「都は控訴しないで」 産院で取り違えられた男性、早急な調査求める

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2025年04月21日 20:53  毎日新聞

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東京都に生みの親の調査を命じた東京地裁判決の後、記者会見する原告の江蔵智さん(中央)=東京・霞が関の司法記者クラブで2025年4月21日午後1時55分、巽賢司撮影

 自分は何者なのか――。出生時に産院で取り違えられた江蔵(えぐら)智さん(67)は約20年間、この根源的な問いに頭を巡らせてきた。東京都に生みの親の調査を命じた21日の東京地裁判決は、「出自を知る権利」は憲法が保障していると明確に応えた。江蔵さんは、一日も早く実の親に会えることを願っている。


 21日午後1時過ぎ、東京地裁の712号法廷。江蔵さんは時折、目を閉じて「神に願うような気持ち」で判決を待った。調査を命じる主文を聞くと、「一歩、前進した」と胸をなで下ろした。


 違和感は幼少期にさかのぼる。盆や正月に親戚で集まると、「お前は親に似ていないな」といつも言われた。両親も弟も小柄だったが、自分は長身だった。


 46歳だった2004年、体調不良をきっかけにDNA型鑑定をすると、両親との親子関係が否定された。生みの親がどんな人なのか知りたくなった。出生した東京都立墨田産院(墨田区)は閉院しており、運営していた都に協力を求めたが「門前払い」にされた。


 都に損害賠償を求めた訴訟を起こし、06年に取り違えの事実を認める判決が確定した。それでも都は協力を拒否し続けた。住民基本台帳の閲覧制度を使い、墨田区で同じ時期に生まれた人を調べて家を訪ね歩いた。いつまでたっても生みの親が分からない毎日に体調を崩すこともあった。


 「出自を知る権利」は日本では法制化されておらず、生みの親の調査を求める裁判を起こしても厳しい結果が予想された。ようやく弁護士を見つけ、21年11月に提訴した。


 21日の判決は、江蔵さんと同時期に墨田産院で生まれた可能性がある男児を調べる▽協力を得られればDNA型鑑定を実施してもらう――ことなどを都に命じた。ただ、調査される側の出自が揺らぐ不利益も「軽視できない」とした上で、取り違えの相手が最終的に調査に応じないこともできる選択肢を残し、調査される側にも配慮した。江蔵さんも相手方の事情に配慮する調査方法を求めていた。


 江蔵さんの育ての父親は10年前に亡くなり、母親(92)も今や会話が困難だ。生みの親も育ての親と同じように高齢なはず――。江蔵さんは、実親と元気に話せる時間は少ないだろうと感じている。


 判決後の記者会見で江蔵さんは「求めたことが認められ、判決に大変感謝したい。早く実の親に会いたい」と喜んだ。一方で、都が控訴して訴訟がさらに長期化することを懸念し「都は一日も早く調査してほしい。控訴しないで」と訴えた。


 江蔵さんの代理人の小川隆太郎弁護士は「『出自を知る権利』は子どもの権利条約などには明記されているが、『日本では法制化されていない』といって逃げるのが普通の裁判所の判断のはず。今回の判決は憲法や国際条約を踏まえて骨太の議論をしてくれた」と高く評価した。【安元久美子】



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  • 例の赤箱のある病院も将来こういう裁判起こされるよね。
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