
U-20日本代表/RB大宮アルディージャ所属
市原吏音インタビュー(前編)
2025年のサッカーシーンで、「RB大宮アルディージャ」はホットワードのひとつとなっている。レッドブルグループの一員となったチームがJ3からJ2へ復帰し、開幕4連勝の好スタートを切ったからだ。
Jリーグにフレッシュな風を吹き込むチームには、将来性豊かなCBがいる。アカデミーからトップチームへ昇格して2シーズン目を迎えた市原吏音だ。名前は「りおん」と読み、オリンピック・リヨンに由来するという。
J2リーグ開幕から3試合は欠場した。U-20日本代表の活動に参加していたためで、3月8日の第4節が今シーズン初出場となった。
「チームは開幕から3バックで戦ってきましたけど、キャンプでは4バックもやっていて、U-20日本代表は3バックもやるけど4バックがメインだったので、3バックはホントに久しぶりで。アルディージャの3バックのやり方は、去年のJ3最終節以来でした」
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それでも、「いつもどおりにはできたかな」と言う。19歳とは思えないこのキャパシティの大きさが、市原の大きな魅力なのだ。
ピッチ上で成長を感じることもできた。
「高3で試合に出ていた2023年のJ2よりは、個人的には余裕があるかな。あの時は自分のことで精いっぱいだったというか、周りをカバーするプレーとか声がけは、ほぼできなかった。今はリーダーシップとかキャプテンシーはひとつ、ふたつレベルが上がっている感じはします」
187cmのサイズを生かしたタフなディフェンスだけでなく、攻撃にもしっかりと関わる。利き足ではない左足でも、しっかりとパスをつなげる。Jリーグデビュー当時から、ギリギリでプレーを変えることもできていた。プレーをキャンセルできるスキルは、トップレベルへ登っていくために欠かせないものだ。
さらに言えば、精神的な波がない。10代とは思えない完成度だから、元日本代表らが称賛を惜しまないのだろう。今冬のAFC U20ワールドカップではキャプテンを務め、アジア予選突破の原動力となった。個人的な評価は、高まるばかりである。
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【動画ではなく本を手に取る理由】
本人は少し困ったように、「いやあ......」と漏らす。
「自分の記事とかをあまり見ないので、注目されているのかどうかもわからないんですよね。両親はそういうのが好きなので、僕より見ていると思いますけど。僕の感覚としては、インスタのフォロワー数がちょっと増えたかな、というぐらいで。元日本代表とかすごい人に評価されるのは、もちろんうれしいです。でも、僕自身は何も変わらないというか」
誕生日は7月だから、まだ19歳である。Jリーグで堂々としたプレーを見せていても、ピッチを離れれば同世代に違和感なく溶け込む。
「オフは友だちと遊んだり、大宮で服を見たり。ひとりでも出かけますし、声をかけられたりしても気にならないです。あとは、お金の勉強を始めました。ずっとサッカーをやってきて、アルバイトもしたことがなくてプロになって、自分でお金を稼ぐ立場になったので。
無駄遣いをするタイプじゃないし、20歳になるまでは両親に管理してもらっているんですけれど、今のうちから個人事業主の節税対策とか、どうやってお金を貯めるとか、投資をするとか、新NISAって何なんだろうとか、勉強しておいてもいいんだろうなって」
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勉強のツールは、動画ではなく本なのだという。デジタルネイティブな世代が、本を手に取るのには理由がある。
「動画って早送りしたりするじゃないですか。勉強をするんだから、それはダメだなと。本は1ページずつきちんと読まないと話が飛んじゃう。勉強をするのなら、そっちのほうがいいだろうと思って」
違う種類の投資は、以前から始めている。チームの練習とは別にトレーナーと向き合い、自分に足りないものを補強するトレーニングをしたり、身体のケアをしたりしている。
「スプリントのトレーニングはやっています。海外の選手って、足が速いじゃないですか。そこは自分に足りないところで、やっているんですけど、なかなか成果が出ないですね(苦笑)。U-20日本代表の活動があったりとかで、最近はできてないんですよね。やらなきゃいけないのに、なかなか......」
【背番号4からの変更も考えた】
パリ五輪世代や同世代の選手が、ヨーロッパのクラブへ続々と移籍している。市原自身もオフのたびに、自らの去就について熟考してきた。
トップチームデビューを飾った2023年オフには、チームがJ3へ降格したことでJ1やJ2のクラブから強い関心を寄せられた。昨オフもJ3優勝でのJ2復帰を力強く後押しし、J3リーグのベストイレブンに選出されたことで、複数の選択肢が目の前に並んだ。
「海外へ行くのなら、RB大宮から行きたい。今年に関しては、ここでやるのがベストかなって。J1へ昇格させて海外へ行くとなったら、チームの役に立つことができたと思えるので」
J1昇格へ導くとの決意を、背中の数字に乗せたいと考えた。2025年シーズンを迎えるにあたって、背番号を「4」から変更できないかとも考えた。
「たとえば、リバプールのトレント・アレクサンダー=アーノルドっていったら『66』じゃないですか。僕も自分の番号を作りたいなと思って。誕生日が7月7日なので『77』を考えたんですけど、U-20日本代表で一緒のツグ(石井久継/湘南ベルマーレ)が同じ誕生日で『77』を着けているので、一緒にするのもなあ、と。
そんな時に、ベリンガムの『22』は4番にも8番にも10番にもなれるから、3つの数字を足して22になっているという記事を読んで。それで、僕も考えたんです。最終ラインの番号って言ったら2、3、4、5で、GKの1も足して『15』で、全部のポジションをカバーする、全部自分が守りますっていう気持ちを表わす、というのはどうかなあって思ったんです」
このアイデアは実現に至らなかったものの、昨シーズンと同じ4番を着けることに迷いはなかった。「去年から着けているこの番号を、自分のモノにする」とのモチベーションを燃やしている。
【次のターゲットはU-20ワールドカップ】
2025年のJ2で開幕から4連勝を飾った大宮だが、5節のサガン鳥栖戦で初黒星を喫した。今シーズンのJ2は例年にも増して実力伯仲で、好スタートを切った大宮はここから厳しくマークされていくに違いない。
市原も「注目はされているのかな」と話す。「でも、僕らがやることは変わらないですけどね」と続ける。
「去年からテツさん(長澤徹監督)のもとでやってきて、試合のように練習して、練習のように試合をする、というのは絶対的なモットーで。練習からバチバチですし、試合と同じ緊張感でやれているので、そこはブレることはないですね」
大宮のチームメイトとともにJ1昇格を目指す市原には、もうひとつ大きなターゲットがある。9月開催のU-20ワールドカップだ。プロ2年目のCBにとっては、今後のキャリアを考えても重要な大会になるだろう。
(つづく)
◆市原吏音・後編>>「気になる選手はバルサの18歳」
【profile】
市原吏音(いちはら・りおん)
2005年7月7日生まれ、埼玉県さいたま市出身。大宮アルディージャのアカデミー(ジュニア→U15→U18)で育ち、2023年7月の天皇杯・セレッソ大阪戦でクラブ史上最年少18歳5日でのトップチームデビューを果たす。翌年トップチームに昇格し、いきなり副キャプテンに任命されてJ3優勝に貢献。日本代表歴は各カテゴリーで呼ばれ、AFC U20アジアカップ2025ではキャプテンとしてチームを牽引し、今年9月にチリで開催されるU-20ワールドカップ出場権を獲得した。ポジション=DF。身長187cm、体重81kg。