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米コロンビア大学などに所属する研究者らが2021年に発表した論文「Quantitative mapping of human hair greying and reversal in relation to life stress」は、白髪とストレスの関係や白髪から黒髪に戻る現象について分析した研究報告である。
研究チームは、14人(9〜65歳)の健康な参加者から397本の毛髪を収集し、それぞれの毛髪の色素沈着パターンを高精度でデジタル化して分析する新しい手法を開発した。この手法により、1本の毛髪の根元から毛先までの色の変化を256段階の濃度値として数値化することが可能となった。
分析の結果、これまで極めてまれな症例としてのみ報告されていた「白髪から黒髪への逆戻り現象」が、性別、年齢、人種を問わず起こりうることが判明した。この現象は、頭髪だけでなく、髭や陰毛などの体毛でも確認できた。毛髪の色の変化は非常に急速で、最も速い例では3〜7日で完全な色の変化が起こることを示した。
研究チームは白髪化のメカニズムを理解するため、毛髪のタンパク質を詳細に分析した。その結果、白髪では細胞のエネルギー代謝を担うミトコンドリア関連のタンパク質が顕著に増加していることが判明した。この発見は、白髪化が単なる色素(メラニン)の消失ではなく、積極的な代謝変化を伴う現象であることを示している。
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さらに注目すべき発見として、研究チームは白髪化と心理的ストレスの明確な関連性を示した。特に印象的な事例として、30歳のアジア人女性の毛髪を分析したところ、結婚生活の危機という強いストレスを経験した約2カ月間に完全な白髪化が起こり、ストレスが解消されると元の黒髪に戻るという現象を観察できた。
また35歳の男性のケースでは、2週間の休暇中にストレスレベルが最低値まで低下し、この期間中に頭部の異なる部位から採取した5本の白髪が同時期に黒髪へと戻る現象を観察した。
これらの知見に基づき、研究チームは白髪化のコンピュータシミュレーションモデルを開発。このモデルは、加齢に伴う通常の白髪化に加えて、ストレスによる一時的な白髪化とその可逆性を再現することに成功した。モデルによると、ストレスは特に「白髪化の閾値」に近い毛髪に影響を与え、ストレスの解消によって可逆的な変化が起こりうることを示した。
Source and Image Credits: Ayelet M RosenbergShannon RausserJunting RenEugene V MosharovGabriel SturmR Todd OgdenPurvi PatelRajesh Kumar SoniClay LacefieldDesmond J TobinRalf PausMartin Picard(2021)Quantitative mapping of human hair greying and reversal in relation to life stress eLife 10:e67437.
※ちょっと昔のInnovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。通常は新規性の高い科学論文を解説しているが、ここでは番外編として“ちょっと昔”に発表された個性的な科学論文を取り上げる。X: @shiropen2
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