興奮状態や混乱も……薬学部教授が教える「薬剤性せん妄」とは何か

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2025年04月17日 20:50  All About

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【薬学部教授が解説】軽い意識障害や注意障害の状態を指す「せん妄」。ぼんやりしたり、興奮しておかしなことを訴えたり、家族の名前を言い間違えたりと、さまざまな症状が起こります。原因と対処法について分かりやすく解説します。
「せん妄」はあまり聞き慣れない言葉かもしれません。漢字では「譫妄」と書きますが、「譫」には「戯言やうわ言のように、とりとめもなくしゃべる言葉」、「妄」には「我を忘れた振る舞いをする様子」という意味があります。

つまり、これらを合わせた「譫妄」は、元来は「我を忘れて、意味不明のことを言い出すこと」を意味します。漢字で難解なため、「せん」はひらがなにして「せん妄」と表記するのが一般的です。

せん妄の症状と種類、特に誰にでも起きうる「薬剤性せん妄」について、分かりやすく解説します。

せん妄とは……軽い意識障害や注意障害の症状

医学的に「せん妄」というと、軽い意識障害や注意障害の状態を指します。具体的には、次のようなさまざまな精神症状があります。

・ぼんやりしていて、呼び掛けに応じない
・つじつまが合わないことを言い、おかしなことを訴える
・時間や日づけ、自分のいる場所、家族の名前を言い間違うなど、ひどい物忘れの状態になる
・夕方から夜にかけて、興奮して眠らなくなる
・人が変わったように不機嫌になり、イライラする
・実在しない人や物が見えるような動作をする(幻視)

これらの症状は全てが必ず現れるわけではなく、人によってまちまちです。「低活動型」の場合は、急に黙って話さなくなったり行動が遅くなったりしますが、「過活動型」は逆に激しく興奮することが中心です。「混合型」の場合は、それらが交互に現れたりします。

入院中のせん妄によるトラブル・高齢者のせん妄は認知症との混同も

入院している方がせん妄を生じると、急に怒り出したり、点滴やチューブを自分で抜いてしまったりして、安静が保てなくなり、トラブルを起こすこともあります。意識が混濁した状態で異常な言動が生じるので、そのことをご本人が覚えていないこともあります。

高齢者の場合、せん妄の症状は認知症と間違われやすいです。しかし、せん妄と認知症は違います。せん妄の場合は、数時間から数日単位で一過性に脳機能不全が生じることで発症します。また、同じ日のうちでも、時間帯によって症状がおさまったり急にでたりもします。

夕方からや夜間に悪化することが多く、そのような場合は特に「夜間せん妄」とも呼ばれます。

せん妄の原因は、加齢による脳機能の低下のほか、環境変化、薬など

原因はさまざまで、加齢による脳機能の低下や、何らかの脳疾患に伴って現れることもあります。脱水や感染症、入院や手術といった身体や環境の変化などが重なり合うことでも発症に至ります。

何らかの病気の治療目的で飲んでいる薬が強く効き過ぎて、その副作用でせん妄が生じることもあり、そのような場合を特に「薬剤性せん妄」と言います。

薬剤性せん妄とは……原因と対処法

薬剤性せん妄の原因となる薬には、睡眠薬や抗不安薬、麻薬性鎮痛薬、副腎皮質ステロイド、アレルギーの治療に用いられる抗ヒスタミン薬(眠気を生じやすいタイプ)、一部のパーキンソン病治療薬などが知られています。

大まかに言えば、「脳を抑制することで効果を発揮する薬」が、せん妄を生じやすい性質があると考えてよいでしょう。またそうした薬を服用している期間だけでなく、長期間服用していた薬を急に中止したときにもせん妄を発症することがあります。

薬剤性せん妄が起きたときには、原因と考えられる薬の使用を中止または減量することが基本的な対応です。ただし、そうした薬は元々何らかの病気の治療目的で飲んでいたわけですから、その病気の治療も継続できるよう、代替薬を使用するなどの工夫が必要になります。

また、多くの薬を飲み合わせている、いわゆる「ポリファーマシー」の状態は、薬剤性せん妄が起こりやすいです。使う薬の数は、できるだけ減らすようにします。さらに、薬剤性せん妄であっても、薬だけではなく、他の要因とも関係して発現していることが多いので、身体的および精神的なケアも必要になります。

繰り返しになりますが、薬剤性せん妄は、実にケースバイケースです。服薬の中止や減量で、比較的すみやかに改善することもあれば、うまく治まらず慢性化することもあります。一概には対応できませんので、様子がおかしいと気づいたらすみやかに専門医に相談し、早期に個別対応してもらうことが大切です。

阿部 和穂プロフィール

薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。
(文:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者))

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