武器の組み合わせで遊べるようになり「強力な武器のために好きじゃないキャラを使わざるを得ない」といった類の制約がなくなった。


 また、『真・三國無双4』以降の時期はアクションゲームに加え、「タクティカルアクション」に関する試みも行われている。


 真・三國無双シリーズを発売するコーエーテクモゲームスといえば、『三國志』シリーズ、『信長の野望』など歴史戦略ゲームの大家である。それらのゲームで重要となる城・拠点・友軍の概念を真・三國無双シリーズにも取り入れ、プレーヤーが一人で全てを解決するのではなく、友軍と共に城や拠点を確保しながら進軍することが重要になるゲームへと変わっていった。


 シリーズ最大の挑戦といえるのが『真・三國無双8』で導入されたオープンワールドシステムだ。三国志の舞台、魏・呉・蜀およびその周辺エリアを再現した広大なマップでの体験は、戦闘ごとのクローズドなマップが舞台であった過去作と全く異なるものであり、三国志の世界への没入感を大きく高めたといえるだろう。ただ、本シリーズには従来の形態を好むファンも多く、この大胆な変更は賛否両論を呼ぶこととなった。


●最新作は過去資産とトレンドの融合


 最新作である『真・三國無双ORIGINS』は、シリーズの伝統を守りながら新世代のゲーマーをひきつける要素を盛り込んでいる。注目すべきは、現代のゲームトレンドと過去作要素の融合だ。


 過去の試みとして上述した2つの要素、「一騎打ちシステム」と「立志モード」は最新作で時を越えて実装されている。特に「一騎討ちシステム」は、パリィ(相手の武器を弾いて防御し、カウンター攻撃などにつなげる要素)やシールド破壊といった新要素を加えて復活している。


 特に、パリィはフロムソフトウェア(東京都新宿区)の名作『デモンズソウル』をはじめとしたソウルシリーズ、米サッカーパンチプロダクションズの『ゴースト・オブ・ツシマ』、またコーエーテクモ社作品である『仁王』にも実装されている。これらは、近年のソロアクションゲームで人気の要素でもある。


 『真・三國無双 ORIGINS』のメインモードは、架空の武将を主人公として、三国志の世界を生きる物語を展開する形態である。これは、過去作でサブモードにもかかわらず人気を博した「立志モード」のDNAを受け継いでいる。


 プレーヤーの選択によって物語に分岐が生まれながらストーリーを進める形態もまた、近年のアクションRPGの主流の一つといえるだろう。


 メインモードに関して特筆すべきは、この「固定された主人公から見た三国志」という試みが、過去作品のストーリーモードで抱えていた課題の解決に繋がっていることだ。これまでのストーリーモードでは、武将ごと、あるいは勢力ごとの視点で別れていた。当然、ストーリーの数は膨大となる上、三国志の時代の一部を切り出したストーリー、という形態も少なくなかった。本作では黄巾の乱に始まり、所属勢力を変えつつも大河ドラマのような「一本のストーリー」として三国志の時代を体験できる仕組みとなっている。


 過去作品で実装されたものの、後継作品に継承されなかったこれらの要素が、最新のゲームトレンドを取り入れ復活したことは興味深い。この取り組みは、プレーヤーたちにどのような影響を及ぼすだろうか。


●新世代の開拓、歴史ゲームへの導き


 『真・三國無双 ORIGINS』の構成や追加された要素を見るに、30〜40代が中心の既存ファン層に加えて、20代以下のより若く近年のアクションゲームをプレーしている層の獲得も見越しているだろう。


 選択型のストーリー展開や、個人の物語に重点を置いた没入型の体験、ボスのアクションを観察し適切な対応を行う類の要素は、現代のゲーマーの嗜好に合わせた進化といえる。


 しかし、それは単なる長寿コンテンツの「モダナイズ」にはとどまらないはずだ。プレーヤーが追体験するのは、(フィクションかつエンタメに特化したとはいえ)「三国志」であり、歴史への関心を自然と喚起するだろう。


 また、過去作では所謂お笑い枠・ネタ枠とも言われた武将たちに対し、「一本のストーリー」の登場人物になるにあたり大きく「キャラ変」を行っている点も見過ごせない。


 特に序盤で登場する張角、董卓についてはキャラクター性が大きく変えられている。張角は困窮する人々を憂い理想と現実の差に葛藤しつつ蜂起した指導者として、董卓は狡猾且つ強かな武人として、過去作とは様変わりした描かれ方をされている。他の武将も同様に、例えるなら歴史ドラマのような、登場人物個々の魅力を引き立てる仕立てとなっている点は、本作で特筆するべき点である。


 何より、シリーズの根幹である「無双アクション」は健在だ。数百、数千の敵をなぎ倒す爽快感や戦場における一騎当千の活躍など、「無双」というジャンルを確立した要素は着実に継承されている。このバランスこそが、新世代を魅了しつつ歴史への興味を育む鍵となる。


●「歴史エンタメ」のゲートウェイに


 かつて、真・三國無双シリーズは、多くの若者を歴史ゲームの世界へと導く「ゲートウェイ」としての役割を果たしてきた。


 歴史を知らずとも楽しめる、爽快かつ派手なアクションゲームとして遊び始めた先には、三国志の英雄たちの生き様や時代を動かした戦いの意味を知る場が用意されている。そこから歴史小説や歴史漫画、更には三国志の正史や日本の戦国時代へと興味が広がり、より深い歴史への関心が育まれていく――。そんな、歴史エンタメコンテンツへの入口としての機能を、このシリーズは持ち続けてきた。


 現在の主力ユーザーである30〜40代には、そのような形でシリーズと出会い、同社の『三国志』や『信長の野望』をプレーし、日本史や世界史を履修したわけでもないのに歴史に詳しくなってしまった方も少なくないだろう。新たな世代においてもこの役割を発揮し、かつては一大ジャンルであった「歴史をエンタメとして楽しむ」文化を継承するきっかけになることだろう。


●次の四半世紀へ


 これまで述べてきたように、『真・三國無双 ORIGINS』は「長寿シリーズの新作」であることのみにとどまらず、新世代にとっての歴史ゲームへの入口となる可能性を秘めている。


 現代のゲーム性を取り入れながら、歴史への興味を自然に育む仕組みは、かつてのような歴史エンタメの「ゲートウェイ」機能の復活を予感させる。


 30〜40代のコアファンと新世代の架け橋となり、さらには歴史ゲームの新たな入口となれるか。四半世紀を生き抜いた真・三國無双シリーズの挑戦に期待したい。


●著者プロフィール:滑 健作(なめら けんさく) 


 株式会社野村総合研究所にて情報通信産業・サービス産業・コンテンツ産業を対象とした事業戦略・マーケティング戦略立案および実行支援に従事。


 またプロスポーツ・漫画・アニメ・ゲーム・映画など各種エンタテイメント産業に関する講演実績を持つ。



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