2月1日から“1400円”に値上げ…QBハウスは“1000円カット市場”で今や割高。勝負を左右する「価格以外の要素」

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2025年01月30日 09:20  日刊SPA!

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QB HOUSE 上野中央通り店 J_News_photo - stock.adobe.com
 中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。
“1000円カット”業態の最大手、QBハウスが2月1日にカット料金を1350円から1400円に値上げします。人件費の高騰などで価格改定を余義なくされ、今や価格はかつての1.4倍になりました。

 QBハウスはしばらく人材不足で店舗数は縮小していましたが、今期は増加へと転じる見込み。値上げとの相乗効果によって収益性が高まる未来も見えてきました。

◆2023年の需要急増とともに退職率が大幅に上昇

 QBハウスを運営するキュービーネットホールディングスにおける、2022年8月の国内店舗数は591で、2024年8月は561。2年ほどで30店舗の純減となりました。店舗縮小の主要因になっていたのが人材不足。

 キュービーネットは2023年6月期の国内正社員の退職率が10.6%となり、前期から2.2ポイント増加しました。しかもこの時期、コロナ禍からの経済の回復が鮮明になってヘアカット需要が急増。店舗の混雑状況が深刻化しました。一方、人員が不足していたためにカット席の総稼働席数が前年比で4%程度減少してしまったのです。

 人員不足による機会損失が生じていました。

 キュービーネットの退職率が増加した背景の一つに、理容師・美容師の賃金水準の上昇があるでしょう。厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によると、2023年の理容師・美容師の所定内給与額は30.5万円。所定内給与額とは、決まって支給された6月分の現金給与額から、残業手当などを差し引いたものです。2022年は25.9万円でした。1.2倍に急増したのです。

◆人員不足の解消を図るために…

 なお、全産業での上昇率は2.1%ほど。ヘアカットの需要増で理容師・美容師の市場価値が高まった様子がわかります。ある程度の技術力を持っている人にとって、好待遇の会社や店舗へと移るインセンティブが高まった時期でした。

 この時期のキュービーネットは戦略的な出店の抑制と退店を進め、ベースアップなどの待遇改善を行って課題解決を図りました。

◆店舗数は減少も、業績は堅調に推移

 店舗数が減少したキュービーネットですが、業績は堅調に推移していました。コロナ禍で集客に苦戦した2021年6月期以降は3期連続の増収。2025年6月期も3.9%の増収を計画しています。

 業績を支えていたのが値上げ。2022年3月にシニア価格1100円を終了。2023年4月に1200円から1350円に改定していました。今年2月1日には1400円なります。今回の値上げは今期の増収計画に大きく寄与するでしょう。

 2024年6月期の退職率は7.3%(前期は10.6%)に改善しました。正社員数は1696人から1810人に増加しています。価格改定で店舗の収益性は上がり、人材不足は解消されつつあるのです。

◆メインターゲット「中高年の男性」をどう掴むか

 キュービーネットは、店舗数の拡大へとアクセルを踏み始めました。今期の国内店舗は563から585へと増加する見込み。22店舗の純増です。

 ただし、度重なる値上げでQBハウスの価格競争力は薄れています。競合のサンキューカットは1300円(フランチャイズ店もあるため、一部店舗は価格が異なります)。カットファクトリーも店舗によって価格にはバラつきがあるものの、1200円から1300円が中心。クイックカットBBも同様です。1000円カットと呼ばれる市場において、今やQBハウスは割高になりました。

 低価格ヘアカットは、中高年の男性をメインターゲットにしています。この層の多くは、自宅から近い場所で、安く、分かりやすい料金でサービスを受けることを特に重視しているためです。

 QBハウスは今期から出店攻勢を強めようとしていますが、それによって競合店とエリア被りが生じた場合、メインターゲットは安い店に流れる可能性が高いことを示唆しています。

◆「電子カットカルテ」で仕上がりをコントロール

 QBハウスは価格以外の要素で差別化を図らなければならず、その種まきはすでに行っています。その一つが質の均一化。

 低価格ヘアカットチェーンを複数回利用した際、同じブランドでも店舗によってサービスや技術にバラつきがあると感じた人は多いかもしれません。これは担当者が異なるので当然ではありますが、利用者側からするとブランドの信頼感が下がる要因になります。

 QBハウスは2021年に「QB Passport」を開始しました。これは店舗の予約や決済ができるアプリですが、機能の中に電子カットカルテがあります。これは、いつものヘアスタイルをアプリ内に登録できるというもの。担当者は顧客からの抽象的な指示に従うのではなく、仕上がりをイメージしながら仕事ができます。会社にとっては質をコントロールできるのです。

 また、顧客はどの店舗でも「いつもの」という感覚で注文ができます。男性はヘアカットのオーダーが苦手だと感じる人が多く、ターゲットにフィットしたサービスだと言えるでしょう。

 国勢調査によると、全国の理美容業に従事する人の平均年齢は61.4歳。個人店が多いうえに高齢化が進んでいるため、中高年の男性の馴染みの店が中長期的に消失することは避けられません。今後、QBハウスはその需要を獲得することになるでしょう。

 サービス力を上げることができれば、常連客の獲得に弾みをつけることができます。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界

このニュースに関するつぶやき

  • カットだけで1400は高い、それなら普通の散髪屋行くわ。2000円前後出したらシャンプーと顔剃り付きだし。
    • イイネ!4
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