中井卓大(21歳)が、スペイン4部リーグ、ラージョ・カンタブリアに移籍することが発表された。
今シーズンは、レアル・マドリードから3部アモレビエタにレンタルされていたが、最近は出場機会が激減。2部ラシン・サンタンデールのBチームに当たるカンタブリアへ、再びレンタルで新天地を求めることになった。
「ラシンは初めての日本人選手と契約した。4部カンタブリアの補強だが......」
現地メディア、『Racinguismo.com』 はそう伝え、こう続けた。
「(中井は)レアル・マドリードではポジションを得られなかったが、セルヒオ・アリーバス、カルロス・ドトール、テオ・ジダンなど競争が激しく......中井とマドリード時代のチームメイトであるフレン・ジョンは有名なフレン・ゲレーロの息子で、ゲレーロ監督が率いるアモレビエタへ橋渡しをしてもらった。しかし監督解任後は戦力外になっていた」
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そんな事情も説明しながら、中井のインスタグラムの登録者が15万7000人で、ラシンの登録者よりも多いことを紹介、レアル・マドリードと契約したことで、スター視されたことも加えている。背景も把握しているし、理解度と注目度の高さが伝わってくる。
「レアル・マドリードに日本人選手が誕生!?」
かつて、その夢を背負った若者は新天地で殻を破れるのか。
2013年、中井は9歳でレアル・マドリードに見初められた。その後、下部組織への入団が決定。以来、順調にジュニア、ユース年代を駆け上がってきた。
2022年4月には、中井は「将来を背負う逸材」として、世界の注目を浴びている。ラウル・ゴンサレス監督が率いるチームで、スペインユース国王杯決勝の延長戦で決勝点を記録。もともとボール技術の高さやセンスは評価されていたが、「常勝」を重んじるクラブでは勝負を決められる力量が何よりも注目された。
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ユース年代での実績は満点に近い。ラウルに愛され、トップチームのジネディーヌ・ジダン、カルロ・アンチェロッティが視察に来るほどだった。小柄だったが、次第に身長も伸びて180センチを超えた。2022−23シーズンからは3部カスティージャ(レアル・マドリードのBチーム)でプロ選手として活躍が期待されていた......。
【久保建英の同僚も4部出身】
プロ1年目は、シーズン合計で5分間の出場に終わった。ケガではなく、力不足だった。フィジカル面の強度が足りず、プロの世界で技術を出せない。ライバルに差をつけられ、舞台にさえ立てなかった。
そこで2023−24シーズン、中井は3部ラージョ・マハダオンダに期限付き移籍で武者修行へ。しかしチームは最下位で降格し、出場時間はたった581分だった。19試合出場だが、先発はわずか5試合で、フル出場はなし。ボランチ、トップ下、サイドアタッカーなどで起用されたが、ポジションが見つからなかった。ボランチでは守備が弱く、トップ下では強度の高いゾーンで負け、サイドではスピードが足りなかったのだ。
「とてもうまいし、エレガントだが、プロで戦う体ではない」
チーム内から聞こえてきた話は、カスティージャ時代と符合していた。
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今シーズンはアモレビエタで挑戦することになった。昨シーズンまで2部で、スペイン最高のファンタジスタだったゲレーロ監督の存在もあり、「本領発揮か」と楽観的な観測もあったが、期待外れに終わった。チームは開幕から不振で、降格ゾーンへ。監督解任で、中井も見切りをつけられる形になった。
つまり、現時点で中井は「3部でも通用しない」というレッテルが張られている。
では、4部は行く価値がないリーグなのか?
まず、スペイン、ラ・リーガは日本のJリーグと仕組みも厚みもまったく違う。1部、2部はほとんど同じチーム数だが、ラ・リーガの3部は20チーム×2で計40チーム、4部は18チーム×5で90チーム(ちなみに5部は18チーム×18になる)。各地域で多くのチームがしのぎを削り、その競争のなかから選手は這い上がって来る構図で、この裾野の広さこそ、ラ・リーガの強さの秘密だ。
そしてチーム数の多さは、育成面の強さにつながっている。
4部には、1部チームのBチームや、Cチーム、2部チームのBチームが所属している。たとえばエスパニョールB、アラベスB、レアル・ソシエダC、サラゴサBなどが所属している。レアル・ソシエダで久保建英とプレーするマルティン・スビメンディ、ベニャト・トゥリエンテス、ジョン・パチェコ、アンデル・オラサガスティも、4部で場数を踏んだ後、3部、2部で成熟しているのだ。
欧州では21歳までがユースと定義されるだけに、中井にとっては"最後のチャンス"と言ったところか。
トップチームであるラシンは現在、2部で首位に立つ。もしBチームであるカンタブリアで活躍することができたら、一気に1部も視野に入ることになる。レアル・マドリードとの契約は今年6月末までだが、中井次第で道は開けるはずだ。
「白いユニフォームを身にまとった選手は最後まで力強く戦い抜き、勝者のメンタリティを持つ」
それはレアル・マドリードの育成選手のブランドだが、岐路に立つ今、中井は真価が問われる。プロのタフさに慣れて、持ち前のスキルやビジョンを出せるようになったら......。
「Jリーグ復帰」を短絡的に求める声もあるが、3部でもくすぶっているようでは、日本で活躍できる保証もない。また、たとえJリーグで活躍できたとしても、ラ・リーガで感じる愉悦には比べるべくもないだろう。
少なくとも、新天地には人生を大きく転換させる機会が転がっているのだ。