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ネイマール古巣復帰の真実(後編)
ネイマールの月の報酬100万レアル(約2600万円)――サントスがネイマールを獲得するための資金がどこから来たものなのかは、部外者の私たちには知る由もない。だが、財政難に陥っているサントス自体でないことは明白だ。そうなると、考えられるのはスポンサーの存在。誰かがサントスに金を出す。それはサウジアラビアかもしれないし、もしかしたらネイマール自身かもしれない。突飛な発想かもしれないが、その根拠はある。
ブラジルのクラブチームは長い間、会員が運営する非営利団体であった。しかし、近年の各クラブの財政難を受け、2021年に法改正され、SAF(営利企業)へと形を変えられることになった。すでに多くのクラブがSAFとなり、外部から資本を入れられるようになっている。サントスも現在この形態に移行中だ。
ここでまた新たな事実が浮かび上がる。サントスのSAF化にネイマールの父が関わっているということだ。
サントスのマルセロ・テイシェイラ会長は、サントスがSAFになった場合、彼のファミリーが世襲のオーナーになることを願っているが(現在の会長職は会員の投票で決まる)、そのための一番の障害は財源だった。テイシェイラは、「ネイマール・シニアが投資家との交渉の仲介役を務めることを望む」と明言している。特に期待しているのは、彼が持つアラブ世界との太いパイプであることは言うまでもない。
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サウジアラビアにとってもこれは悪い話ではないだろう。パリ・サンジェルマン(PSG)を所有するカタールに対抗して、サントスを手に入れる。自国開催のW杯への大きな布石ともなる。ネイマールとサウジアラビアは決してケンカ別れしたわけではない。いや、巨額を投資したネイマールをあっさり手放したのは、もしかしたら、そんな目論見もあったからかもしれない。
一方、ネイマール自身がサントスに出資することも十分あり得る話だ。12シーズンプロとしてプレーしてきたネイマールの総資産は65億レアル(約1700億円)とも言われている。これはブラジルのトップクラブの資産を上回る。もしサントスが売りに出されたら、その価値は約9億7000万レアル(約250億円)と言われる。彼は購入に必要な額の6倍もの資産を所有していることになる。
【契約期間が6月までと短い理由】
経営に関わるだけでなく、ネイマールの父親は最近、サントスのペドロ・カイシーニャ監督とも会談している。サントスの内部の人間によると、どうやら今後、チームが獲得する選手の契約はネイマールの父が仕切るという合意が、サントスとの間でかわされているようだ。
ネイマール・シニアは、息子が活躍するために、息子が望む、息子をサポートしてくれるような選手を集めたいと考えるだろう。現在候補に挙がっているのは、ローマのレアンドロ・パレデス、バルセロナのラフィーニャなど。どちらも金のかかる選手ばかりだ。
サントスFCが、実はネイマールFCになる。ネイマールはプレーイングマネージャならぬプレーイングオーナーになる。もしこれが実現すれば、トップクラスのチームでは前代未聞の出来事だろう。しかしサントスにとっても異存はなさそうだ。金が手に入るし、いい選手が手に入る、成績が向上すればクラブの財源は豊かになるし、決して悪くない話だ。
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今回の移籍が合意に達した時、サントスの公式SNSは、ピッチに置かれた王座の動画と「王子が帰ってくる」というメッセージを投稿した。これに対しネイマールはこう応えた。
「王座は永遠に君のものだ、王よ(ペレのこと)。僕は王子だ。でも、あなたのお招きは謹んでお受けします」
いずれにせよ、チームもサポーターもネイマールをまるで王のよう扱うことだろう。ネイマールはチームを好きなようにできる。いろいろな意味で救世主となり得るネイマールの言うことを、サントスは何でも聞くだろう。彼がほしいという選手を買い、彼が33分だけプレーしたいと言えば、33分だけプレーさせるだろう。他のチームではこうはいかない。
ところで、ネイマールとサントスの契約期間は今年の6月30日までと、短いものになっている。これはネイマールサイドからの希望だという。久しぶりにブラジルでプレーするネイマールはまずは適応できるか、ケガの状態も含めて様子を見たいということだろう。だがそれは同時に、彼が計画しているサントスをその手中にできるかを判断する期間でもあるのではないか。チームのSAF化に向けての規約改正は、この5カ月のうちになされるということで、ちょうど一致する。
一方のサントスは、できるだけ長く、少なくとも2026年までは、ネイマールにプレーしてほしいと考えている。W杯の時、母国を代表する選手が自チームにいることの意味は大きい。そのためにも、できるだけネイマールにとって居心地をよくしておきたい。
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ネイマールのサントス帰還は、今のところウィンウィンの状況だ。ネイマールはW杯に向けてプレーするピッチを得て、サントスはスポンサーを得て、サポーターは情熱を得た。
皆がネイマールのことを「子どもじみている」「考えが足りない」などと言うが、私はちょっと違うと思っている。たとえば彼がPSGからサウジアラビアに行ったのも、ただ金に目がくらんだわけではない。パリでの出来事に疲れたネイマールは、ストレスなくサッカーができる場所を求めていた。また、今後ますますサッカー界で存在が大きくなるサウジアラビアとコネを作ることも重要だった。33歳となったネイマールは、その先のことも考えなくてはいけないのだ。
ネイマールの復帰イベントの日はあいにくの雨だったが、それでもヴィラ・ベルミーロ(サントスのスタジアム)には2万2000人の観客が詰めかけ、「オレ、オレ、オレー、ネイマール、ネイマール」の声が彼を包んだ。ネイマールは号泣した。この涙は偽物ではないだろう。W杯でプレーしたいという目標も、彼の心からの望みだろう。
しかし、もしピッチでうまくいかなかった場合でも、ネイマールはサントスを手にする足掛かりを作ることができた。唯一のチャンスを彼は最大限に生かしている。かなりクレバーなやり方だ。
ネイマールがサッカーの次に好きなものは、カードゲームのポーカーだ。ただの趣味ではない。世界大会まで行ったこともある腕前だ。ポーカーは頭脳ゲーム。バカにはできない。相手の手を読み、自分の考えを悟らせず、はったりをかます。
ネイマールは今、まさにサッカー界を相手にポーカーをプレーしているのだ。