限定公開( 14 )
かっぱ寿司が食べ放題企画「食べホー」を実施中だ。定番である寿司の他、ラーメンなどのサイドメニュー、スイーツも対象である。普段は9店舗だけで実施しているが、期間限定で200店舗に拡大。当初は3月6〜26日の開催予定だったが、好評を受けて延長し、現在は4月23日までの開催を予定する。
かっぱ寿司は2017年からたびたび、期間限定で食べ放題企画を行ってきた。同社は2011年に回転寿司業界の売上高トップから転落し、店舗数でも現在は4位に位置する。このような状況で生まれた「食べホー」は集客を狙った施策と思われるが、どの程度の効果があるのか。
●寿司だけでなくサイドメニューやスイーツも食べ放題
かっぱ寿司では、ふだん食べホーを首都圏や中部、大阪、福岡の大都市圏にある9店舗で実施している。2017年から店舗数を期間限定で拡大しており、直近では200店舗で展開している。これは全国にある店舗の7割弱を占める。
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まぐろ、サーモンといった定番握りの他、ラーメンやフライドポテトなどのサイドメニューも対象だ。チョコレートケーキやバニラアイスなどスイーツも含む。
70分制で、ラストオーダーは終了時間の20分前。一般的な食べ放題と比較して時間は短めだ。タッチパネルで注文し、レーンで受け取るシステムを採用する。
価格は店舗タイプで分かれており、対象店舗のほとんどを占める「A店舗」では大人3890円・小学生1990円。東京など都市圏にあるB店舗では大人が4190円となる。B店舗では1790円でアルコールの飲み放題も追加可能だ。ターミナル駅付近や人口密集地にあるため、アルコール需要があるものと思われる。
予約は前日までにオンラインで行う必要がある。シャリを残した場合は1貫につき33円のペナルティが課されるなど、フードロスに対しては敏感な姿勢だ。
●「4000円」は高い? 安い?
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価格だけ見ると、70分で約4000円という設定は決して安くない。焼肉やしゃぶしゃぶといった他業態も選択肢に入る価格帯である。そもそも、以前の食べホーは2000円前後で提供していた。昨今の物価高により値上げを余儀なくされたようだ。
高単価メニューも一部除外している。例えば、110円皿のサーモンは食べホーに含むが、210円皿のとろサーモンは対象外。490円のパフェも除外している。質より量を求める消費者向けのサービスといえるだろう。
4000円の設定でどれほどの「お得感」があるのだろうか。マルハニチロの調査結果によると、回転寿司における支払額のボリュームゾーンは1000〜2000円で、皿数は10皿ほど。価格帯を考慮すると、かっぱ寿司の客単価は男性で1500円前後と思われる。通常より少し多く食べたぐらいでは「大損」となってしまう。
かっぱ寿司によると、3月における食べホー参加者の平均飲食額は6400円。少なくとも「元はとれた」人が多いようだ。握りだけで達するには困難な額であり、高単価なサイドメニューの注文も多いと思われる。
●期間限定ではなく「常設」にすべきではないか
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食べホーはかっぱ寿司にとって重要度が高いようで、かなり宣伝に注力している。公式WebサイトではYouTuberやインフルエンサーの撮影を受け付けており、YouTubeでもすでにいくつかの動画が公開されている。登録者数が100万人を超えるチャンネルでも取り上げられている。
こうした実情を踏まえると、食べホーはかっぱ寿司にとって「実利」よりも「宣伝」目的が強いのではないか。ミスタードーナツが過去に行っていた100円セールのような類といえる。実際、有価証券報告書には食べホーについて「新規お客様にとっての来店動機の充実」という記載があり、新規顧客の取り込みを目的としている。
冒頭の通り、かっぱ寿司はかつて国内トップの回転寿司チェーンだったが、ネタに力を入れるスシローや、レジャー性でファミリー層を取り込んだくら寿司、ゼンショーの資本力で勢力を伸ばしたはま寿司に抜かれ、4位に転落した。各社が発表する「好きな回転寿司ランキング」でも、他社に後塵を拝している。
トップからの転落後に生まれたのが食べホーだが、思惑通り食べ放題で来店した客がその後もかっぱ寿司を選択するかは疑問だ。
依然として「税別100円寿司」を提供するなど、安いメニューをそろえるものの、他チェーンでも同様の価格帯で商品を販売しており、突出した強みになり得ない。ネタやレジャー性でかっぱ寿司が他チェーンに秀でているわけでもない。
一方で競合は定常的に食べ放題企画を出しておらず、食べホーは武器になりそうだ。常に実施していれば、それなりのコスパで「量」を食べたい客を取り込める。かっぱ寿司は差別化の一環として、食べホーを全店・全期間で対応し、常設メニューにすべきではないだろうか。
●著者プロフィール:山口伸
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。
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