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フィギュアスケートの四大陸選手権は21日、韓国・ソウルの木洞総合運動場の室内アイスリンクで大会2日目が行なわれ、ペア種目で合計217.32点を出した「りくりゅう」こと三浦璃来、木原龍一組が2年ぶり2度目の優勝を飾った。
20日に行なわれたショートプログラム(SP)で三浦、木原組は、2位のアメリカ組に4.41点差をつける74.73点で首位発進。躍動感のあるプログラムづくりに定評があるシェイ=リーン・ボーンが振り付けた『ペイント・イット・ブラック』の音楽に乗って、「盛り盛りのプログラムで休むところがないのでキツイ」(木原)ながらも、情熱たっぷりに表現してみせた。
最初の技となった3回転の高いツイスト、流れのあるダイナミックなリフト、そしてスロー3回転ルッツなどのGOE(出来栄え点)で高得点をマーク。後半のステップシークエンスは迫力ある演技で見る者を魅了し、最後のエレメンツとなったデススパイラルからのフィニッシュポーズまで、疾走感とキレのあるパフォーマンスが光った。
SPで首位に立った木原は「緊張感があったなかでも、しっかり自分たちがやってきたことを発揮することができたので、すごくよかったなと思います」と振り返った。
「(三浦と組んで)初めて出場したのが5年前の四大陸選手権で、この韓国で同じ会場でした。そして、私たちのコーチ、ブルーノ(・マルコット)コーチやメーガン(・デュハメル)コーチと一緒に初めて行った海外試合がこの四大陸選手権でした。5年前は、このようにプレスカンファレンス(SP後の記者会見)に出ることは夢のような話だったんですけど、今回こうして実現できたことは、ふたりの目標にしていたので、うれしく思いました。明日(21日)のフリースケーティングでも、この嬉しい気持ちや感謝の気持ちを忘れずに滑りたいなと思います」
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そう感慨深げに語っていた。
2019年にパートナーを組んだ三浦、木原組は、その後、着実に実績と実力をつけて、日本のペアスケーターとして世界タイトルを初めて獲得するまでに成長を遂げてきた。自身も周囲も認めるトップスケーターになり、自信もつけてきたことで、演技の成熟度も増している。
【失った自信を取り戻すために】
「今シーズンをとおして、一番落ち着いて取り組むことができました。レベルの取りこぼしがあったけど、まだまだ伸びしろはあるかなと思っています。(所属する)チーム内にアイスダンスのコーチもいらっしゃるので、毎日、『(演技が)そろっている、そろっていない』という練習や、最初のポーズからのユニゾンなどを強化してきたので(SPの演技が良かったとコーチから)言っていただいてうれしいです」(三浦)
「全日本が終了してからこの四大陸まで、今シーズンのなかで一番追い込めましたし、自信をもって仕上げることができたので、もしうまくいかなくても、逆に諦めがつくかなという考えがあったので、すごく自信をもって臨むことができました。
昨シーズンはケガがあってプログラムを育てるという感覚がわからなかったんですけど、今シーズンは春の早い段階から作り上げていって、自分たちでもプログラムが育っているなというか、作り上げているなという感覚を感じていたので、技以外でもユニゾンもしっかり合わせられていたらいいなと思うので、(演技が良かったとコーチから)お言葉をいただけたのはすごくうれしいです」(木原)
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昨シーズンは木原の腰痛が悪化するなどで欠場などが続き、それまでの自信も失くすほど苦しいシーズンだったという。それでも、最終戦の世界選手権(2024年)では、フリーの自己ベストを更新して意地を見せるなど、3大会連続のメダルとなる銀メダルを獲得した。
そして迎えた今シーズンの目標は、失った自信を取り戻し、楽しくスケートをやることだという。昨年末の全日本選手権では、自分の理想を高く持ち過ぎたことで、思うような演技ができずに悔やんだ木原だが、周囲から「そんなに落ち込む必要がない」と言われ、やはりスケートを素直に楽しむことが必要だと考え直したという。
翌21日のフリープログラムは「練習でも今日以上のものができていましたし、1日だけがいいとかではなくて、コンスタントにいい演技が出せていたので、自分たちでもできるという自信を持っていました」と、高い完成度で仕上げてきた。その結果、自己ベスト(144.35点)に迫る142.59点を叩き出して、他を圧倒する完全優勝を成し遂げた。
【ペアスケーターとしての手応え】
「シーズンベストをしっかり更新でき、今シーズン初めて140点台を出せることができたので、すごくそこはよかったかなと思います。ただ、エンディングポーズの向きを間違ってしまったのが、すごく反省だなと思いました」(木原)
2本のスロージャンプの着氷が少し乱れたが、大きなミスなく、見せ場となる最後のコレオシークエンスまでユニゾンをしっかりと見せたが、最後の最後でのお茶目な失敗に、木原は演技直後、がっくりと肩を落として苦笑いを浮かべるしかなかった。本来ならフィニッシュポーズはジャッジ席に向いてとるはずだったが、反対側に向けて決めポーズをとってしまい、ジャッジに背を向けてしまったのだ。
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「フリープログラムのなかで力を入れて磨いてきた最後のコレオシークエンスについて、普段から『疲れているところでもしっかりパフォーマンスをしなさい』とメーガンコーチから言われていて、そのメーガンコーチが見ている前で、最後までしっかりやろうと最後のターンもいつも以上に回ったんですけど、速く回りすぎて、どっちを向いているか、わからなくなってしまったのが失敗の原因です。本来なら最後のポーズではジャッジの方たちと目が合うのに、なぜか(反対側の)メーガンコーチとブルーノコーチと目が合ってしまって、『あれ?これ反対だよな』と瞬時に思いました(苦笑)」(木原)
シングルスケーターから転向した木原は、3人目のパートナーである三浦と組んでからペアスケーターとしての手応えをつかんだようだ。「ペア種目ならではの演技」を発揮できるようになってきたと言う。
「ペアスケーターになったと実感したのは、璃来ちゃんがいないと不安になるようになったことですね。以前はひとりで滑るほうが気が楽だったんですけど、いまは璃来ちゃんが横にいないと逆に不安になって、そばにいたら必ず落ち着いて滑ることができると感じられるようになった。絶対の信頼を璃来ちゃんに持っているので、そこが以前とは違います。昔は『ペアスケーターです』と名乗る自信はなかったんですけど、いまはもう『ペアスケーターです』とはっきり胸を張って言えるようになりました」
3月下旬にアメリカ・ボストンで開催される世界選手権は三浦と組んで5度目の出場となる。2年ぶり2度目となる世界制覇に向けて、国際試合のデビュー戦を果たした思い出の韓国での四大陸選手権でしっかりと結果を残したことで、初心に立ち返ることもできたようだ。
「まったく同じ会場で四大陸に出場させていただいた5年前には、正直、今日のような結果を残せる日が来ることはあまり想像もできなかった。今回の金メダルという結果を残せることができたことを、ものすごくうれしく思っています。今回のメダル獲得は、僕たちのこの5年間の成長の証であり、またこれからの5年へ向け、また成長していくスタートかなと思います」
ペアスケーター木原の、みなぎるやる気を強く感じる、頼もしい言葉だった。