「血糖値が高い」は気になるが「低い」はどうだろうか?中年期からの女性は低血糖に注意。命にかかわります」と管理栄養士の岡城美雪さん。眠気や不安感が強く、身体の疲れが取れない、は低血糖が引き起こす症状でもあり、絶対に見過ごしてはいけないという。
血糖値の乱れが不調の原因に
「病院に行っても病気は見つからないのに身体の調子が悪い、元気が出ない。日頃から眠気やイライラ、不安感に襲われる……などの症状に悩んでいる人は、かくれ低血糖に陥っているかもしれません」
と話すのは管理栄養士の岡城美雪さん。かくれ低血糖とは一体何なのか?
「通常、血糖値は食事をすると徐々に上がっていきます。身体はそれを元の状態に戻すため、インスリンホルモンを出します。しかし糖質ばかりの食事をとると、血糖値が急上昇してインスリンが大量に分泌されます。すると、今度は血糖値が必要以上に下がって低血糖が起こるのです。低血糖になると身体のエネルギーが不足して、脳や自律神経が反応し、さまざまな不調を引き起こします。こうして気づかぬうちに低血糖に陥って不調に悩まされている状態を”かくれ低血糖”と呼びます」(岡城さん、以下同)
糖質を多くとる人は糖尿病など、高血糖のリスクばかりを心配しがち。もちろん高血糖は健康に害をもたらすが、かくれ低血糖も長期間繰り返されればエネルギー代謝が回りにくくなり、自律神経のバランスが乱れてさまざまな不調の原因に。では、低血糖になると、どのような症状が起こるのか。
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「よくあるのが食後の眠気、頭痛やだるさ、疲労感など。血糖値が下がりやすい夕方にカフェインや甘いものが欲しくなる、ソファで寝落ちしてしまう、血糖値が下がりやすい夜中に目が覚める、トイレで起きるなども典型的な症状です。また不安感やイライラなど、理由のないネガティブ感情に襲われることも。中高年女性の場合、こうした低血糖による精神面の不調を更年期障害によるものと勘違いする人も多いんです」
さまざまな不調をもたらす低血糖だが、原因の多くは特定の食習慣や生活習慣にあるという。
「多いのが糖質のとりすぎで、インスリンが過剰に分泌されること。特に外食で丼ものや麺など糖質ばかりの食事を頻繁にとる人は要注意です。逆にダイエット目的の極端な糖質制限も原因になります。糖質制限は肝臓が元気で筋肉がしっかりある人、普段からタンパク質を十分に消化できる人でない限り、血糖値を維持できずに不調を引き起こします」
また、朝食など食事を抜く習慣がある人も注意したい。
「特に朝は肝臓にたまっている糖の貯金がないため、糖質をとらないと元気が出ず、日中のパフォーマンスが低下します。また朝食の代わりにコーヒーを飲む人もいますが、エネルギー不足の身体を無理やり動かそうとして疲れやすくなり、より低血糖に陥ってしまうため避けてください」
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ほかにも偏った食事や睡眠不足、運動不足、ストレスなどで内臓の機能が低下したり、自律神経やホルモンバランスが乱れたりして血糖値が下がってしまうことも。
「夜のアルコールも要注意。アルコールをとると血糖値が下がりやすくなり、糖質の多い食べ物を美味しく感じるなど食の乱れを引き起こします。飲酒後にラーメンが食べたくなるのもそのせい。また意外なのが、寝る前のスマホ習慣。スマホのブルーライトは、入眠時に血糖値を上げてくれる成長ホルモンの分泌を妨げるため、睡眠中に低血糖になり、睡眠の質の低下や翌朝の不調を招きます」
食間のおやつで血糖値を安定させる
では、かくれ低血糖を防ぐにはどうすればいいのか。
「まず、食べすぎや早食いは血糖値の乱れを引き起こすので、腹八分目を心がけ、ひと口30回を目安によく噛んで食べてください。ただし、かくれ低血糖の人は食欲を理性で止めるのが難しいので、食間におやつを食べるのがおすすめ。朝食と昼食の間や夕食前の夕方、夕飯の時間が早い人は寝る前に糖質を少しとること。血糖値が乱れにくくなり、早食いや食べすぎの予防につながります」
おすすめのおやつは、血糖値の上昇がゆるやかな干し芋、甘栗など、でんぷん質の食材だ。
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「甘栗なら1回に2〜3個をよく噛んで食べること。またゴルフボール大のおにぎりや、100パーセントフルーツジュースを少しずつ飲むのもあり。ただし、肝臓に負担をかけるブドウ糖果糖液糖が入ったジュース類や、糖質の多い炭酸飲料は避けてください。とはいえ、0カロリー飲料もNG。脳は糖分をとったと認識しても血糖値は上がらないため混乱が生じ、結局血糖値の乱れを引き起こし、甘いものが欲しくなります」
食事では、タンパク質の多いおかずから食べるのも有効だ。
「血糖値の上昇を防ぐ目的で野菜から食べるベジファーストが推奨されていますが、少量だと食物繊維はほとんどとれない上に、ドレッシングの糖質で血糖値が上昇し、低血糖を引き起こします。タンパク質を先に食べることで、血糖値が急上昇しにくくなるため、ひと口目はおかずを食べることをおすすめします」
かくれ低血糖の症状が思い当たる人はこれらの予防策を試してほしいが、リラックスして過ごすことも血糖値の安定には欠かせないという。
「血糖値は緊張によっても上がるため、かくれ低血糖が疑われる場合は心身をゆっくり休める時間を持つことが大事。せっかちな人は常に身体が緊張状態で、食事を変えても血糖値が安定しにくいんです。日常の中で特に食事の時間など、リラックスすることを心がけてみてくださいね」
健康医診断がA判定でも油断できない低血糖
低血糖に関する認識は低く自覚がない人がほとんど。
「一番の要因となっているのが、健康診断を受けても指摘されないこと。低血糖は血糖値が一時的に下がりすぎるだけで、正常値に戻ってしまうことがあります。そのため、A判定でも実際には栄養状態によって代謝がうまく回らず、血糖値が下がってしまっている人が少なくありません。医師から”中性脂肪が低めだが問題なし”と診断された場合は注意。中性脂肪が80mg/dL以下なら低血糖を疑いましょう」
岡城美雪さん
管理栄養士。株式会社My Wellness代表取締役。管理栄養士として2000人以上の指導実績を持つ。現在は、血糖コントロールのセミナーや東京メトロ車内コンテンツの『美人のヒミツ!』監修など、活躍中。著書には『かくれ低血糖との付き合い方』(あさ出版)や『これだけ!脱うつごはん』(Gakken)などがある。