
NVIDIAのジェンスン・フアンCEOは、CEO直下に60人の最高幹部を置く、1on1ミーティングを禁止するなど、常識を覆す独自の経営手法で2024年に同社を時価総額世界一の企業へと導きました。世界トップ企業に躍り出た、その「型破り経営」の秘密に迫ります。
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CEO直下に60人の幹部、なぜ可能なのか?定石のマネジメント論において、企業の最高幹部は最大でも10人と言われています。しかし、NVIDIAでは60人もの幹部がCEO直下にいます。これはどのように機能しているのでしょうか。
NVIDIAを長年取材を続ける日経BPシリコンバレー支局編集委員・島津翔氏は、次のように考察します。
島津氏
「ジェンスン・フアンは『私の仕事は経営をすることではなく、リーダーであること』と言っています。60人のリーダーであれば、その下の人たちはついてくるという考え方です」
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この組織構造を実現できるのは「同社の60人の幹部は、だれかの教育を受ける必要のないプロフェッショナルだから成立する」とも述べています。
1on1ミーティング禁止の理由情報の流動性を高めるため、フアンCEOは1on1ミーティングを禁止しています。
島津氏
「1対1で伝えなきゃいけない情報なんてない、と言い切っています。人を褒めるのも、指導するのも、ビジネスに関わることも全てオープンな場で議論すればいいという考えです」
この方針により、情報が早く伝達できるメリットがあります。また、他の社員からの意見を聞くことで、組織全体の方向性を洗練させることができます。
独自の社内報告ルール「トップ5シングス」NVIDIAには「トップ5シングス」という独特の報告ルールがあります。これは、社員が今考える関心事をトップ5まで箇条書きでメールする制度です。
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島津氏
「3万人の社員からのトップ5が届きます。ジェンスン・フアンはランダムに読んだり、検索して情報を得るためのツールとして使っています。例えば、ロボットについて気になっている時に『人型ロボット』で検索すると、関連する情報が集まります」
この仕組みにより、フアンCEOは組織の隅々まで目を配り、重要な情報や変化の兆しを見逃さないようにしています。
また、NVIDIAがAIブームを先取りできた背景には、この「トップ5シングス」が大きく貢献している、と島津氏は明かします。
島津氏
「ヘルスケア担当の幹部が大学を担当していた時に、大学の研究室でAIの処理にGPUを使っていることを見つけました。当時、GPUはAI向けの半導体ではありませんでしたが、この情報をトップ5でジェンスンに送ったんです。彼はそれに気づいて、AIとGPUの相性の良さを認識しました」
NVIDIAの社員たちが共有している重要な考え方に「ミッション・イズ・ボス」があります。これは、「会社の使命こそが、自分たちの上司である」という概念です。このユニークな考え方について、島津氏は次のように説明しています。
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島津氏
「上司が言うことではなく、会社が目指すべき方向があなたの道しるべ、という考え方です。AIで世の中を良くするアプリケーションができるというビジョンが見えてきた時、NVIDIAは何をすべきか。AIを社会に根付かせることが我々のミッションだと思ったからこそ、多くの社員がついてきたのだと思います」
最後に、島津氏はジェンスン・フアン氏の経営から日本企業が学べる点について、こう指摘します。
島津氏
「ジェンスンのすごいところは、経営者でありながら一流のエンジニアでもあるということです。自分の事業領域について何よりも自分が詳しい。これが彼の大きな強みです。日本の経営者も、もっと現場に近くあろうとする姿勢が大切だと思います」
NVIDIAの成功は、従来の常識に捉われない柔軟な思考と、明確なビジョンに基づく大胆な意思決定の結果と言っても過言ではありません。日本企業も、この「型破り経営」から学ぶべき点は多いでしょう。