「世界のベスト」の運用責任者を2020年1月から勤めているスティーブン・アネス氏(写真)に、同ファンドの運用の現状と今後の展望を聞いた。 インベスコ・アセット・マネジメントが設定・運用する「インベスコ 世界厳選株式オープン(愛称:世界のベスト)」が「為替ヘッジあり(毎月決算型)」「為替ヘッジなし(毎月決算型)」「為替ヘッジあり(年1回決算型)」「為替ヘッジなし(年1回決算型)」「為替ヘッジあり(奇数月決算型)」「為替ヘッジなし(奇数月決算型)」の6ファンド合計での純資産残高が2025年1月21日に2兆円を突破した。同ファンドの残高は2017年1月から8年(96カ月)連続で月次の純資金流入を続けているが、残高が目立って大きく拡大をはじめたのは2023年頃からだ。期間によって、世界株式インデックス(MSCIワールド・インデックス)を上回る運用成績も出し、その運用成績が残高を押し上げる力にもなった。同ファンドの運用責任者を2020年1月から勤めているスティーブン・アネス氏(写真)に、同ファンドの運用の現状と今後の展望を聞いた。
――2023年から純資産残高が急速に拡大しましたが、残高が急拡大したことはファンドの運用に影響がありましたか?
ファンドの運用方針は一貫していて、「成長」「配当」「割安」という観点で銘柄を調査し、魅力的な銘柄を発掘して投資しています。現在のポートフォリオは約45銘柄で構成していますが、ほとんどは大型株で十分な流動性があります。純資産残高が増えても運用には何ら問題はありません。
当ファンドでは企業を評価するために、投資先企業とのコミュニケーションを密にとります。より大きな残高の方が、企業が我々との対話に真剣に向き合ってくれるようになるため、情報を収集するという点では、残高が大きくなったことがメリットに働いているといえます。当ファンドを支持していただいている日本の投資家の方々には大変感謝しています。
――昨年12月の時点で北米をアンダーウエートにし、欧州をオーバーウエートにしています。また、業種別ではITをアンダーウエートにして金融をオーバーウエートにしています。2025年になって米国株式が下落に転じ、欧州株が比較的堅調な状態を保っているため、12月のポートフォリオは運用状況にプラスに働いていると思いますが、昨年末の段階で米国のハイテク株を主軸にした相場が転換するという確信があったのですか?
「マグニフィセント・セブン(M7)」といわれる米国ハイテク大手への投資家資金の集中は行き過ぎていると考えていました。また、集中と同時に「M7」同士のパフォーマンスの相関関係が強いことも警戒要素と考えていました。そのため、「M7」銘柄への投資を抑えて、ヘルスケアや生活必需品、公益などのディフェンシブ銘柄を組み入れたポートフォリオを構築してきました。それが結果的に北米への投資比率を落としているように見えるのではないかと思います。
また、たしかに欧州籍の企業を保有していますが、投資している企業はグローバルに展開している企業ばかりです。特に欧州をオーバーウエートにしようという意図があったわけではありません。個別に安定的にキャッシュを創出している優れた企業を選ぶ作業を進めた結果、欧州に本社がある企業が多くなったということです。
金融についても、組み入れ銘柄の筆頭が欧州に本社のある「3iグループ」ですが、この会社は主に小売業に投資している投資会社です。堅調に推移している小売を評価して投資対象にしたものです。金融というと、一般的には銀行をイメージすると思うのですが、当ファンドでは銀行は1銘柄のみで、投資会社や証券取引所などに投資しています。同じ金融の中でも多種多様な事業に投資していることが特徴です。組み入れ銘柄のロンドン証券取引所は、株式市場の売買が細ると業績が悪化するというイメージがあると思いますが、リフィニティブというデータプロバイダーを買収して安定的な収益を得ることができるようになったことを評価しています。
特定の地域や産業などに特化して投資するのではなく、広く世界の産業や経済状況をみて、柔軟な収益機会を得られるようなポートフォリオを構築することが重要だと考えています。
当ファンドでは、株式投資の王道である「成長」「配当」「割安」という観点で魅力的な銘柄を探し出すということも重要視していますが、ピックアップした銘柄で漫然とポートフォリオを作っているわけではありません。個々の銘柄の株価の推移を分析し、銘柄間の相関関係を調べたうえで、市場局面の変化に耐えられるポートフォリオを構築するようにしています。どんなに魅力的な銘柄をみつけても、今のポートフォリオに必要かということをよく吟味したうえで、新規の組み入れは判断するようにしています。
――ファンドのパフォーマンスは、過去3年ではインデックスファンドを上回る成績になっています。この好成績の要因は何でしょうか?
2020年1月から運用責任者となり、ポートフォリオの改良を進めていた最中にコロナショックが起きました。そうした厳しい市場環境であっても安定したパフォーマンスを上げられるようなポートフォリオを目指し、2020年3月末で一旦完成しました。過去3年だけでなく、その2020年3月末から直近2月末まで見ていただいても、インデックスを上回る成績になっています。
2021年12月末を起点として2024年12月末までの3年間をみると、当ファンドのリターン(インベスコ 世界厳選株式オープン<為替ヘッジなし>(年1回決算型)の基準価額で計算)は74.4%で先進国株式インデックス(MSCIワールド・インデックス)のリターン66.9%を上回っています。リターンの寄与度が高い上位10銘柄をみると、「MSCIワールド・インデックス」は、エヌビディアやアップル、マイクロソフト、アマゾンなど「M7」銘柄が10銘柄のうち7銘柄を占めます。当ファンドではパフォーマンス寄与度トップ10に「M7」銘柄はマイクロソフト1銘柄のみです。「M7」銘柄が大活躍して大きく値上がりする中で、当ファンドでは「M7」銘柄に頼らずとも、それを上回るパフォーマンスを残すことができました。市場とは異なるリターンの源泉に着目し、かつ、インデックスを上回る成績を残していることが重要であると思っています。
――米トランプ大統領の関税政策で世界の株式市場が動揺しているようですが、どのように対処していますか?
当ファンドで組み入れている銘柄の株価も、トランプ大統領や米政権からの発表などのニュースによって影響を受けます。そこにはリスクとオポチュニティ(機会)があるので、変化を冷静に見守って適切に判断していこうと考えています。米国の関税政策については、どのような帰結になるのか、銘柄への影響なども注視しつつ、分析しています。2025年に入ってからの2カ月で(2025年2月末基準)当ファンド(インベスコ 世界厳選株式オープン<為替ヘッジなし>(年1回決算型))はマイナス1.5%でしたが、「MSCIワールド・インデックス」はマイナス4.9%になるなど、下落に強いポートフォリオの特性は発揮されています。
個々の投資判断では、たとえば、組み入れ銘柄の1つである「オールド・ドミニオン・フレイト・ライン」は、北米大陸のトラック貨物輸送業者ですが、カナダから米国を経由してメキシコへというルートでトラック輸送を行っています。米国がカナダとメキシコに25%の関税をかけ、それに対してカナダが対抗措置を打ち出すなどというニュースのヘッドラインで株価が下落しています。ただ、米国の関税政策によって私たちが評価した「革新的なサービス」や「高い顧客満足度」、そして、「健全な財務基盤」などといった同社の企業価値が失われるわけではありません。価値が変わらないのであれば、関税のニュースで下げている株価は、チャンスなのではないかと考えています。
市場のボラティリティ(価格変動率)は高まっています。この機会に組み入れ銘柄の入れ替えを行うチャンスがあるかもしれません。市場の変動を事前に予測することはできませんが、当ファンドでは世界の株式市場から、株式投資の王道である「成長」「配当」「割安」という視点で「ベスト」と考えられる銘柄を厳選し、幅広い投資機会を捉え、資産の中長期的な成長をめざしていきます。
日本の投資家の皆様には、当ファンドを支持していただき感謝しています。皆様のご期待に精一杯応えられるよう、引き続きベストなポートフォリオをつくり、よりよいパフォーマンスをお届けできるように努めてまいります。グローバル株式への投資は、中長期の資産形成には不可欠の資産クラスです。当ファンドでは、特定の業種やテーマに偏った投資をすることなく、幅広く投資機会を求めて、常にベストなポートフォリオの状態にあるように心がけています。その点では、タイミングをはかって投資するということなく、いつでも投資していただけますし、積立投資でも投資していただける商品になっています。資産形成の中心でご活用いただきたいと思います。