Q. 「花粉症の薬で認知症になる」って本当ですか?【薬学部教授が回答】

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2025年04月06日 20:50  All About

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【薬学部教授が解説】「花粉症の薬で認知症になる」という情報があるようです。しかし医薬の専門的な見地から考えると、この情報は科学的に誤りです。その理由を分かりやすく解説します。

Q. 「花粉症の薬で認知症になる」って本当ですか?

Q. 「花粉症の症状がひどいので、花粉のシーズンは毎年ずっと薬を飲んでいます。最近、『花粉症の薬で認知症になる』と聞いて、とても不安です。今からできる対策法はありますか?」

A. 花粉症薬で認知症にはなりません。これまで通り服薬して大丈夫です

最近「花粉症対策の薬が認知機能の低下をもたらす」という情報が一部のメディアで紹介されていましたので、質問者の方はそういった記事を読んで不安になってしまったのでしょう。しかし結論からお伝えすると、全く心配はいりません。認知症になるのが怖いからと、薬を飲むのをやめてつらい症状を我慢する必要も、もちろんありません。なぜそう言えるのか、医薬の専門家として分かりやすく解説します。

少し専門的になりますが、私たちの体内では「アセチルコリン」という物質が働いています。アセチルコリンに対する受容体を遮断し、働きを妨げる薬を「抗コリン薬」と呼びます。また、抗コリン薬の作用を「抗コリン作用」と言います。現在、一部のメディアが警鐘を鳴らしているのは、花粉症に使われる薬には「抗コリン作用」をもつものが多くあり、それが認知機能の低下をもたらす可能性があるということです。

しかしこの情報には、いくつかの重要な視点が欠落しており、医薬の知見から考えれば非科学的な話です。

アセチルコリンの働きと抗コリン薬が使われる症状

まず、アセチルコリンは、私たちの体内のさまざまな場所で働いています。具体的には、自律神経の副交感神経終末から放出されて、胃や腸などの消化管の運動を促進したり、膀胱を収縮させて排尿を促す役割を果たしたりする物質です。アセチルコリンの働きが過剰になり腹痛や下痢が起きているときには、アセチルコリンの作用を妨げることが症状の軽減に役立ちます。

そのため、抗コリン薬が用いられます。また、アセチルコリンの働きが過剰になって膀胱が収縮しやすくなることで頻尿が起きているときなどに用いられるのも、抗コリン薬です。

そしてアセチルコリンは、脳の神経系でも働いており、特に認知・記憶に関与しています。動物実験で、脳内のアセチルコリン受容体を妨げる抗コリン薬を与えると、記憶力が低下することが知られています。では、胃腸の過剰な運動や頻尿を抑える目的で抗コリン薬を使うことで、記憶力も低下してしまうのでしょうか? 実際には、そうはなりません。

薬の成分が脳に作用するのを防ぐ「血液脳関門(BBB)」の働き

それは、薬が「脳に作用する・しない」を分ける、重要な体のしくみがあるからです。血流に乗った薬が末梢から頭のほうへと運ばれたとしても、頭蓋内には血管の壁が張り巡らされています。薬がこの壁を通り抜けなければ、脳の神経系には作用できません。脳は大切な臓器ですから、この血管の壁は特別なつくりになっています。そう簡単には血液中から脳実質内に物質が移動できないように守られているのです。

専門的な言葉では、「血液脳関門(Blood-Brain Barrier; BBB)」と呼ばれるものです。

今現在、胃腸や膀胱などの末梢組織におけるアセチルコリンの作用を妨げたいときに使われる抗コリン薬のほとんどは、このBBBを通らず「脳に作用しない」ように作られています。もしBBBを通って脳に作用してしまうと、余計な副作用が懸念されるからです。最初から脳に影響しないように作られた抗コリン薬を使っても、記憶力を低下するような効果は生じません。

実は、動物実験で記憶障害を誘発するために用いられる抗コリン薬は、BBBを通って脳に作用するタイプのもので、私たち人間に対してはあまり用いられません。

花粉症薬の抗コリン作用で、認知・記憶力低下の恐れがない理由

鼻水やくしゃみなどの花粉症対策に主に用いられるのは、「抗ヒスタミン薬」です。抗ヒスタミン薬は、アレルギー反応を誘発するヒスタミンという体内物質の作用を妨げることで、花粉症の諸症状を緩和します。そして実は「抗コリン作用」もあわせもっています。

このことから、「花粉症に使う抗ヒスタミン薬を飲むと、抗コリン作用によって認知・記憶力が低下する恐れがある」という話が持ち上がったのでしょう。しかし、今現在使われている花粉症対策の抗ヒスタミン薬は、ほとんどが「眠くなりにくい」タイプです。これはつまり、BBBを通らず脳に作用しないように作られているから、眠気を生じにくいのです。成分が脳に作用しないわけですから、認知機能が低下する恐れもありません。

また、花粉症の薬は、限られたシーズンに利用する薬です。高血圧の薬のように、毎日欠かさず一生涯飲み続けなければならないような薬ではありません。余計な心配をして服用を我慢し、QOLを下げてしまうくらいなら、つらいシーズンを乗り切るために積極的に活用すべきでしょう。

非常に残念なことですが、本来は医薬のプロであるはずの人たちでも、薬の副作用などの情報をおおげさに伝え、不安をあおっているケースが見られます。そうした誤った情報をうのみにして、「薬は怖い」と決めつけてはいけません。薬のメリットとデメリットのバランスを正しく理解し、よく考えて、賢く利用することを心がけましょう。

阿部 和穂プロフィール

薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。
(文:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者))

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  • 抗鬱薬は絶対のむなと聞いていイル。ま、うつにすらならないチャランポラン脳を直す薬がほしいところ。ノイローゼって最近きかなくなったけど・・
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