限定公開( 1 )
お店でご飯を食べるとき、「誰がこの料理を作ったのだろうか?」と考えたことはありませんか。
「実はロボットが作っていた」
そんな時代が当たり前になるかもしれません。
2022年の北京冬季オリンピックで、世界中のメディアを驚かせたのは、選手村やメディアセンターに設置された最先端の調理ロボットでした。天井に張り巡らされたレールを縦横無尽に移動する配膳ロボットが、麺料理やハンバーガーを運んでくる光景は、まるでSF映画のワンシーン。
|
|
さらに驚かされたのは、これらのロボットが単に配膳だけでなく、調理までおこなっていたことです。ガラス張りの機械式キッチンでは、調理ロボットがハンバーガーのバンズを温め、パティを焼き、レタスとソースを挟み、パッケージまでおこないました。フライドポテトを作るロボットアームは、素早く動き、リズミカルな動きで油切りをするなど、まるでロボットシェフという姿でした。
これは、オリンピックという4年に1度の世界が注目する特別なイベントだから実現した話ではありません。日本の飲食店でも、ロボットによる調理が着々と進んでいます。
例えば、全国に350店舗を展開する大阪王将ではいくつかの店舗で炒飯やレバニラなどの炒め物を自動で調理するロボットが活躍しています。熟練の職人技を徹底的に目指すことで、火加減・品質・味など、職人が調理したものと遜色がない料理が提供されます。ロボットを活用することで厨房内の人手を1人分程度減らし、飲食店における重要指標となる食材費と人件費の合計金額を示すFLコストを約10%削減することができています。
さらに「レバニラ炒飯セット」といった従来は難しかった炒め物2品のロボットオリジナルセットメニューの提供や座席のタブレットから注文するときに「肉多め」「玉ねぎ少な目」など個人ごとに味をパーソナライズできるという特長もあり、単価や客数のアップにもつながっています。
また、厨房内の温度も下がり、食材の飛び散りや湯煙も減少して床が汚れにくくなったことで、働きやすい厨房環境にもなります。さらには、フライパンを振る作業などは力が必要でしたが、ロボットを使うことにより、力の弱いシニアや女性にも活躍の場を広げられます。
|
|
そして、中華料理だけではなく、そばやパスタを自動で調理するロボットも登場し、忙しい飲食店での業務効率化に貢献しています。例えば、プロントでは「麺の茹で、具材・ソースの供給、調理、鍋の移動・洗浄」を自動でおこなう調理ロボットが導入されています。
画像認識技術によりパスタや具材などの状態を把握し、状況に合わせてハンドリングをおこなったり、人には難しい従来比約2倍の高温での調理をおこなったりすることで、利用者がパスタを注文してから提供されるまでの時間は、既存店での約3分から最速45秒まで短縮されるようになっています。
そのうえで盛り付けは人間がおこなっています。ロボットにしかできない超高速調理と、人の感性を生かした美しい盛り付けを融合させることで、おいしく美しい料理を提供しているのです。
調理だけではなく、食べた後もロボットは活躍します。牛丼チェーン大手の吉野家では、使用済みの器を自動で食洗機にセットするロボットが登場しています。もともとは使用後の汚れた食器を従業員が手で浸漬水に浸したうえで一つひとつ取り出し、洗浄機用のラックへ載せ替え、食洗機を使用して洗浄するという作業でした。
そのようなタスクのなかで、汚れた水の中から、多種多様な種類の汚れた食器を取り出し、ラッキングする工程の自動化を狙っているのです。片付けは、お客さんへの付加価値に直接的にはつながりにくいにもかかわらず、手荒れが起こりやすい仕事です。これらを自動化することで、スタッフの労力が削減され、より接客に集中できるようになります。
|
|
調理や片付けなど飲食店業務をロボットが担うことにより、少ない人手で、そして、よりよい労働環境で店舗オペレーションができるようになります。また、料理の提供スピードの向上や品質の安定など、飲食店のサービスが向上します。さらに、ロボットは繰り返し作業に強いため、特定の料理を大量に安定して提供することも可能なのです。
結果として、少人数での営業や深夜・早朝の営業など、ビジネスの戦略にもつながることになるでしょう。
一方で、ロボット活用が進むと、人の価値や手づくりの価値が問われることになります。人は、大阪王将の事例のようにロボットの手本となる超一流の職人として調理技術を磨き続ける、もしくは、プロントのように盛り付け作業など高い感性が求められる仕事を担うようにするのもひとつです。
いずれにせよ、ロボットは必ずしも人と対立するものではありません。どのようにロボットと人を組み合わせ、お客さんによいサービスを提供できるかを考えていく必要があるのです。
ロボットが調理したご飯を食べる時代はすでに始まっています。そして、もしかすると、あなたの家でも冷蔵庫の中身やその日の体調や好みに合わせて調理ロボットが活躍し、未来の食卓に彩りを添えるようになるかもしれません。
(安藤健、ロボット開発者)
|
|
|
|
Copyright(C) 2025 ITmedia Inc. All rights reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。
ドコモが料金プラン刷新したワケ(写真:ITmedia Mobile)79
ドコモが料金プラン刷新したワケ(写真:ITmedia Mobile)79