“人付き合いが苦手な女性”が太ももに「向日葵の刺青」を入れた理由「躊躇はなかった」

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2025年05月01日 09:21  日刊SPA!

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能有りあのさん
 取材日、その女性は「実は刺青を入れたのは一か月ほど前なんですよね」と打ち明けた。左太ももに堂々と彫られた向日葵が眩しい。宮城県仙台市にあるコンセプトカフェ「RAIVEN」のキャストで結成されたアイドルグループVAMKiSSで活動する、能有りあのさん(@noten__desu__)、22歳だ。昔から人付き合いに気苦労が多かったと話す彼女は、なぜ人前に立つ仕事をしているのか。
◆“女子特有”のコミュニケーションが得意ではなかった

 能有さんは岩手県で生まれた。絵は物心ついたときから描いていたという。将来的にグラフィックデザイン系の専門学校へ進学するまでになるものの、コミュニケーションに難がある自分が逃げ込む場所でもあったと話す。

「幼稚園のときから、『人との距離がおかしい』というような指摘をよく受けていました。特に女子とは馴染めなくて、小学校時代も近所の男子とばかり遊んでいて。ポケモンや仮面ライダーの話をするのが好きでした。一方で、女子特有のコミュニケーションが得意ではありませんでした」

◆自分が“余りもの”に思えた出来事

 能有さんからはボーイッシュな印象を受けるが、学生時代にはすでにガーリーな容姿とは決別していたという。

「人間そのものを好きになるので、性別で隔てたことはありません。もっとも、そういう距離の取り方が、一部の女子からすれば『何を考えているのかわからない』となってしまうのかもしれません。男子にも女友達みたいに接するので、色目を使っているように思われたりもしました。

 通っていた中学校は、2つの小学校の卒業生が合流するところだったのですが、私を初めて見る人は特にそのように感じたようです。さらに悪いことに、中学2年生のとき、仲良くしてくれていたグループのリーダー格のような子から、ハブにされてしまいました。原因は、私が仲良くしていた男子のことをその子が好きになったからです。それ以来、人間関係に疲れてしまったんですよね」

 人間関係に疲れた――たとえばこんな仕打ちがあったと話す。

「面と向かって何かを言ってくることはないんです。雰囲気ですよね、『あぁあの子は変わり者だから』という。給食の時間は班ごとに食べるのですが、微妙に数ミリだけ机を離されていたり。修学旅行の班決めでは班長が一緒になりたい人を選ぶ形式なのですが、最後まで残ったりとか。些細なことかもしれませんが、自分のことが“余りもの”に思えて、私にはとてもしんどかったんです」

◆感情の機微を敏感に察知してしまうからこそ…

 能有さんは人の感情の機微を敏感に察知してしまうタイプだという。

「理由はよくわからないのですが、昔から、『この人、今機嫌が悪いな』とか『いま、体調悪いんだろうな』というようなことが何となくわかります。だから自分に向けてくる嘲笑とか冷笑が結構くっきりとわかるんですよね」

 中2の“ハブ事件”以降、能有さんはまともに中学校へ通えなくなってしまった。そんな彼女を両親は支えてくれたという。

「登校できなかったり、絶対に出席しなければならないイベントがある日は保健室登校をして、イベントにだけ顔をだしたり、とにかく一般に思い描くような中学校生活ではなかったと思います。母親は本音では学校に通ってほしそうでしたが、一方で私を心配してくれるため、『そんなにしんどいなら行かなくていい』と声をかけてくれました。父には申し訳なさがあって、なぜか当時は話ができませんでした。今は地元に帰れば普通に話せるのに、不思議です」

 その後、能有さんは女子が少ないことを理由に、工業系の高校へ進学した。だが、そこでも気づきがあったという。

「中学校までに比べれば過ごしやすかったものの、たった6人しかいない女子生徒のなかで派閥ができたり、『人間って少人数でも仲良くできないんだ』と感じましたね。やはり男子と話しているほうが気楽でした」

◆刺青に「躊躇はなかった」

 冒頭でも紹介したとおり、能有さんの左太ももには向日葵が彫られている。日本において刺青は必ずしもプラスに働かない場面も多い。その点に躊躇はなかったか。

「なかったですね。いろいろと悩むことも多いなかで、普段は大好きなファッションの方向へ向かうのですが、今回はなぜか刺青を入れることに意識が向かいました。向日葵の花言葉のなかに、『あなたは素晴らしい』というものがあります。ボーイッシュな見た目で、アイドルなのにどちらかといえば『かっこいい』と言われる私ですが、そんな私を肯定してくれているようで、身体に刻むしかないと思いました」

◆太ももに刻んだ向日葵の花言葉を思い出し…

 能有さんが言われたかった言葉。それは、「あなたは素晴らしい」という現状の肯定。だがそれも、現在の仕事を通して少しずつ獲得できてはいるのだと話す。

「中学校時代、私はいないことにされていたも同然だったと思います。私が苦しんでいても、誰も困らないんです。だから、自分は必要のない人間だと長らく感じて生きてきました。

 けれども、コンカフェの世界に足を踏み入れて、副店長を任せてくれた店もありました。そのとき、接客はもちろん店のマネージメントに関わることで、自分でなければダメな状況がいくらかあって、ほっとしたのを覚えています。アイドルだから周りの子は可愛い系、きれい系が多くて、正直どれほど自分の容姿がお客さんに受け入れられるのか、不安がないわけではありません。けれども、太ももに刻んだ向日葵の花言葉を思い出して、乗り切れたらと思っています」

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 人は誰しも他人の評価や視線という呪詛から逃れられないからこそ、認めてくれる存在を探し求める。味方でいてくれる存在は、人間でなくてもいい。踏ん張るときはみな、何かしらを抱えたギリギリの状態で地べたに立つ。大地を踏みしめ自分を咲き誇れる向日葵に、いつか能有さんがなれるといい。

<TEXT/黒島暁生>

【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki

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