興南・我喜屋優監督が危惧する高校野球の未来 「地域の人から愛されるという高校野球の姿が崩れつつある」

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2025年01月31日 07:10  webスポルティーバ

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群雄割拠〜沖縄高校野球の現在地(3)
興南・我喜屋優監督インタビュー(前編)

 2024年夏の高校野球沖縄大会でベスト4にエナジックスポーツ、KBC、日本ウェルネス沖縄と新鋭校が躍進するなか、最後の壁として立ちはだかり、県勢最多の14回目の甲子園に出場したのが興南だった。

 2010年には甲子園で史上6校目の春夏連覇、沖縄勢では史上初の夏の全国優勝を達成。現在74歳になった我喜屋優監督に、沖縄の高校野球の現在地はどう映っているのだろうか。

【野球部の進路先を公表すればいい】

── 昨夏の甲子園出場時、ある取材での「野球しかしていない高校生の将来は、誰が保証するのでしょうか」という発言が波紋を呼びました。

我喜屋 エナジックさんには、僕の心が100%伝わっていないような話もあるけど......向こうは向こうのやり方があると思うのですが、なんと言っていましたか?

── 受験科目を学ぶだけでなく、工業高校や商業高校ならではの文武両道の形もあり、エナジックスポーツも体育科としてそれを行なっていると神谷嘉宗監督は話していました。「野球バカをつくる気はない」というのは、我喜屋監督の考えと根底は一緒だろうと思います。

我喜屋 高校野球は3年間で終わりだけど、人生は一生続きます。野球を通してその道をつくっているだけの話なわけです。ただ商業高校や工業高校であっても、(県立なら)6時間目まで授業をしているわけですよね。体育科もそう。それは国から「最低でもこれをやりなさいよ」と定められたカリキュラムがあるから。

 僕は6時間目まで授業を受けるのが、高校生の基本だと思っている。興南にもスポーツコースがあった時期もあったんですよ。だけど3年生は夏の大会が終わったら、5、6時間目の時に何もすることがない。ゆるゆると遊んでいる姿を見て、(スポーツコースは)取っ払ったんです。

── それでは高校生の将来に役立たないと?

我喜屋 そう。高校でスポーツばかりやっても、みんなが将来、スポーツをやるわけじゃない。高校で野球を断念する者もいるし、医者になる者、会計士になる者もいる。そういう準備のための高校3年間。野球は、放課後の午後4時半から。短い時間のなかで、野球と将来の準備をする。あまり偏るとね。

 文武両道という言葉はすばらしいと思う。それを無視すると、高校生活が終わったあとに「あの子はどうしてんのかな?」となる。そうならないためにも、それぞれの学校が野球部員の進路先を公表すれば一番いいんです。そうすることによって、中学生に「野球バカではダメだな。この学校に行こう」って選択肢ができる。

── 「野球バカではダメ」というのは、多くの指導者に共通しているように感じます。

我喜屋 昔は沖縄も知念や那覇、首里、嘉手納とか、公立校がけっこう甲子園に行きました。あるいは興南みたいに私立でも遜色ない戦いが続いた時代があったけど、今は違う。全国を見ても大阪桐蔭さんには地元の子がほとんどいないし、健大高崎、山梨学院、あるいは敦賀気比もそう。テレビ中継の解説で行ってメンバー表を見た時、「なんだこれは」ってね。これでは地元から愛される"おらがチーム"になってないなと。これが高校野球の衰退につながっているのかなと。

【あの特待生問題は何だったの?】

── 昨今は公立の甲子園出場が難しくなり、部員不足に悩むチームも増えています。

我喜屋 沖縄でも今、公立に選手が足りないとか、特定の学校だけが強くなっている。甲子園も公立の出場校が中心で第1回大会が始まったのに、今は逆転している(※第1回大会は出場10校のうち、私立は早稲田実業のみ)。日本高野連に思うのは、野球界全体の問題に発展してきているよ、と。このままでは本当に人気がなくなるよ、スタンドが埋まらなくなるよ、ということです。

── 2010年代の甲子園大会は80万人台の総観客数をキープしていましたが、昨夏は67万800人でした。

我喜屋 沖縄もそう。高校野球は一般の生徒がたくさん応援に来て、初めて活気あるスタンドの風景になる。それが特別なチームだけ、ましてや生徒数が少なくて野球部ばかりの学校とかスポーツ中心の学校になると、スタンドを見ればわかるんですよ。学校関係者しか来てないな、とか。

── 部員数や観客数の減少、甲子園出場校の固定化など高校野球は課題山積ですが、どうすればいいと思いますか。

我喜屋 昔の佐伯達夫先生(1967年〜80年日本高野連会長)みたいに「学生野球はこうだ」と、野球部は学校の見本にならなきゃダメ。もちろん授業もちゃんと受けて、一般生徒との交流も深めて、地域の人から愛されるという高校野球の姿が崩れつつあるので、(日本高野連は)それを元に戻す努力をしてほしい。

── 日本高野連のあり方に問題があると?

我喜屋 本当の高校野球、学生野球憲章を高野連が見直していかないと、「あの特待生問題は何だったの?」となる(※2007年に授業料免除など、過剰な特典を与えられた特待生が多数いると発覚した問題)。寮費をタダにするのはいいのか? (規定で)いいなら、それでいいんですよ。そうでなければ、守っている学校には不平等じゃないの? あれだけ平等性を求めて、12月から3月まで対外試合禁止とやるけれども、もっと深くちゃんと掘り下げないと、本当に僕は高校野球がダメになると思っています。

── 日本高野連は昨年、学生野球憲章の改正案を策定するとし、意見を公募しました。たとえば、学生の商業利用に関して「考え方が古すぎる」という声もありますが、どう思いますか?

我喜屋 学生野球憲章は、本当は純粋なんですよ。特にお金が動くようなことはいっさいさせない。物品を与えて選手を勧誘したらダメ、とかね。いろんな意味で厳しく、あるいは将来の学生のためにというのが発祥だったはずなのに、オリンピックと一緒で商業ベースになって、全国から選手を集めている。食材で言えば、ウニ、アワビが多くなっちゃって。

つづく>>

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