沖縄の高校野球が抱える県外流出問題に沖縄尚学・比嘉監督は「本音は残ってほしいなと思うけど...」

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2025年01月28日 10:20  webスポルティーバ

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群雄割拠〜沖縄高校野球の現在地(2)
県内屈指の人気校・沖縄尚学(前編)

 1月24日に発表された2025年のセンバツ出場校で、九州王者・沖縄尚学も順当に選出された。

「やっぱり沖尚(おきしょう)っていうブランドがあります。2024年に入学した1年生(新2年生)のピッチャーも、沖縄県のトップ5がみんな行っています。2年生(=新3年生)の野手にもすごい連中がいる」

 そう話したのは、九州大会準優勝校で同じくセンバツ出場を果たしたエナジックスポーツの神谷嘉宗監督だ。

 昨年夏、そのエナジックスポーツをはじめ、KBC、日本ウェルネス沖縄というカタカナ、アルファベット表記の高校が大躍進し、「沖縄高校球界の異変」という切り口の記事があふれた。

 だが結局、頂点を極めたのは老将・我喜屋優の率いる興南だった。県内最多の14回目となる甲子園に駒を進めている。

 一方、沖尚は夏の3回戦でエナジックスポーツにコールド負けを喫したが、秋は県大会、九州大会ともに決勝で同校に雪辱を果たした。

 はたして、沖縄球界に変化は生じているのか。昨年末、沖尚の比嘉公也監督に尋ねると、真っ先に口にしたのは、ある違和感だった。

【伝統校って呼ばれることに違和感】

「なぜか知らないけど、急に僕らが『伝統校』って言われるようになったと感じています。新鋭校という表現に対する、たとえだと思うんですけど......伝統校なのかな?」

 沖縄には、もっと由緒ある高校がある。1999年春、沖尚の背番号1をつけて県勢初の甲子園優勝を果たした比嘉監督はそう感じている。

「僕らが学生の頃って、沖縄水産がブランドでした。僕の1個上が新垣渚(元ソフトバンクなど)さんの時で、本当に強かったんですよ」

 当時、沖縄の高校野球をリードしていたのは、栽弘義監督の沖水(おきすい)だった。1990年夏に甲子園で県勢初の決勝に進出し、翌年夏も決勝進出を果たすなど、「沖縄高校野球の水準を飛躍的に高めた名将」と名を残している。

 それから数十年が経ち、高校野球は全国的に私立優位だ。沖縄も例に漏れない。

 比嘉監督は2006年に24歳で沖尚の監督に就任すると、2年後の2008年、エース東浜巨(現・ソフトバンク)を中心にセンバツ優勝に導いた。

 対して、我喜屋監督は56歳となった2007年から興南を率い、3年後の2010年にはトルネード左腕・島袋洋奨(現・興南コーチ)を擁し史上6校目の春夏連覇を飾っている。

 以降、沖縄の高校野球は二強がリードしてきた。少なくとも周囲がそう考えるなか、当人たちは互いをどう見ているのだろうか。

「最近の(いい)選手は沖尚に行くからね......」

 興南の我喜屋優監督はそう漏らした。沖尚は2024年秋の沖縄大会で150キロを計測した左腕・末吉良丞を筆頭に、田場典斗、大城諄來(じゅらい)、新垣有絃(ゆいと)と4人の1年生投手がベンチ入りした。周囲がうらやむのも当然だろう。

【周りの評価と現実とのギャップ】

 しかし、内実は周囲の見方と異なる場合も珍しくない。沖尚を率いる比嘉監督は反論する。

「2024年に入学した1年生が中学生の時、『今年は沖縄尚学に集まっている』って例年以上に言われていたんですよ。でも僕が見たら、正直『ん?』というレベルでした」

 たとえば、末吉は浦添市立仲西中学時代から「球の速いピッチャー」として知られたが、沖縄尚学は三顧の礼で迎えたわけではない。比嘉監督が続ける。

「中学時代に投げているのを、一度も見たことがないんです。『球の速いピッチャーが興南高校の近くの中学にいる』と聞いて、『左なら興南だろう』って勝手に思っていました。向こうが声をかけているだろうし、どのみちウチに来る可能性は低いだろうと思って見に行ってないんです(苦笑)。そうしたら本人が『沖縄尚学でやりたい』と希望しているということで、『ぜひ来てよ』と」

 1年生の夏から公式戦で活躍、昨年の明治神宮大会初戦で先発して才能の片鱗を見せた末吉は、センバツでも注目投手のひとりに挙げられるはずだ。

 球速の高速化が著しく進む昨今だが、1年生左腕が150キロを計測したインパクトは強い。その事実だけでも、周囲は「怪物」というイメージを浮かべるものだ。

 だが、比嘉監督は「その数字だけが先行している」と語る。

「速いと言えば速いけど、何とかなるボールだと思います。今はただ『ブン!』って投げているので、バッターは『このくらいのボールが来そう』と読めると思う。本人的にも、空振りがとれていないのは自覚しています」

 ラプソードでストレートを測ると、回転軸が10時の方向に傾いている。回転効率を高めるには、12時に近づけたほうがいい。末吉は腕の位置をトレーナーと試行錯誤しているが、比嘉監督は「しばらく見守る」という姿勢を貫いてきた。高校生には成長の波があり、現状の末吉は「停滞期」のなかで必死にもがいているように映るからだ。

「本人が『変わりたい、変わっていきたい』っていうのは伝わってきます。でも、変えなくていい部分もあると思うけど、人生って難しいじゃないですか。主体性が大事だけど、高校生たちには『とりあえず、これやっておいて』という強制の部分も必要だと思うんですね。でも、それをやりすぎて、『どうせ自分が考えたことは否定されて、これをさせられている』という印象にもなってほしくない。ちょうどいい、中間が難しいです」

【多くのプロ選手を輩出】

 沖縄の野球少年たちは、なぜ沖尚に憧れるのか。大きな理由のひとつは、選手が育っているからだろう。現役では東浜をはじめ、嶺井博希、リチャード(ともにソフトバンク)、與座海人(西武)、岡留英貴(阪神)らがプロの世界に羽ばたいている。

 2008年には、那覇市内の学校から車で約20分の八重瀬町に『尚学ボールパーク』が完成。以前は学校の狭いグラウンドで練習していたが、恵まれた環境で取り組めるようになった。

 文武両道を掲げる進学校というブランドイメージもあり、県内で沖尚の人気は根強い。それでも、有望な中学生の県外流出は増えるばかりだ。比嘉監督がその傾向を強く感じ始めたのは15年ほど前だった。

「興南の島袋洋奨たちが春夏連覇したあとから、県外に進む中学生が一気に増えたような印象があって......それまでもいたとは思うけど、『なんか、あれ?』みたいな感じですね。沖縄が注目されたのもあると思います」

 2008年春に沖縄尚学が9年ぶりのセンバツ優勝を飾ると、同年夏には現エナジックスポーツの神谷監督率いる浦添商業がベスト4進出。そして2010年には興南が春夏連覇を達成した。

 沖縄の子は運動能力に優れている──。

 巷でよく言われ、そう明言する学者もいる。県内出身の比嘉監督は懐疑的だが、プロ野球に目を向ければ山川穂高(ソフトバンク)や平良海馬(西武)、宮城大弥(オリックス)らが球界を代表する選手に成り上がった。

 反面、興南が2010年に春夏連覇を達成して以降、甲子園ではどこもベスト8の先に進めていない。2023年夏、優勝した慶應義塾に準々決勝で敗れた沖縄尚学の比嘉監督は吐露する。

「県全体のレベルが落ちている感じは正直します。東浜とか島袋がいた時の5年間ぐらいって、沖縄県は強かったと思います。県外に出ているのを言い訳にしたくないですけど、ちょっと落ちているのかなと思いますね」

 今や越境入学は当たり前だ。沖縄に限った話ではない。野球留学の是非は賛否両論あるなか、比嘉監督は複雑な思いを抱いている。

「本音は残ってほしいなと思うけど、進路選択はその子の自由なんで......。もっと言うと、僕ができたかっていうと、できないんで。本島に残ることはできたとしても、外に出て勝負しようなんて思わないし。出ていく子たちはそれなりの覚悟を持って行っていると思うので、それはすごいなと感じます。ただ本音としては、この小さい島に残ってやりたいなと思いますけどね」

 本州の最南・鹿児島県から約660キロ。沖縄はその文化だけでなく、野球の環境も独特だ。

 12月でも20度に達する日もあるくらい温暖で、キャンプ地に選ぶプロ球団が増えている。その恩恵で設備も整えられたことが、選手輩出につながっているという見方もある。だが冬の間は芝生の養生のため、球場を借りるのは難しい。

 本土の強豪校はライバルに手の内を隠すべく、同県との練習試合を避ける傾向にあるが、沖縄では県内同士でなければ実戦機会を設けるのは難しい。沖縄ならではのハンデがさまざまあるが、なんとか乗り越えたいと比嘉監督は工夫を凝らしている。

「そういう制約がある県だからこそ、『意識だけは全国に置こうぜ』っていう話はよくしますね。体つきや動きとかを見ることはできないけど、意識だけはしっかり持たないと行動が変わらないと思うので。『仮想全国』と、僕らはやっている。だから沖縄のチームが勝つって、すごく価値があることだと思うんですよね」

 2年ぶり8回目のセンバツへ。九州王者は郷土の誇りを胸に、全国の舞台で高みを目指す。

つづく>>

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  • スポーツの世界は特に(地域の団結)ってより、強豪ネームバリューのドナドナだものね、学生囲い込むための経営戦略だったりするもの、青春よいけど学び(教育)は?ってツッコミたい事だらけ
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