ラミちゃんに聞く「低迷したチームの立て直し方」 野球に学ぶチームビルディングの肝は?

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2025年02月01日 19:01  ITmedia ビジネスオンライン

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6億人市場・中南米で「新たな挑戦」をするアレックス・ラミレス氏(武田信晃撮影)

 外国人野球選手として初の2000本安打を記録し、横浜DeNAベイスターズの監督を務めたアレックス・ラミレス氏。2019年に日本国籍を取得し、2023年に野球殿堂入りを果たした。


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 同氏は2024年5月、中南米の国際大会「カリビアンシリーズ」に参戦するためにJAPAN BREEZE社を設立。「日本の野球をカリブ海へ」をテーマにする同社の代表を務めるほか、2025年2月にメキシコで開催される同大会に出場する日本チーム「ジャパンブリーズ」の監督を兼任する。選抜メンバーには、元メジャーリーガーで、現在はBCリーグの栃木ゴールデンブレーブスに所属するムネリンこと川﨑宗則選手も入った。


 ジャパンブリーズの初戦は2月2日午前6時ころ、楽天グループが運営する無料のリニア型動画配信サービス「Rチャンネル」で独占ライブ配信する。


 ラミレス氏が横浜DeNAベイスターズの監督を務めた際には、シーズン144試合という長丁場を戦った。一方カリビアンシリーズは、約1週間という短期決戦だ。しかも開催地はメキシコ。この短期間でいかにしてチーム作りを進めたのか。監督は低迷した際にチームをどのように立て直せばいいのか? ラミちゃんのマネジメント論を聞いた。


●ラミレス監督「スキップしてはいけない」 基礎を形成する短期目標


 創立が1949年と75年の歴史を誇る「カリビアンシリーズ」。ウィンターリーグが開催されているベネズエラ、メキシコ、プエルトリコ、ドミニカによって組織運営されているリーグだ。コロンビア、パナマ、キュラソー、ニカラグア、キューバ(キューバ革命以前はカリビアンシリーズの正式メンバー)などが参加。中南米ナンバーワンを決める権威ある大会だ。この大会に今回、初めて日本が招かれた。


 中南米の野球は、日本人にはなじみがないかもしれない。だがWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)を振り返れば分かるように、キューバ、ドミニカ、プエルトリコなどは強豪で、日本のベストメンバーが出ても簡単に勝てる相手ではないのだ。


 ラミレス監督はジャパンブリーズを結成するにあたり、最初に長期目標を立てた。その後、長期目標を実現するための短期的な目標を立てたという。長期と短期の2つの目標が選手を導きものであり、強いチームを作り上げる上で必要なのだと説く。


 「多くの人は目先の目標達成に目が行きがちです。ただ実は、先に長期的な目標を立てることがもっと大切なのです。例えば起業すれば、何十年先まで続く会社を作ることになりますよね? そして短期目標を達成するための一つ一つのプロセスは、組織の基礎となっていくものですから、絶対に飛ばしてはいけません」


 ジャパンブリーズは、基本的に関東地方5県と福島県、山梨県、長野県を活動地域とする日本のプロ野球の独立リーグであるBCリーグ(ベースボール・チャレンジ・リーグ)を中心に、四国アイランドリーグPlus、九州アジアリーグ、北海道フロンティアリーグなど独立リーグでプレーする選手を中心に構成する。ラミレス監督は、現地を視察したり、リーグ戦でのデータや映像を見たりして選手を選抜した。運動能力に優れた選手だけでなく「チームに貢献してくれる選手」という観点も必要になるという。


 カリビアンシリーズにおけるジャパンブリーズの長期目標は何なのか。そのための短期目標として、今回はどのぐらいの成績をあげたいと考えているのか。


 「長期的には優勝を目指しています。今は、今年のカリビアンシリーズに向けたチーム作りをしていますが、初参加ということで、実際に何が起こるかは“神のみぞ知る”です。ただ2024年12月にベネズエラ遠征を経験してもらうことによって、選手のアップグレードができました。短期的に見れば今大会は1勝か2勝できれば素晴らしいと思います」 


 できれば、次の大会以降も参戦したいと考えているという。それを実現できるかどうかは、今大会で一定程度の好成績を残せるかどうかがポイントになる。


●短期決戦での結果は「監督6:選手4」 理由は?


 日本人選手が外国で良いパフォーマンスを出すために、監督は何をできるのか? ラミレス監督は「戦略づくりが非常に重要」だと話す。「戦略がなければ選手のポテンシャルを引き出せないからです。選手をうまい形でプッシュして、能力を最大限に引き出すことが監督の仕事なのです」


 ベネズエラ遠征では、ベネズエラのオールスターチームと対戦した。相手選手の80%はMLB(メジャーリーグベースボール)の経験者で、ラミレス監督によると「10対0」で負けてもおかしくない戦力差だったという。しかし実際には、3対1の惜敗に終わった。


 「現地のメディアに『(日本の)どんな野球を見せたいですか?』と聞かれて『スピードです』と答えました。私たちにはパワーはない。ただアジリティ(敏しょう性)で(他国よりも)優れているので、それを生かした戦略を組んだのです。『それがジャパンブリーズの野球です』と話しました」


 日本人は敏しょう性に優れていると、いろいろなスポーツで言われている。それは野球でも同様だ。一方で、日本人特有の懸念点もあるという。


 「日本人は準備やルーティーンをしっかりやります。その一方で、自分の持っているもの以上を出そうとする場合(特に短期決戦は1試合1試合、ベストでなければいけないので)ナーバスやパニックになって、やるべきことを忘れてしまう傾向があるのです。どんなときでも自分自身をしっかり出し切れるかどうかが肝要です。その点、日本の野球や文化は(他の国からすると)独特です」


 数カ月は掛かる日本のプロ野球のような長丁場と、カリビアンシリーズという短期決戦では戦い方がまるで違う。マネジメントの部分で何を変えるべきなのかを聞くと「根本的な野球観は変わらない」と話す。その上で、結果を出すには「トップの決断力がより重要」だと強調した。


 「長丁場の日本のレギュラーシーズンでは将来を見据えて、すぐに結果を出せない選手でも我慢して起用し続ければ、状態も上向きになり、結果も上向くこともあります。一方カリビアンシリーズは短期決戦なので、負けると“明日はない”状況に近くなります。つまりカリビアンシリーズでは、選手交代について『我慢をしてはいけない』と考えています」


 試合では、打順の組み方、盗塁なのかランエンドヒットなのか、投手の継投など監督の判断が求められるシーンは多い。そのような背景から「短期決戦での結果の比重は、監督の能力が6、選手が4」だとした。


●イチロー氏、松井秀喜氏に対するラミレス監督の意見


 2024年12月に放送したドキュメンタリー番組「情熱大陸」(MBS・TBS系)では、イチロー氏と松井秀喜氏が対談し「MLBでのデータ重視の野球は、観戦していて面白くない」と話していた。イチローは、一つ一つのプレーについてデータに頼るあまりに、選手が自分の頭で物事を考えなくなることによって、感性が失われることを危惧している。この話をラミレス監督にぶつけると「私は以前から8割がデータで、2割がフィーリングだと言ってきました」と話す。


 「私もイチローさんが言っている意味はよく理解できます。確かに、考えなくなる面はあるのかもしれません。ただ『数字がこう言っているのであれば、それを信じてやる』というのが私の信念です」


 その上で、データを解析する力、読み解く人間の能力が必要になってくると強調した。「数字というデータを調べること自体が、その人が自らの頭でいろいろと考えている証拠ですから」と話す。


 「そのうちAIが、今日の相手投手を分析して打順を決めるようになるかもしれませんね」と笑う。それは選手にも、究極の二者択一を突き付けるかもしれない。「野球を含めたどのスポーツも進化していますよね。AIを絡めた進化に対して、がんばってその流れについていくのか。それとも野球を諦めるのか。二つに一つになっていくでしょう」


 その流れは、監督の立ち位置にも変化を与えるという。「AIは人間ではないですし、野球をプレーするわけでもありません。ただAIは、人間よりも大量のデータを分析できます。そうなると、AIと人間との間での“交渉の余地”はないでしょう。やがて監督は『スーパーバイザー』という立ち位置に変わると思います」


 「データ野球は、野球の面白さや醍醐味からかけ離れ、勝負に徹することでチームの価値を高めていきます。よりビジネスの方に走っている印象です。利益のためならルールも変えていくし、AIもどんどん使っていく。その流れは止められません」


 ビジネス重視の状況については「仕方ない」と話す。「それがトレンドですから。このMLBのデータ重視の波は、いずれ日本にもやってきます。現実的に米国では、さまざまなルールが変わっていますから。日本が、その流れを拒否できるかどうか。大きな課題でしょう」


●資金集めに奔走 Rチャンネルで独占ライブ配信が決定


 ラミレス監督は、ジャパンブリーズの経営にも関与する。特にスポンサーを中心とした資金集めには、苦労したようだ。「正直、とても大変でした。テレビ放送の可能性も探ったのですが、世の中ではまだまだカリビアンシリーズの認知度が低いため、現状(1月11日のインタビュー時点)では決まっていません。そうなると、スポンサーを探すハードルも上がります」


 その後1月31日に、Rチャンネルでジャパンブリーズ戦の独占ライブ配信が発表された。「経営者ラミレス」が、最後の最後まで粘った跡が見える。自らのYouTubeチャンネルでも宣伝したクラウドファンディングについては、目標金額(300万円)の76%にとどまる結果に。「選手のためにという気持ちでやっていたんですが、初めてということもあり、うまくいかないところはあったかなとは思います」


 長期目標を達成するには、まずは今回のカリビアンシリーズで結果を出し、チームの知名度を上げるしかない。「その通りです、選手が素晴らしいパフォーマンスを見せてくれればSNSなどを通じて広がる可能性もあります。注目されるようになれば、興味を持つスポンサーがもっと出てくると思っています」


 日本人選手には、中南米で野球をプレーするという発想がほとんどない。「日本の独立リーグの選手が、セカンドキャリアとして、中南米のチームと契約して活躍すれば、最終的にはカリビアンシリーズもより魅力的なコンテンツになり得ます」


●“ラミちゃん流”マネジメントは「基本に忠実」


 ラミレス監督はチーム作りにおいて、長期目標を設定しつつ、そこに向かうための小さな目標を一つ一つ設定する。その際に「一つ一つのプロセスを飛ばしてはいけない」と語った。地味な練習や作業を一つ一つこなす基礎固めこそが、成功への近道だと教えてくれる。 


 一方、データやAIを積極的に活用する姿勢も持つ。時流もしっかりと捉えているのだ。つまり彼は「やるべきことをやり」「活用するべきものは活用する」という奇をてらわない基本に沿ったチーム作りをしている。あとはマネジメントにおいて、上に立つ者が、その基本をしっかり部下に遂行させることができるのか。そこがキーとなる。


 チームが結果を出せずに低迷した際、今までにない斬新な施策を考え、実行しようと考えるマネジャーも少なくないだろう。ただ、ラミレス監督に倣えば、まずは長期目標を設定してメンバーにその意味をいきわたらせる。その次に、現実的な短期目標を設定することで、やるべきことを実行させるのが“ラミちゃん流”のマネジメント手法のようだ。カリビアンシリーズで、その手法がどこまで通用するか。


(武田信晃,、アイティメディア今野大一)



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