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《ゼロカロリー、低カロリーのダイエット飲料や食品に使用される人工甘味料は空腹感を増大させ、肥満の原因になりうる―》
こんな研究が、アメリカ・南カリフォルニア大学ケック医学校のペイジ博士らによって、3月26日の学術誌『ネイチャー・メタボリズム』に発表された。研究内容は、人工甘味料の一種であるスクラロース入りの水(糖質ゼロ)を飲んだ人、砂糖入りの水を飲んだ人、水を飲んだ人の3つのグループに分け、それぞれの被験者の空腹時血糖値を測定し、空腹度合いを比較したもの。
実験の結果、スクラロース入りの水を飲んだ人がもっとも食欲が高く、砂糖入りの水を飲んだ人より約20%も増進しているというデータが得られた。つまり、糖質ゼロを選択することで、砂糖を取るよりも“食べすぎ”のリスクが高まるというから衝撃的だ。
人工甘味料は、砂糖の何百倍もの甘さをもちながら、カロリーはゼロであり、コストが安いのが特徴。それを活用し、飲料、菓子類など、さまざまな食品に使用されている。スーパーやコンビニでは「糖質ゼロ」をうたう多くの商品が店頭に並んでいる。
特に、飲料で幅広く用いられており、炭酸飲料やスポーツドリンク、プロテイン飲料、さらにはビール、カクテルなどのアルコール飲料にも添加されている。それによって「糖質ゼロ」「カロリーオフ」「糖質カット」を売りにしている商品は数多い。
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今回の実験で用いられたスクラロースのほか、アスパルテーム、アセスルファムK、サッカリンなどがある。’22年4月からは「人工甘味料」ではなく、「甘味料」という表記で食品表示に記載されている。
それにしても、糖質ゼロ飲料がかえって食欲を増進させてしまうというのは、一体どういうことなのだろう。
この研究について、福岡天神内視鏡クリニック消化器福岡博多院の秋山祖久院長は次のように解説する。
「“カロリーがゼロなのに甘みがある”がために、脳を混乱させてしまうことが原因です。私たちが砂糖を含む飲料を飲んで甘みを感じると、脳は血糖値の上昇に備え、インスリンを分泌するよう指令を出します。それによって、血糖値が上がりすぎずにすむのです」
いっぽう、人工甘味料を使用した糖質ゼロのドリンクを飲んだときも、脳はインスリンを分泌するよう指令を出す。
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「ただし糖質は含まれていないため、実際には血糖値はほぼ上昇しません。その結果、分泌されたインスリンの働きによって血糖値が下がりすぎた状態になってしまう。すると、今度は脳が血糖値を上げるために空腹信号を発するのです。
このようなメカニズムで、人工甘味料によって脳が混乱することを引き金に、食欲が増してしまうと指摘されているのです」(秋山先生、以下同)
カロリーを抑えたいと、糖質ゼロをうたう食べ物や飲み物を意識的に選ぶ人も多い。
「ところが、その健康志向が肥満や糖尿病のリスクにつながりかねない、と言えます」
秋山先生によれば、人工甘味料と肥満・糖尿病リスクの関係を指摘した研究結果はこのほかにも複数あるという。なかには《週1杯以上の低カロリー飲料は糖尿病リスクを1.7倍高める》というものも。
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「舌だけでなく、腸も甘みを感じる、という研究報告もあります。人工甘味料が腸内に入ると、腸が甘みを認識し、インクレチンというホルモンの分泌を介してインスリンが分泌されますが、糖質が含まれていないため、やはり血糖値が下がりすぎてしまいます。このとき、腸内の細菌叢に悪玉菌を増やすこともわかっています」
悪玉菌が増えると、腸の粘膜に隙間ができる「リーキーガット症候群」のリスクが高まるという。リーキーガット症候群は“腸もれ”とも呼ばれ、過敏性腸症候群や炎症性腸疾患を起こすことでも知られているが、肥満リスクも高めてしまう。
糖質ゼロだから、と安心してむやみに取ることには注意が必要といえそうだ。とはいえ、おやつタイムなどにスイーツを取っている至福のひとときはかけがえのないもの。甘いものが欲しくなったとき、何を選ぶのが賢明なのだろうか。
「ラカンカやステビアといった植物由来の甘味料であれば、脳を混乱させるリスクを抑えることができます。同じく天然由来成分のオリゴ糖は善玉菌のエサになることで知られていて、腸内環境を整えてくれるのでおすすめです。
ただし、これらの甘味料であっても、取りすぎは禁物。ほどほどを心掛けてください」
すぎおかクリニックの杉岡充爾院長もまた「糖質ゼロなら問題ない、と思い込んでいる人は多い」と話す。
「私の患者さんに人工甘味料の健康リスクについて話すと、口をそろえて『知らなかった』『まさか逆効果だったなんて……』と驚かれます」
杉岡先生は患者に対して、「飲むのはできるだけ水かお茶に」といつも伝えているという。
「どうしても甘い物断ちができないという人もいます。その場合、つなぎとして糖質ゼロの飲み物を取る程度であれば問題ありませんが、その頻度を少しずつ減らしていくように心がけましょう」(杉岡先生)
いいことずくめの甘い話、とはなかなかいかないようだ。よかれと思って選んだ食べ物や飲み物が、かえって健康を脅かすリスクにつながることのないよう、くれぐれも気をつけたい。
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