お米を炊飯器にセットするような感覚で、食用肉を“3Dプリント”する――4月13日に開幕する「2025年日本国際博覧会」(大阪・関西万博)の「大阪ヘルスケアパビリオン」で、そんな未来の光景が展示される。出展するのは、大阪大学大学院工学研究科のほか、伊藤ハム米久ホールディングスやTOPPANホールディングスなど6社が参画する「培養肉未来コンソーシアム」だ。4月9日に開かれた、報道関係者向けの内覧会で話を聞いた。
【画像】「家庭で作る霜降り肉」や、その作製プロセス(計6枚)
●「模様」もカスタム可能
培養肉は、人口増加に伴い懸念されるタンパク質の供給不足や、温室効果ガス排出による環境問題への解決策として、国内外で研究が進められている。
今回展示される培養肉は、和牛から採取した肉塊をもとに製造したものだ。はじめに筋肉・脂肪・血管の細胞をそれぞれ培養して増やし、3Dバイオプリント技術で直径1mm以下の線維状態に形成。これらを組み合わせることで、牛肉を再現している。
|
|
大きな特徴が、筋肉や脂肪の割合を自由に調整できる点だ。ヘルスケアパビリオンには、サシ(脂肪)が均一に入った霜降りステーキ肉のほか、赤身・脂身を格子状に組み立てた肉が展示されていた。後者については「パーティー用」といったシーンを想定しているとのことで、研究に携わる伊藤ハム米久HDの野嶽一将氏(大阪大学駐在)は、「将来的には文字を入れたり、誕生日ケーキのように顔写真の模様を入れることも可能です。その後焼いてしまうので、おすすめはしづらいのですが……」と説明する。
●家庭での実用化目指す
作製には「細胞を増やし始めてから約半年、増やした細胞の組み立てに約1カ月」を要したとのこと。ただし、「今は手作業で組み立てているので時間がかかっていますが、将来的には『夜にミートメーカーのボタンを押しておけば、翌朝にはお肉が出来上がっている』という未来を、2050年ぐらいまでに実現したい」と野嶽氏は話す。
ブースには、実用化を目指しているという家庭向け「ミートメーカー」のコンセプトモデルも展示されていた。「赤身か霜降りか」「どの栄養素をどの程度加えるか」といった“作りたいお肉の仕様”を指定できるようになっており、健康状態や好みに合わせたステーキ肉を自由に用意できる「未来のキッチン」が表現されている。
●果たしてお味は……?
|
|
とはいえ、気になるのはやはりその味だ。野嶽氏によれば、試食した人からは「『人工物』としてイメージされる味ではなく、明らかに生肉の味だ」という評価は得ているという。ただし、「食感が弱い」「味が薄い」「匂いが弱い」といった課題があり、今後もブラッシュアップを重ねるとのこと。「努力して作っていますが、まだ『安い肉』の味だったようです」
食品衛生法における枠組みが整っていないことから、まだ一般向けには提供できないというものの、同コンソーシアムは培養肉について、31年の商業化実現を目標に掲げている。大阪・関西万博においては、7月8日にヘルスケアパビリオン内の「リボーンステージ」で、「焼いた培養肉の香り」を体験できるイベントも予定されている。“家庭で肉を作る”未来は、想像以上に間近に迫っている――そんな実感を得られる展示といえそうだ。
|
|
|
|
Copyright(C) 2025 ITmedia Inc. All rights reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。