写真 2020年刊行の書籍『おうち性教育はじめます 一番やさしい!防犯・SEX・命の伝え方』(KADOKAWA)。出版と同時に瞬く間に話題となった本書は、おうち性教育シリーズとしてシリーズ化され、累計部数30万部を記録しています。そして、今年3月にはシリーズ第3弾となる『こどもせいきょういくはじめます』が発売されました。
第3弾では、生理時に女性が使うナプキンの枚数の目安を具体的に説明するなど、かなり踏み込んだ内容になっています。著者のフクチマミさんに、第3弾に込められた思いを聞きました。
◆性教育の話題を、茶化したくなる子どもたちも
──『こどもせいきょういくはじめます』を制作するにあたり、15年以上前から性教育に力を入れている、和光小学校(東京都)に取材に行かれていますね。和光小学校の性教育の授業で感じたことを教えてください。
フクチマミさん(以下、フクチ)「和光小学校では、小学校1年生の頃から性教育のカリキュラムが組まれていて、それに基づいて授業が進められていました。低学年からこんなにきちんとした性教育を受けていると、性教育の授業や性の話題を茶化す子どもはいないだろうなと思っていました。
でも、やっぱり高学年になると、どうしても性教育の中で出た性に関わる言葉を下ネタとして茶化す子が出てくるんですね。そこは、どんなに小さいうちから性教育を受けていても、一般的な学校の子どもたちと似たようなトラブルが起きるんだなと感じました。
ただ、驚いたのは、茶化す子が出てきた後の対応です。その後の対応が、私の想像とは全然違っていたんです」
◆「子どもだからしょうがない」という対応が正しいの?
──どのような対応だったのでしょうか。
フクチ「下ネタとして悪ふざけを言う子がいますよね。そうすると、担任の先生が『今言った下ネタはどういう意味で言ってるかな?』『言われた人や聞いた人、どういう気持ちだったかな?』と、クラスの子どもたちにどんどん聞いていくんです。そこから話し合いが始まります。
みんなで話し合っていく中で、発言した子はみんなが面白がってくれると思って言ったのだけど、実は嫌な気持ちになっていた子もいたということがわかっていきます。話し合いを進めていくうちに、クラス全体が目に見えて落ち着いていったんです」
──子どもだから下ネタぐらいしょうがないとするのではなく、その話題がふさわしくない時や場があること、嫌な気持ちになっていた子もいるというのをみんなで話し合うわけですね。
フクチ「はい。性教育をしていれば、トラブルが起きないわけではないんです。時には、よくないことを口にしたり行動に移したりしてしまうこともあります。でも先生も生徒たちも、性にまつわる出来事が起きたときに、それに向き合う胆力と知識があるんです。先生の問いかけに耳を貸す力もありますし、『下ネタで不快に感じた人がいた』ということを、事実として受け止めることができていました。その流れそのものが性教育だと感じました」
──素晴らしいですね。
◆性教育の積み重ねでできる、知識や理解の土台
フクチ「さらに、5年生、6年生になると、知識の土台もしっかりできているんです。例えば、LGBTQ+の言葉の意味など、大人でもよく知らないことはありますよね。私が見学させてもらったのは6年生の授業でしたが、全体的に言葉の意味を理解している子が多かったです、関心を持って生活しているのだなと思いました。
言葉だけでなくて、『女性はこうすべき、男性はこうすべき』という『性別役割』の意識も、偏っていない子が多かった。ジェンダーや男女平等の感覚が身についているのだなと感じました。
大人になってから性教育に出合った私たちよりも、彼らの方が下地としてしっかりと身についているんです。低学年の頃から段階に合わせて性教育を進めていくことで、高学年になった時に知識や理解がさらに深まっているんだなと感じました。積み重ねって本当に大事なんですね」
◆「ナプキンの使用枚数」を目安として出した意図
──本書では、生理時のナプキンの使用枚数が目安として書かれています。枚数まで言及している性教育の本は珍しいと思うのですが、どのような意図があったのでしょうか。
フクチ「災害時に被災地に生理用品が足りないとなった時に、生理時にナプキンはどれくらい使うものなのか? という議論がよく出ています。他人がどれくらいナプキンを使うかは、なかなか分からないですよね。だからこそ、目安として使用枚数を示したかったんです。
でも、生理は期間にも個人差がありますし、経血の量も人それぞれなので、枚数を出すのは簡単ではないという意見もありました」
──たしかに、目安の枚数として提示されているのを見たことはないです。
フクチ「使用枚数を示すと必ず『そんなに多くない』『そんなに少なくない』といった議論が起こるので、出すのを避けたくなると思います。そんな中で、今回は使用枚数の目安を、ユニ・チャームさんにご確認協力をいただいて描いています。
もちろん個人差があるので、あくまで目安ではあります。でも、この目安を出せたことで、被災地での活動や今後の生活に役立つのではと思っています。隠すものではなくて、困っている人に手を差し伸べる上での一歩を踏み出せたのかなと思います」
◆目安の枚数を示したことが意見交換のきっかけに
──反響はいかがでしたか。
フクチ「実際に、ナプキンの使用枚数のページをSNSに載せたところ、『多い』とか『少ない』というコメントが本当にたくさん届きました。でも、こうした健全な意見交換はこれまであまりなかったと思うんです。
自分以外の女性がどれくらい経血量があるのか、どれくらいナプキンを使っているのか、そういったことを他の人と話す機会って少ないですし、わからないですよね。目安として枚数を出すことで、そうした話をするきっかけにもなると思うんです。
枚数の目安を出したのは、女性がこんなに大変だと伝えるためではなく、お互いを知ったり話し合うための一歩として考えています。そういう意味でも、ユニ・チャームさんには本当に感謝しています」
◆お互いの体を知ることで、相手を大切にし助け合える
──ナプキンの使用数が目安でわかれば、様々なシーンで役に立ちますよね。
フクチ「ご家庭によっては、お父さんが生理用品を買うことや、子どもがお使いで買いに行くこともありますよね。家に子どもだけでいるときに、突然生理になって、生理用品を買いに行かなければいけないシチュエーションもあるかもしれません。
そういったときに、コンビニでも買えるよとか、この枚数があると安心だよ、といった生活に役立つ知識として覚えてもらえればと思います。知識を持っていれば、自分だけでなく、周りの人が困っているときにも手を差し伸べられると思います」
タブー視したり、「人によって違う」からと話を終わらせるのではなく、お互いの体を知ることで、相手を大切にしたり助け合える土台ができます。それこそが性教育の根本にある、他者を尊重することにつながるのではないでしょうか。
【フクチマミ】
1980年生まれ。マンガイラストレーター。「わかりにくいものを、わかりやすく」をモットーに、日常生活で感じる難しいことを取材し紐解いて伝えるコミックエッセイを多数刊行。『マンガで読む 妊娠・出産の予習BOOK』(大和書房)、『マンガで読む 育児のお悩み解決BOOK』(主婦の友社)、『おうち性教育はじめます』、『おうち性教育はじめます 思春期と家族編』(ともにKADOKAWA、村瀬 幸浩 共著)、『こどもせいきょういくはじめます』(KADOKAWA、村瀬 幸浩 北山 ひと美 共著)など著書多数。
<取材・文/瀧戸詠未 漫画/フクチマミ>
【瀧戸詠未】
大手教育系会社、出版社勤務を経てフリーランスライターに。教育系・エンタメ系の記事を中心に取材記事を執筆。X:@YlujuzJvzsLUwkB