西友を買収するトライアルの戦略が「優秀すぎる」「成功の予感しかしない」

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2025年03月08日 18:10  Business Journal

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トライアルHDの公式サイトより

 ディスカウントストア・トライアルホールディングス(HD)がスーパー・西友を買収することが発表された5日、両社は揃って記者会見を実施。買収の目的として売上規模の飛躍的な拡大、製造・物流拠点の拡充、リテールテックの拡大などが説明されたが、トライアルHDが西友の買収に伴い描く戦略が「優秀すぎる」「成功の予感しかしない」などと話題を呼んでいる。小売業界関係者の解説を交えて追ってみたい。


 イオン、「ドン・キホーテ」を運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)、トライアルHDが入札に参加していた西友の買収。最終的にはトライアルHDが3800億円で西友株を取得することになった。トライアルHDの売上高は7179億円(24年6月期)、西友は4835億円(24年12月期/本州事業のみの速報値)であり、両社の売上高を単純に合算すると1兆2000億円を超え、国内の小売企業としては家電量販店・ヤマダホールディングスに次ぐ6位となる。


 トライアルHDは全国に343店舗を展開しているが、九州をメイン商圏としており、関東は60店舗のみ。一方、西友は昨年に北海道と九州からの撤退を決めており、全国242店舗のうち約半数の133店舗が関東にあるため、出店エリアの重複が極めて少ない。西友の物流・製造拠点も関東に集中しており、トライアルHDはそれを取得できることもメリットだ。


 5日の記者会見で説明された買収の目的は以下のとおり。

(1)両社の質の高い人材の融合
 ・西友は、高い意識とスキルを持った社員様に支えられ、長年に渡り確立されたEDLCモデルに特徴
 ・両社の優秀な人材・企業文化を最大限融合させることで、グループ全体での持続的な成長を目指す

(2)売上規模の飛躍的な拡大
 ・売上高1兆円超の小売グループの誕生により、売上成長及びスケールメリットによる収益性向上双方でシナジーが見込まれる

(3)関東エリアの事業基盤拡充
 ・人口集積地である関東を中心に、ドミナント化された242店舗をグループに加えることで事業基盤を飛躍的に拡大
 ・都市型ビジネスのノウハウを西友から学ぶ
 ・当社店舗との重複はほとんどなく、負の影響は極めて限定的
 ・西友の店舗を活用して小型店TRIAL GOを出店することで、エリアシェアを高め、強固なドミナントを形成

(4)商品力の強化
 ・西友は、「みなさまのお墨付き」や「食の幸」などオリジナル性が高く顧客の支持を得た魅力的なPB商品を保有
 ・当社は、「たっぷり玉子サンド」や「ロースかつ重」を始めとして、美味しくて安いお弁当・惣菜を強化
 ・西友と当社はそれぞれ異なる商品の強みを持っており、相互活用により集客力向上及び収益性向上が見込まれる

(5)製造・物流拠点の拡充
 ・西友は、関東エリアを中心に製造、物流を含めたサプライチェーンで強固な基盤を保有
 ・両社の物流は地域補完の関係にあり、相互のキャパシティを最大限活用することでより効率的な運営が可能
 ・西友が関東、中部、関西エリアで保有するセントラルキッチンやプロセスセンターを活用し、「食」の強化を推進

(6)リテールテックの拡大
 ・メーカー様とのデータ連携、ITを活用した決済システム(Skip Cart・顔認証セルフレジ)やインストアサイネージによるお買い物体験の向上、リテールメディアの収益化に向けては、データ量の増加・導入デバイス数の増加が重要
 ・人口密度が高く若年層が多い人口動態から、関東エリアは特にメディアとしての価値が高い


(トライアルHD「株式会社西友の株式の取得(完全子会社化)に関する説明資料」より)


 ちなみに小型店TRIAL GOとは、バックヤードを持たないサテライト型店舗のことで、既存店舗から生鮮食品・総菜を含む商品を高頻度で配送して販売。自動発注や顔認証セルフレジ、ダイナミックプライシングなどITを駆使して決済エリアの完全無人化を実現し、店舗運営の自動化を行っている点が特徴だ。


高い集客力を見込める店舗づくりも選択肢

 大手小売チェーン関係者はいう。


「トライアルHDの説明を聞く限り、同社が西友を買収しない理由はないと思わせるほど優秀だとうならざるを得ない。『西友』ブランドや人気プライベートブランド(PB)の『みなさまのお墨付き』を存続させるというのも賢明な判断でしょう。利益ベースでは西友のほうが上回っており経営的には順調であり、関東での事業展開は西友のほうがノウハウがあるので、当面は西友の独立を維持するという方針になるかと思います。西友の魅力は、商品は低価格ながら首都圏の駅近に多くの店舗を展開している点ですが、地下1階と地上1階は西友の食品売り場を残したまま、2階より上にトライアルのディスカウントストアが入居するというかたちで、高い集客力を見込める店舗づくりも選択肢となってきます。


 業界的に注目ポイントはTRIAL GOの首都圏での展開です。西友の店舗をベースとして近郊にTRIAL GOを広げていくという展開になってくると考えられますが、ミニスーパー業態は今、イオンが猛烈な勢いで『まいばすけっと』の出店攻勢をかけており、TRIAL GOも『まいばすけっと』も低価格をウリにしているだけに、両者の戦いが熾烈化するかもしれません。物価上昇で消費者の家計が苦しくなるなかで、首都圏ではコンビニより低価格のミニスーパーの需要が高まっており、トライアルHDとしてはTRIAL GOの展開によって首都圏でのプレゼンスを高めていきたいところでしょう」


 別の大手小売チェーン関係者はいう。


「トライアルHDの低価格と成長を支えているのは、ゲートを通過するだけで決済可能なタブレット搭載型買い物カートのSkip Cartをはじめとする高度なシステム活用です。西友も23年に基幹システムを刷新してAI(人工知能)自動発注システムを導入するなど、IT投資に積極的であり、その点で親和性が高いといえます。多額のシステム投資は企業規模が大きくなるほど費用対効果は高くなってきて、事実上の費用低減にもつながるため、この点のメリットは両者にとって大きいです」


イオンとドンキが買収を競った理由

 当サイトは過去に1月16日付記事『「西友」争奪戦、イオンとドンキが買収を競う理由…確実に利益出る店舗ばかりか』を掲載していたが、以下に再掲載する。


――以下、再掲載――


 GMS(総合スーパー)・西友の争奪戦が熱を帯び始めている。西友の株式の85%を保有する米投資ファンド・KKRが株式売却手続きを進めており、GMSのイオン、ディスカウントストアのドン・キホーテを運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)などが株式取得に名乗りをあげているとみられる。かつて親会社だった米ウォルマートとの資本関係が薄れ、西友は上場による単独経営を目指しているとも伝えられていたが、なぜ他社による買収という道を選んだのか。また、西友の長期的な生き残り・成長という観点でみると、イオンかPPIH、もしくは他の小売企業や投資ファンドなど、どこが買収すればより大きな相乗効果が生まれると考えられるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。


 1963年(昭和38年)創業の西友はコンビニエンスストア「ファミリーマート」や日用品・雑貨店「無印良品」を生んだことでも知られている(ともに現在は他社が運営)。1990年代に入ると経営危機が叫ばれるようになり、2002年には米国ウォルマートの傘下に入り、08年にはウォルマートの完全子会社となり上場を廃止。21年には、「楽天西友ネットスーパー」で協業していた楽天グループが西友の株式の20%を取得し関係を強化し、同年にはウォルマートは西友株の85%をKKRに売却。その後、23年には楽天は保有する西友株をKKRに売却。同年にはウォルマートの基幹システムを西友独自のものに入れ替える大規模なシステム更新作業を行い、ウォルマートとの関係解消を進めてきた。


 24年には北海道の店舗をイオン北海道に、九州の店舗をイズミに売却して事業を本州に集中させる方針に転換。現在の全国の店舗数は約240店舗であり、「EDLP(エブリデー・ロープライス)」を掲げ、日用品から食品まで幅広いラインナップを取りそろえるPB(プライベートブランド)「みなさまのお墨付き」に代表される低価格がウリ。23年12月期決算は売上高が6648億円(前期比5.8%減)、営業利益は260億円(同24.8%増)、経常利益は270億円(同29.6%増)となっており、近年は黒字が定着している。


当初から事業のばら売りを想定か

 前述のとおり西友はウォルマートからの自立を契機に上場を目指しているとも伝えられていたが、流通アナリストの中井彰人氏はいう。


「国内最大手で全国展開するイオンですらGMS事業は赤字になる期もあり、イオングループ内のイオンモールや金融、不動産をはじめとする他の事業とセットで存続している状況です。よってGMS事業単独で成長戦略を描くことは非常に困難であり、西友・KKRとしては当初から単独での上場ではなく事業のばら売りを想定していたと考えられます。実際に北海道と九州の店舗事業は他社に売却し、不採算店舗の整理も行って大幅に縮小した上で、最後に本州に残った事業を他社に売却しようとしています。


 現在のスーパーマーケットのプレイヤーをみると、全国展開できているのは事実上、イオンしかなく、例えばオーケーやヤオコーは関東圏に、イトーヨーカドーは東日本に集中しており、各地域に強い地場のスーパーが存在するという状況です。なので西友を買収してメリットがある同業としてはイオンしか存在しないというのが実情です」


 では、イオン、PPIH、そして応札企業として名前があがっているディスカウントストアのトライアルホールディングスのどこが買収すれば、より高い相乗効果が生まれると考えられるのか。


「まずイオンについていえば、グループ内にさまざまなブランドのスーパー、ドラッグストア、リカーショップまであらゆる業態の店舗を保有しており、一定の集客が見込める立地であれば、とにかく多くの店舗を取得して、あとはそれぞれの立地にあった業態店をいかようにも展開可能なので、西友を取得しにいくのは当然です。また、PPIHは18年にGMSのユニーを買収し、融合店や新業態店を増やすことでユニーの業績は大きく改善・伸長しました。同じ手法で、例えば西友の店舗の1Fを食品売り場、客が少なかった2階より上層階はドン・キホーテといったかたちに改装することで、店舗売上を伸ばすことができるでしょう。そしてトライアルは西友よりさらに踏み込んだ低価格路線であり、取得した店舗をトライアルに衣替えするという方法もあるでしょう。


 残存している西友の店舗は、不採算店舗の整理の末に生き残った立地が良い“利益が出やすい店舗”ばかりであり、さらに首都圏の駅近店舗も多く、買収する側はその優良な店舗網を獲得できるわけですから、メリットは大きいです。


 たとえばイオンにしても首都圏の駅近店舗というのは多くはなく、西友の店舗網を獲得したいという思いは強いでしょうから、それなりに高い買収金額を提示すると考えられ、西友側としても店舗が『西友』というブランド名のまま残るのかどうかは別にすれば、単独での生き残りを模索するよりは好調な大手に買収されるというのはメリットが大きいといえます」(中井氏)


(文=Business Journal編集部)



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