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ふじや食品(福井県越前市)が手掛けるスイーツ系「胡麻どうふ」シリーズが好調だ。特に3月に発売した不二家「milky」とのコラボ商品は、3カ月分の販売計画数をわずか19日間で突破したという。
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ごま豆腐といえば、普段は精進料理で出されることが多い食品で、いわゆる「スイーツ」のイメージとは縁遠い。ふじや食品はどういった経緯で開発したのか。商品企画開発室、中島靖浩室長に話を聞いた。
●不二家の「milky」とコラボした胡麻どうふの快進撃
「milky胡麻どうふ ミルキー味」は「ペコちゃん」で有名な不二家とコラボした商品で、ロングセラーのお菓子「ミルキー」の味に仕立てたごま豆腐だ。初速は好調で、もともと6カ月間の販売計画として見込んでいた販売数のうち半分が、発売後わずか19日間で売れてしまったという。同時発売のリプトン「ミルクティー胡麻どうふ」も順調な滑り出しだ。
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「今回のコラボ商品は、過去に発売した『モンブラン胡麻どうふ』や『チョコミント胡麻どうふ』などの商品と比べても、数倍のスピードで売れています」と、中島さんは手応えを語る。
同社の歴史をひも解くと、もともと創業当初は豆腐や油揚げなどの大豆製品を主力としていたが、全国展開を見据えて新たな方向性を模索。当時、料理店に行かないと食べる機会がなかった「玉子どうふ」に着目した。これをプラスチック容器に入れて商品化し、量販店向けに展開することで事業を拡大していった。
「玉子どうふは冷たい商品のため夏場しか売れないので、同じ鶏卵加工品として茶碗蒸しも開発しました。夏は玉子豆腐、冬は茶碗蒸しという二本柱を築いていきました」と中島さんは説明する。やがてごま豆腐も製造するようになったが、当時は鶏卵加工品ほど売り上げを支える存在ではなかった。
「ごま豆腐は昔から精進料理の一品というイメージがあり、一般家庭で日常的に食べられる機会が限られていました。この認知度を高め、より幅広い世代に親しんでもらうためには『スイーツ』にするのが良いのではないかと考えました」(中島さん)。
2019年に同社初のスイーツ系ごま豆腐「くるみ胡麻どうふ」を発売したところ、これがヒット。現在まで続く人気商品となった。その後も「塩豆大福」や「よもぎ餅」などをイメージした商品を展開し、売り上げを拡大していった。現在は既存のごま豆腐商品群を合わせると、売り上げの約20%を占めるまでになったという。
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●新卒のひと言から実現した「milky」とのコラボ
ふじや食品と不二家のコラボは、新卒社員の何気ない一言から始まった。
ある日の商品開発会議で、新卒入社2年目になる社員が「『ふじや食品に就職した』と友人に伝えると『あのペコちゃんの会社ね!』と間違われてしまった」というエピソードを話した。それを聞いた先輩社員も心当たりがある人が多く、いわゆる「あるある」の経験だったという。
これがきっかけで、「いっそ『ふじやと不二家』がコラボしたら面白いのでは?」とアイデアが持ち上がり、企画がスタートしたという。
「私自身も若い頃に『不二家さん、名前も似ているし、コラボできたら面白いな』と漠然と考えていましたが、『あんな大きな会社が、うちのような中小企業を相手にしてくれないだろう』と思い、進めませんでした」と中島さん。しかし若手社員の柔軟な発想をきっかけに商社を通じて打診すると、不二家側も前向きな反応を示した。
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試作品開発では苦労も多かった。「最初は1層タイプで作っていましたが、ミルキーらしい甘さと一般受けする甘さのバランスが難しかった」と中島さんは振り返る。ミルキーらしい甘さを追求するとごま豆腐として食べるには甘すぎる一方、ごま豆腐らしさを出すとミルキー感が薄れてしまうという課題があった。
そこで考案したのが2層タイプの構造だ。「ミルキーの練乳を使った層とごま豆腐らしいごま豆腐の層を二層にしました。ミルキーの層はしっかりミルキーの味を再現し、両方一緒に食べるとバランスよく最後まで食べられる」(中島さん)
リプトンの「ミルクティー胡麻どうふ」も同時期に開発が進められた。こちらも同様の理由から2層構造が採用された。「紅茶のしっかり茶葉の香りがする層と、甘いミルクの層を二層にすることで、一食食べても甘ったるすぎず食べられる形に改良しました」と中島さんは振り返る。
●週1回のアイデア交換会がヒット商品を生み出す秘密
新卒社員の何気ない発言から不二家とのコラボが実現したように、ふじや食品では若手の声を大切にしている。この組織文化を支えるのが、2000年に導入された「プロダクトマネージャー制度」と週1回開催される「情報交換会」だ。
「情報交換会は週に1回、企画開発室の15人全員が集まり、1週間の生活の中で見つけたものを共有します。例えば『○○のスーパーで見かけた面白い商品』『あそこのレストランの料理がユニーク』など、何でもいいので普段の生活で気になった情報を交換する場です」と中島さんは説明する。
アイデア会議では質より量を重視。企画開発室の各班は最低でも100以上、3班合わせて300以上のアイデアを出し合うという。「精度を求めすぎると出てこなくなるので、気軽な立ち話程度の感覚でやろうと始めました」(中島さん)
実際にブレストの現場ではふせんに多くのアイデアが書き込まれ、「茶碗蒸し×プリン=チャップリン」といった自由な発想も積極的に拾い上げる。「商品開発につながらなくても構いません。とにかく生活者目線で気になったものを持ち寄って交換することで、何かヒントになる可能性があります」(中島さん)
一人で考えるよりも複数人でアイデアを共有することで、思いもよらなかった発想が生まれる。「若い社員たちに『アンテナを高くして生活してほしい』と言っても響きにくい。でもこうした仕組みを通じて、自然とその習慣が身につくのではないかと考えています」と狙いを語った。
●「豆乳のように」胡麻どうふの市場拡大を目指す
コラボ商品の初速には手応えを感じている中島さんだが、今後の展開も見据えている。「発売直後は小売り店に大量に陳列してもらった効果もあるので、この後どれだけリピートされていくかが大切です。尻すぼみになることもありますから」と冷静だ。
それでも「milky胡麻どうふ」と「リプトンミルクティー胡麻どうふ」の反響は大きく、発売以降、新たなコラボ提案が複数舞い込んでいるという。中島さんは「不二家さんとのコラボが話題になったことで、他の企業からも声をかけていただくようになりました。中には私たちが驚くようなメジャーな企業からのお誘いもあります」と明かす。
ふじや食品の次なる一手は、胡麻どうふの市場そのものを拡大すること。豆乳市場をベンチマークに見据え、スーパーマーケットの売り場でコーナー化されるほどの存在感を目指している。豆乳は基本の商品だけでなく、さまざまなフレーバーを展開し、確固たる地位を築いてきた。胡麻どうふもまた、通常品からスイーツまで多彩なラインアップで、専用の売り場を獲得する――その構想は着実に進んでいる。
●「ポテンシャルは大きい」と中島氏
「胡麻どうふ自体のポテンシャルは大きい」と中島さん。もともとごまは健康イメージが強く、特別なプロモーションがなくても右肩上がりで伸びてきた実績がある。今後はさらに「ごま豆腐はいろいろな素材と合う」「スイーツとしても楽しめる」という側面を強調しながら、可能性を広げていく予定だ。
若手のふとした発言から生まれたコラボ商品、週に一度のアイデア交換会、そして300以上のアイデアを生み出す創造の場。ふじや食品はこれからも胡麻どうふの可能性を広げていく。かつては精進料理の一品に過ぎなかった胡麻どうふが、日常的なスイーツへと変貌していくのか。今後の新商品やコラボからも目が離せない。
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