「子どもを救いたい」 その思いと現実の狭間で 採用数の4割超が退職…“子どもを守り職員も守る” 児童相談所の挑戦を密着取材【news23】

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2025年01月25日 16:33  TBS NEWS DIG

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TBS NEWS DIG

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虐待を受けて危険な子どもを保護したり、保護した子どもを親元に帰す判断をしたりする児童相談所。子どもの命にもかかわる仕事ですが、全国で職員が疲弊し退職者が相次いでいます。子どもを守りさらに職員を守るには何が必要なのか。現場を取材しました。

【写真で見る】“児相”新人職員が相談員に打ち明けた悩み

『心配な物音がする』葛飾区児童相談所に通報

東京・葛飾区児童相談所。業務に支障が出ないよう、職員の顔を映さないことなどを条件に、開設後初めてメディアの取材に応じました。

「虐待の疑いがある」との情報が入ると、職員は48時間以内に子どもの安全を確認。危険と判断すれば、親から引き離し、子どもを守ります。

現場に向かうのはベテランの小林さん(仮名)と新人の杉本さん(仮名)です。

ベテラン職員 小林さん(仮名)
「『心配な物音がする』と通告があって、該当と思われる家庭にアポイント無しで、いきなり訪問します」

自転車で出発してから30分後、2人が帰ってきました。

ベテラン職員 小林さん(仮名)
「リスクはとても低いです。(物音は)生活音ではないかと判断しています。安全は確認できました。

新人職員 杉本さん(仮名)
「(Q.親に強めに言われることもある?)そうですね。『なんで来た』『お前らに何がわかる』と言われることもある」

問題は、虐待対応は毎年増えているのに、全国の児童相談所で職員が次々と辞めていることです。

同時に60〜70ケース担当 元職員「常に仕事でいっぱいいっぱい」

今年度、国は初めて虐待対応を担う児童福祉司の退職者数を公表しました。昨年度職場を去ったのは全国で270人。年間採用者の40%以上にあたる人数です。

元児童相談所職員A
「『虐待の疑いがある』ということで、日々押し寄せる通告件数の多さが重荷になっていたかと思います。心身ともに疲弊してしまって退職を考えました」

ーー児童相談所で何年働いた?
「のべ5年間です」

ーーQ.何人を同時に担当?
「60〜70ケースですかね。命に直結するようなケースが少なくなかったので常に気が張っていて、やらなければいけないことが浮かんで、即座にスケジュール手帳に追加して、仕事で“いっぱいいっぱい”でした」

ーーQ.手帳はどこに?
「枕元です。常に手帳を近くに置いてました。

(家庭)環境が改善されなかった時に、自分の無力さを感じて休日も起き上がれないような状況で退職を考えました。

自分の中で、辛いと思うことは何度もありましたけど、『周りも同じような思いをしている』と思うと、職場では(辛いと)言えないような感じでした」

「どっちがいいか分からない」相談できずに迫られる決断

元児童相談所職員B(20代)
「ずっとやりたかった仕事だったので、大変なのはとてもよくわかっていたんですけど。帰宅の時間が読めなかったりとか、実家に帰る日、スーツケースを持って駅に向かう時、急に連絡が来てとんぼ返りみたいなこともあったので。

もしも自分が子どもを産んで育てるという立場になった時に、自分の子どもを放置してしまうんじゃないか、この先ずっと長いこと勤めるのが難しいんじゃないかなというふうに」

「わからない」と思いながら決断することもあったといいます。

元児童相談所職員B(20代)
「(子どもを)自宅に帰すか、施設に入れるかの決断で、自分がうちに帰す決断をすることで、子どもの命まで脅かされてしまう可能性もあるので。正直、『分かんないよ、どっちがいいかなんて』と常に思っていた。

(職員)皆さん忙しいので、すぐに相談できなかったり。もっと人がいたらなって思うことは、常に常にありましたね」

国は今年度末までの2年間で児童福祉司を約1060人増やす計画を立てました。しかし、退職による減少が大きく影響し、増員は700人程度になる見通しです。

“高い評価”イギリスの児相「私達の仕事がいかに重要で素晴らしいか思い出して」

今、職員の退職防止はこども家庭庁にとって最大の課題の一つ。NPOと協力し、対策に動きました。

イベントを企画・主催 NPO「チャイボラ」 ⼤⼭遥 代表理事 
「今年から児童相談所の職員の確保やサポートも、こども家庭庁の補助のもとスタートしました」

イベントの講師は、児童福祉の先進国・イギリスで高い評価を受けている児童相談所の職員です。日本各地の児童相談所職員に伝えたのは…

イギリスの児童相談所職員
「私はこれまで何百人もの親子と出会いました。この仕事を辞めたいと思ったこともあります。でも、同僚や上司に打ち明けたら、みんな同じような気持ちになると安心させてくれました。

同僚と悲しみ、痛み、喜びや笑いを共有しましょう。お互いの長所や功績を褒めたたえましょう。苦労は多いですが、私達の仕事がいかに重要で素晴らしいか思い出してください」

“1人の子どもの家庭を救えた”…悩む新人職員に相談役が気づかせた「成功」

葛飾区児童相談所の新人職員・杉本さん(仮名)。仕事に悩み、眠れなくなったこともあります。 

新人職員 杉本さん(仮名)
「お子さん、保護者と話すのは、まだまだ慣れないところがあって、4月は寝れなくなったとか、2時間おきに起きていた」

葛飾区児童相談所では、職員の悩みを聞く専門スタッフが常駐しています。

杉本さん(仮名)
「お子さんのために動いてるつもりでも、『何で来るんですか』『なんで話す必要があるんですか』とか怒られたり。お子さんもなかなか話してくれないと八方ふさがりになって、自分の中でため込んで悩みがどんどん増えてしまう」

相談員は杉本さんに成長や、やりがいを気づかせていきます。

相談専門スタッフ
「最初は拒否的だったけど、変わってきた保護者はいますか?」

杉本さん(仮名)
「お子さんの安全を守るために何回も家庭訪問をしていたら、『そんなに私達のことを思うのなら』って連絡がとれるようになりました」

相談専門スタッフ
「成功した例はありますか?」

杉本さん(仮名)
「初めて助言・指導して、(家庭に)受け入れてもらって、嬉しかったんですよね。“自分が1人の子どもの家庭を変えた”ぐらいの気持ちで、出来たと思いました」

相談専門スタッフ
「大変さがあるから、背中合わせに達成感もあるんじゃないかな」

相談員は部屋で待つのではなく自分から職員に声をかけます。

葛飾区児童相談所で働く専門職は約100人。1年前の開始当初、相談員の利用者は月2人ほどでしたが、今は毎月約20人が悩みなどを相談しています。

葛飾区児童相談所 中林貴紀 所長
「ストレスで休職した職員や辞めた職員もいた。ただ今年度から途中でいなくなる方はほぼほぼ無くなった。
より良い相談対応のためには職場に定着してスキルを上げて、専門性を向上していくことが不可欠だと思います」

全国で働く児童相談所の職員たちの半数近くは勤務経験3年以下です。

新人職員 杉本さん(仮名)
「子どもたちの力になりたいという気持ちがあって、お子さんが過ごしやすい家庭環境を、どんな家庭でも作り出せるようにしていきたいなというふうに思っています」

児相職員「私たちを敵だと思わず、支援だと理解して」

上村彩子キャスター:
なぜ今回、児童相談所の職員を取材しようと思ったのでしょうか。

垣田友也ディレクター:
子どもを虐待から救うプロは児童相談所の職員で、専門的な知見もあり、強い権限も持っています。ただ、今まで児童相談所の現場を取材してきて中で、『現場で職員が疲弊している』『人を増やしたいけど、人は来なくてデスクだけが増えた』といった話も聞いてきました。

やはり子どもを虐待から救うためには、児童相談所の職員のサポートが大事なのではないかと思い取材にいたりました。

喜入友浩キャスター:
今回、取材した取り組みについて、現場からはどのような声がありましたか。

垣田ディレクター:
相談専門スタッフに関しては、実際に利用者が増えていますし歓迎の声も聞こえました。

ただ、これまで話を聞いた児童相談所の職員の中には、「辛いと言っていいと言われても、私達は辛いと言うのを何とかこらえている。辛いと言った途端、精神的に崩れてしまう」という人もいました。

実際、かなり難しい問題だと思いますが、特効薬はないわけです。ただ、虐待対応というのは日々たくさん押し寄せてくるので、試行錯誤しながらでも、改善のための取り組みを広げていく、続けていくことが大事なのではないかと思いました。

上村キャスター:
私達や社会ができることはどんなことでしょうか?

垣田ディレクター:
職員は「私達は家庭訪問に行きますが、敵だと思わないで欲しい」「私達は支援をしに行っているので理解してほしい」とよく言っています。

報道する側に関しては、虐待事件が起きた際に、「児童相談所は何をやっていたんだ」「何で救えなかったんだ」といったトーンの報道が増えると、その事件に関係した児童相談所だけでなく、他の全く関係ない児童相談所にも苦情や抗議の電話がたくさんかかってきて、仕事にならないということが起きているそうです。

私達はただ批判的な報道をするのではなく、どういう仕組みがあれば子どもを救えるのかといった建設的な報道が必要になってくるのではないかなと思います。

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<プロフィール>
news23 垣田友也ディレクター
児童虐待や子どもの貧困について取材
普段から虐待防止のシンボルカラー・オレンジを身につける

このニュースに関するつぶやき

  • 子供を産んでいる世帯が頭狂っているレベルの奴らがほとんどだから当然。少子化の原因は貧困じゃなく、こういう親を見て、優秀な人が産まなくなったから
    • イイネ!37
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