
「58万7000人」。これは、選択的夫婦別姓が法制化された場合、事実婚から法律婚に移行するとみられる推計の数です。参院選を前に、国会では法案成立への議論が加速しています。
【写真をみる】「我慢とかいう問題じゃない」事実婚を選択した佐藤万奈さん
「『名前変えてくれない?』と言われたことを恨んでる」 結婚時の妻の言葉「名字を別にして生きていきたいと思った時に、受けられないサポートが多すぎる」
「(制度が)変わったらすぐに法律婚をしたい」
※一般社団法人「あすには」の作成映像から
「選択的夫婦別姓が法制化されたら、58万7000人が婚姻届を出す可能性がある」。一般社団法人「あすには」が、慶應義塾大学の教授らと行った事実婚に関する意識調査の結果を公表しました。
事実婚を選んだ理由は「改姓を望まないから」が最も多く約3割で、20代は約4割に上っています。
「あすには」代表理事 井田奈穂さん
「(選択的夫婦別姓を)待っている理由は命とお金の不安。若い人たちにこのまま受け渡すのか。これを解消するのが政治の役割ではないのか」
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やむなく、事実婚を選ぶ人たちがいます。北海道・札幌市に住む佐藤万奈さん(38)と西清孝さん(33)です。
職場の同僚だった2人は、2019年に婚姻届けを出した際、佐藤さんが苗字を「西」に変えました。
事実婚を選択 佐藤万奈さん
「婚姻届出した時は正直、嬉しいという気持ちはほとんどなくて、私の名字がこれで公式になくなったんだなみたいな感じになって、何でこんな思いしなきゃいけないんだろうと」
アイデンティティーが失われていく感覚。勤務先の病院では、旧姓の使用も認められませんでした。
事実婚を選択 佐藤万奈さん
「名札や電子カルテに表示される名前がどんどん『西』に変わっていって。自分が我慢すればいいのかなと思ったりしたんですけど、我慢とかいう問題じゃないかも」
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佐藤さんは適応障害と診断され、職場を退職。2人はペーパー離婚を決断しました。夫婦別姓にするため、事実婚を選択したのです。
事実婚を選択 西清孝さん
「(結婚の時)『名前変えてくれない?』と言われたことを恨んでると妻から言われて、そのときに初めてやっと、恨まれるようなことをしてしまったんだと。事実婚にして妻の名前を取り戻すことにしようとした」
2人は2024年3月、夫婦別姓が認められないのは「婚姻の自由」などを保障した憲法に違反するとして、国を相手に提訴しました。
最も不安に思っているのは、事実婚では税の控除が受けられないことや、手術など医療行為への同意ができないリスクがあることです。
事実婚を選択 西清孝さん
「15年経ったら万奈さんは50代になって、僕も40代後半になっていると考えると、不安はもっともっと増大してるのかなと」
事実婚を選択 佐藤万奈さん
「嫌ですけどね、そんな未来」
夫婦の約95%は、女性が改姓しています。
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富久田三千代さん(52)は、宇都宮市で園芸専門の会社を営む女性社長です。5年前に父から家業を受け継ぎました。
先代の社長 父・益子清さん(82)
「わたしなんかよりもずっと経営者的な感覚を持っています」
富久田さんは東京都内で就職し、その後地元に戻り、父が経営する会社に入社。29歳で結婚し、富久田姓に改姓しました。3人の娘の母親です。
結婚当初は想定していなかった、家業の事業承継。様々な壁にぶち当たったといいます。
とちぎ園芸 富久田三千代 社長
「『あなた誰ですか?』というところですよね。『嫁に行っているのになんで家業を継ぐんだ』や、(年代の上の人に)『嫁に行った先に行って謝って来い』と言われたことがあった。それはなんかおかしいなと思って」
父から事業を引き継いだが、父とは異なる姓。社長にとって、名字はどのようなものなのか?そこには、中小企業ならではの特徴がありました。
とちぎ園芸 富久田三千代 社長
「中小企業って20〜30年に1回(社長が)代わる。名前というのが一つのブランドになっている」
富久田さんは3年前に離婚しましたが、20年近く使ってきた名字を変えずに生きる道を選びました。
とちぎ園芸 富久田三千代 社長
「姓が変わるとやはり社長が代わるのかと思われる方もいるかもしれない。キャリアが断絶されてしまうんではないかという不安が非常にありました」
富久田さんの背中を間近で見てきた長女の怜夏さん(23)は、将来的に事業を継ぐ予定だと話しますが…
長女 富久田怜夏さん
「今まで夫婦別姓にできなくて苦労してきた話もあるんだろうなというエピソードを(母から)聞いていたので、私は別(姓)になれるならなった方が、その選択肢があるのはいいと思います」
富久田さん自身も、法案成立に期待を寄せます。
とちぎ園芸 富久田三千代 社長
「冠に『選択的』ってついているのが一番の肝だと思っていて。選択する自由を与えてくれるのが一番。女性活躍してくれって言っているんだったら、そこを選ばせてくれるのが一番重要」
小川彩佳キャスター:
安野さんはご結婚されていますが、選択的夫婦別姓についてはどのように考えていますか。
AIエンジニア SF作家 安野貴博さん:
早く実現してほしいです。
やはり私は「安野」姓をそのまま使い続けている立場なので、妻には負担を強いてしまっていると思いますし、妻は今もビジネスをやっていますが、姓を変えたことでやりづらさを感じていると思います。
周りの研究者も、論文に書く名前もあるので、早く実現してほしいという声をすごく聞きます。
藤森祥平キャスター:
30年近く結論が出ないまま現在に至っているわけですが、選択的夫婦別姓制度について議論の鍵を握っているのは、推進と反対がはっきり分かれている自民党です。
自民党が今後、どういう形で進んでいけば選択的夫婦別姓は決着していくのか、TBSスペシャルコメンテーターの星浩さんは3つのシナリオを挙げています。
●自民党議員の一部が賛成 → 成立
●自民党として反対 → 衆院通過も参院で否決
●採決見送り
どれが一番現実的なのでしょうか。
TBSスペシャルコメンテーター 星浩さん:
自民党の中では当初、夏の参議院選挙で選択的夫婦別姓を争点にするよりはむしろ賛成し、実現させた方がいいのではないかという議論がありました。
しかし党内の保守派、反対派が強くなり、この局面では採決をしばらく先送りにした方がいいという意見が、執行部の中では最近強まっている状況です。
藤森キャスター:
今お話があったように、自民党の中では、家族の一体感が損なわれてしまうという意見など、夫婦別姓に反対を示している保守派がいます。
それから、旧姓の通称使用を広げていって問題を解決しようと主張している議員もいます。
TBSスペシャルコメンテーター 星浩さん:
選択的夫婦別姓にすると家族の一体感が損なわれるという議論がよくありますが、日本以外のほとんどの国は別姓を選択できるようにしているので、各国では家族の一体感が損なわれているのでしょうか。それは無理な議論だと思います。
小川キャスター:
ずっとこの議論は平行線をたどってきて、保守派の方々は、この考えを崩さないわけです。
そうした方たちが考えを変えてというか、賛成している自民党議員が押し切って成立に持っていくシナリオは、可能性としてあるのでしょうか。
TBSスペシャルコメンテーター 星浩さん:
ずっと長年の懸案になっているので、いつまでも先送りするわけにいかないという判断も、自民党の中には確かにあります。
それから、小泉進次郎議員が一時言っていたのは、党議拘束をやめるということです。この問題は政策というよりも、個人の家族観などに関わるので、自由に投票してもらうことによって成立していくのがいいのではないかという意見がありました。
ただやはり、選挙が近づいてきて、応援してくれる保守派への配慮がだんだん今強くなっているのが現状です。これは女性の権利の問題になってきたので、私は早急に決着をつける時期になっていると思います。
藤森キャスター:
立憲民主党が今週中にも独自の案を国会に提出すると言っていますが、いよいよ大きく動きそうになるのでしょうか。
TBSスペシャルコメンテーター 星浩さん:
動きますね。おそらく連休明けから本格議論があって、6月の下旬が国会の会期末なので、そこまでにはある程度の決着をつけなければいけません。どういう顛末になるか、これから大きな動きが見られると思います。
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<プロフィール>
安野貴博 さん
AIエンジニア SF作家
2024年の都知事選で5位
デジタルで政治変革を目指す
星浩さん
TBSスペシャルコメンテーター
政治記者歴30年 福島県出身