性暴力「なかったことにされたくない」 被害元記者の思い 24日判決

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2025年04月19日 07:16  毎日新聞

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毎日新聞

上田清司参院議員の公設秘書だった男性からの性暴力被害を訴える訴訟を起こし、記者会見する原告側弁護団=東京都港区で2023年3月8日午前11時3分、鷲頭彰子撮影

 2020年に上田清司参院議員(前埼玉県知事)の公設秘書の男性(故人)から取材中に性暴力を受けたとして、元記者の女性が国に損害賠償を求めた訴訟の判決が24日、東京地裁で言い渡される。「なかったことにされたくない」と提訴してから2年。この間、元タレントの中居正広氏による女性アナウンサーへの性暴力が明らかになるなど、社会はハラスメントに対してより厳しい目を向けるようになった。判決を前に、裁判を闘った思いを聞いた。【鷲頭彰子】


「周りの人に誤解されたままでは」


 ――なぜ裁判を起こしたのですか。


 ◆加害者に対する怒りもありますが、「周りの人に誤解されたままでは納得できない」という気持ちが強かったです。前県知事の秘書から性暴力を受け、被害届を出して(相手は)書類送検されたにもかかわらず、週刊誌に事実と異なることを複数書かれ、県政関係者を中心に加害者と不倫関係にあったのではないかと根も葉もないうわさが流れました。個人として週刊誌に抗議文を出しても相手にされず、裁判しか事実を知ってもらうすべがありませんでした。「なかったことにされた」被害者が他にもいるかもしれないと、闘うことにしました。


 ――意見陳述では「なかったことにする動きは今も続いている」と述べていました。


 ◆提訴の日、上田氏は会見で「秘書が弁護士に相談していることは知っていたが詳しい内容は知らなかった」と発言しました。私自身、上田氏の後援会事務局長(当時)に被害を伝えていますし、その事務局長を含め、2人以上から「上田氏が事件の内容を聞いている」と確認しています。秘書が、警察に任意で事情を聴かれていることを上司の議員に話さないことがあるでしょうか。加害者は上田氏に辞職を申し出ましたが、続けるように言われたと警察に話していました。「知らなかった」と言うのは、理解に苦しみます。


 ――フジテレビの第三者委員会は中居氏による性暴力を認定しましたが、性暴力被害を被害者が証明するのは難しいですか。


 ◆被害に遭った直後は「酒を飲みすぎた自分が悪いのではないか」と自分を責めました。しかし、周りの人や警察に相談すると「証拠がなくなる前にすぐに被害届を出すべきだ」と言ってもらえ、被害届を出すことができました。着衣に残されたものや路上の防犯カメラ映像などの証拠が残っていたので、あとは公平に判断してもらおうと思っていました。


 事件として逮捕されれば、加害者、被害者の関係が明白になります。ただ、今回は準強制性交等容疑などでの書類送検で、加害者が自死したため不起訴処分になりました。書類送検は県警からマスコミに広報されません。私は加害者が謝罪を一切せず仕事を続けていたこともあり「記事にしてもらうしかない」と、自分の会社に報道するよう求め、他のマスコミの取材にも応じました。しかし、どの社も書類送検をニュースにしませんでした。


 その後、「不倫の果て」と読み取れるような週刊誌の記事のみが出て誤解され、時間が過ぎてしまいました。ようやく国を相手取り民事裁判を起こしましたが、国側の弁護士は警察の捜査記録は全て破棄されたとして、「客観的証拠はない」と主張しています。性暴力は1対1の場で行われ、録音、録画もないので、客観的な証明は困難です。


 フジのアナウンサーだった女性の心の傷は癒えないと思いますが、性暴力が認められたことは大きいと思います。第三者委は日本弁護士連合会のガイドラインに基づき性暴力を認定しました。報告書は、世界保健機関(WHO)の性暴力の定義も示し「同意のない性的な行為」が広く含まれると指摘しています。周りの人が良かれと思ってやったことが2次加害にあたると指摘した部分もあり、多くの人が読むべきです。


 ――被害の証明のため、捜査員とのやりとりの録音を証拠として提出しました。


 ◆県警捜査1課は一生懸命捜査してくれましたが、任意捜査の前日に加害者本人に一報を入れたことなどをきっかけに信じられなくなり、録音を始めました。録音では捜査員の方が、どのような証拠を書類にして送検したかなどのやりとりが記録されています。


 裁判で国側は無断録音と非難していますが、捜査記録はすべて破棄したと言われたので、証拠がなく出さざるを得ませんでした。


 ――所属していた会社は発生4年後にようやく上田氏に抗議しました。中居氏の問題でも、番組出演を継続させたフジの対応が第三者委に非難されました。


ふとした瞬間に今でも涙


 ◆本来なら会社が社員を守るものです。「社員が被害に遭ったら会社として抗議する」という当たり前のことが、私は4年たってようやく実現しました。


 会社も対応に困ったとは思いますが、書類送検時に何も動かなかったこと、週刊誌の誤った記事に抗議しなかったこと、加害者側にしばらく抗議文を出さなかったこと、限られた人数で対応方針を決めたことは正しくなかったと思います。


 会社からは「大ごとにしない方が私(被害者本人)のため」と言われてきました。「大ごとにしない」ことと、「なかったこと」は全く別ものです。私は「なかったことにされること」が一番つらかったです。事実と異なるうわさが流れ、誤った情報が広がり、結局2次加害を広げることになってしまったと思います。


 ――どのような社会を望みますか。


 ◆母と警察署に行く機会が多かったのですが、途中で母が「相手が悪かったね(諦めよう)」と言ったことをよく覚えています。相手が権力者の場合、泣き寝入りする被害者は多いのではないか。そういう社会であってはなりません。


 今でもふとした瞬間に思い出し、涙が出ます。性暴力は加害者からしたら一瞬の過ちかもしれませんが、被害者は一生の傷を負うものです。裁判は長く、国側の主張は私を傷つける発言ばかりです。


 2次被害を覚悟しながら闘っていますが、被害者にとってはつらいことの方が多いです。悪気なく2次加害となりうる発言をされることもあります。被害者が勇気をもって声を上げることをためらうような社会は、もう改められるべきではないでしょうか。性暴力についてより多くの人が理解し、社会からなくなることを望みます。


訴訟の概要


 元記者の女性は、上田清司・参院議員(前埼玉県知事)の公設秘書だった男性から取材中に性暴力を受けたとして、国に約1100万円の損害賠償を求めて提訴した。


 訴状などによると、取材のため秘書と会食した際、飲酒で意識がもうろうとし、会食後に性暴力を受けたとしている。秘書は準強制性交等などの疑いで書類送検されたが、その2日後に自死し、不起訴処分となった。


 公設秘書は国会議員が採用する特別職の国家公務員のため、女性は国家賠償法に基づき国を提訴。秘書が取材の機会を利用して職権を乱用したと訴えた女性に対し、国は「立証が不十分」「(不法行為があったとしても)私的行動の一環」などと主張し、請求棄却を求めた。



このニュースに関するつぶやき

  • 被害者が泣き寝入りする世はこれを機に無くなって欲しいですね
    • イイネ!4
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