
『ボクたちはみんな大人になれなかった』の燃え殻、『死にたい夜にかぎって』の爪切男の意外な共通点、それは『キン肉マン』!!
希代のストーリーテラーのふたりが2月分の『キン肉マン』連載を甘く、そして辛く批評。
―今回の「先月の肉トーク」テーマ―
第480話 かつてのロボ超人!!の巻(2月3日更新分)
第481話 "狼の部屋"の秘策!!の巻(2月10日更新分)
第482話 まさに、戦争男(ウォーズマン)!!の巻(2月17日更新分)
<あらすじ>
ソ連のパトムスキー・クレーター。ついに、ウォーズマンが真の姿となり、時間超人五大刻・ぺシミマンを圧倒。しかし、ぺシミマンの奥の手に大苦戦。すると、狼の部屋の所長が数年越しの実験を再開するため、ウォーズマンへひそかに組み込んでいた秘密モードの発動を指示!
●どこまでも付きまとう「ロボ」
爪切男(以下、爪) 第481話で「エクストリームバトルモード」を起動させられて、ウォーズマンが変身したじゃないですか。
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燃え殻(以下、燃) うん、全身鋲だらけのえぐいスタイルになった。
爪 あれでSNSとか、けっこうな騒ぎになりましたよね。昔、『少年ジャンプ』の誌面で、連載300回記念企画として「リング・コスチューム大募集」というものがあったの、覚えてます?
燃 え? ああ、あったような、そういえば。
爪 その時に採用されたのが、あの鋲だらけのウォーズマンなんです。
燃 えーっ!? 忘れてた! そうかあ! あの企画、俺が中学生の時だったっけなあ......。
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爪 1985年だから、ぴったり40年前ですね。ほら、こういうやつ(PC画面で当時の採用作品を見せる)。
燃 ああ、覚えてるのもある! というか、採用されて本編に出てきたものも、けっこうあるね。ラーメンマンもそうだし、キン肉マンもそうだし。えっ、じゃあウォーズマンのこのコスチュームを、嶋田先生が覚えていたってこと?
爪 そうみたいですよ!
燃 すごいなあ! 40年かけた伏線回収。子供の頃、マンガ部みんなで『キン肉マン』の画を描いてた、って言ったじゃない?
爪 よくその話してますよね、燃え殻さん。
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燃 ああいう時って、みんな勝手に超人をアレンジして描いたりするじゃない。ロビンマスクに角を増やしたりとか。
爪 ああ、やるやる。
燃 っていうのを、読者から公式に募集して、なおかつ40年経ってから実際に作品で使う。その子供心がすごい。
爪 いい意味で、ザコシさん(ハリウッドザコシショウ)的ですよね。「スケールベア・クロー」なんて、誇張しすぎたベア・クローだもん、これ。
燃 はははは。
爪 ウォーズマン、かわいそうだとは思いましたけど。突然「エクストリームバトルモード」を起動させられて、身体がトゲトゲになって。オレなら絶対イヤ。
燃 確かにビビるわ、自分の身体にこんなことが起きたら。いつまで経っても業(ごう)が深いよ、ウォーズマンは。
爪 うん。これがまだ隠されていたのか、背負ってる十字架ありすぎやろ! と。
燃 作者という神のおもちゃ感が、ハンパない(笑)。
●ぺシミマンの株上がってます
爪 対して、ウォーズマンを真正面から受け止めているペシミマン、いいヤツに見えてきません?
燃 確かに。できればこの試合が終わったら、ウォーズマンとタッグを組んでほしいぐらい。いいタッグになりそう。
爪 いいですよね、ペシミマン......ウォーズマンには悪いけど、この試合、ペシミマンが勝ってもいいと思っちゃったもんな。
燃 そもそもルックスで言うと、普通のマンガだったら、ペシミマンがベビーフェイスで、ウォーズマンのほうがヒールだもん。
爪 鋲をつけられたりしたことも大きいですよね。
燃 そこもすごい不思議な感じがして。ペシミマンが善玉に見える、キャラも立っている、そしてウォーズマンがどんどん悪玉っぽくなっていく。その両者の色の違いがいいよね。
爪 でもペシミマン、ロボ超人であることが途中でわかったじゃないですか、なのに時間超人。
燃 そうなんだよね。
爪 それって成り立つのか? という気もしますけど(笑)。でもペシミマン、闘い方が正々堂々としているというか。卑怯とか残虐なこともしてないし。
燃 むしろ、ウォーズマンのほうが残虐だから、善玉と悪玉がひっくり返ってる感じになっていて、そこもおもしろい。ペシミマンに主人公感があるもん。
爪 そう。器がデカい。変身させられたウォーズマンに対して、「わかるぜえ、お前のその哀しみ。オレたちロボ超人はみんなそうだ」とか、「その新たな見てくれも強そうだ。まだやれるだろ?」とか、言葉があったかいんですよね。
燃 ねえ。ウォーズマンも体が変わったことへの受け入れも早くない?
爪 変身させられたことに憤(いきどお)ってるのに、次の瞬間にはその変身で手に入れた「スケールベア・クロー」を使ってるし(笑)。ペシミマンに導かれている感じが格上を感じるんだよな。
燃 「置かれた場所で咲きなさい」とぺシミマンが諭(さと)しているような、ロボ超人の悲哀がある。
爪 でもほんと、時間超人と闘っている感じがしない、いい試合ですよね。ペシミマンの時間超人要素が後半で出てくるかどうかだな。
燃 お互いがロボ超人だというところで、闘いの残酷さがうまく回避されているよね。そのへんのうまさも、さすがゆでたまご先生だと思う。
爪 この試合、クロエで始まって、途中でウォーズマンになって、そしてこの「エクストリームバトルモード」になった。1試合の中で3形態ってすごいですよね。
燃 いや、ほんとにそう。
爪 前に燃え殻さんも言ってたじゃないですか。おなじみの超人たちのコスチュームが変わったらおもしろいのに、って。
燃 あ、言った!
爪 それをまずはウォーズマンがやった、ということですよね。的中じゃないですか。
燃 でも、40年前の読者投稿のスタイルに変わることまでは、予想できなかったから。その話をした時、バッファローマンも修行を終えて戻ってきたら、コスチュームが変わってるんじゃないかって話、したじゃない?
爪 ああ、ですね。楽しみになりましたね。怖くもあるけど。
燃 それにしても、この展開でいくと、ウォーズマンのほうが弾切れになりそう。やっぱり負けフラグが立っている気がする。
爪 うん、心配。不思議なキャラですよね。強いし人気もあるのに、こんなにファンを不安にさせるという。燃え殻さん、ゆでたまご先生は数年がかりで『キン肉マン』という物語をちゃんと終わらせるモードに入っているって、よく言ってるじゃないですか。
燃 うん。
爪 ということは、ウォーズマンの試合も、今回のこれでおしまいなのかな。
燃 そうなんじゃないかな。そもそも40年前に読者が描いたこの最終形態をひっぱり出してこと自体が、もう、ウォーズマン大感謝セールじゃない?(笑)。
爪 となると、最後の試合はこの格好ではなく、元のシンプルなスタイルでやってほしいな。でも「スケールベア・クロー」を一回見ちゃったら、普通のベア・クローが弱く見えるだろうなあ。
燃 そうなんだよ! だからもう、この形態で終わるしかない。
●アニメSeason 2が終わり、2冊同時発売
爪 アニメのSeason 2は、3月いっぱいで終わりなんですよね。ウォーズマンとポーラマンの試合が終わったところまでで、いったん終了。
燃 そうか、アニメもマンガもウォーズマンの試合だったんだな、2025年のこの時期は。
爪 あと、4月4日にコミックスの88巻と、『読切傑作選2015-2023』が出るそうですよ。
燃 え、そんなの出るの?
爪 2015、16年にそれぞれ『グランドジャンプ』に載った「超人列伝 ウルフマンの巻 -土俵上の士(もののふ)-」、「超人列伝 カレクックの巻 -愛と怒りの聖人-」とか、40年前に描かれたテリーマンが主人公の『アメリカからきた男』を、2019年の『キン肉マンジャンプvol.3』でリメイクした回。2023年の『キン肉マンジャンプvol.4』に載った、「キン肉バスター誕生秘話!!の巻」や、キン肉マン40周年の時に『少年ジャンプ』に掲載された、「特別読切 さよなら、キン肉マン!!の巻」。
燃 ああ、あったあった。
爪 その8年の間に、読切が単行本1冊分貯まっていたんですね。
燃 おお! 表紙もいい感じ!
爪 カレクックがちゃんと強そう。
燃 この読切、カレクックが頭にカレーを乗っけて残虐超人になるまでの話だったよね。
爪 うん。しかし、そう考えると、カレクックってパンチ強いですよね。それをテーマで主人公にして、読切1本描けちゃうんだから。
燃 いや、先生なら、どの超人でもできるんじゃない?(笑)。
●燃え殻(MOEGARA)
1973年生まれ、神奈川県出身。働きながら始めたツイッターでの発言に注目が集まり、作家デビュー。『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社)、『すべて忘れてしまうから』(扶桑社)、エッセイ集『それでも日々は続くから』(新潮社、1月29日文庫版発売)『これはただの夏』(新潮社、文庫版発売中)、『ブルー ハワイ』(新潮社)など多数の著作がある。最新著は『明けないで夜』(マガジンハウス)。ドラマ『あなたに聴かせたい歌があるんだ』(漫画:おかざき真里/扶桑社)はHuluで配信中。『GetNavi web』にてコラム「もの語りをはじめよう」を連載中。出演中のラジオ番組 『BEFORE DAWN』(J-WAVE、毎週火曜26:00〜27:00)もチェック
●爪切男(TSUMEKIRIO)
1979年生まれ、香川県出身。2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)で小説家デビュー。2020年、同作が賀来賢人主演でドラマ化。『きょうも延長ナリ』(扶桑社)が発売中。最新著は、集英社発のWebサイト『よみタイ』で好評を博した、美容と健康にまつわるエッセイ『午前三時の化粧水』が好評発売中。ドライバーWebで『横顔を眺めながら 〜爪 切男の助手席ドライブ漂流〜』を連載中。主演:木村昴でのドラマ放送でも話題となった『クラスメイトの女子、全員好きでした』が文庫化
取材・文/兵庫慎司 撮影/鈴木大喜 ©ゆでたまご/集英社