女子400mで松本奈菜子が09年の丹野麻美以来の金メダル 世界陸上でもベルリン大会の丹野以来16年ぶり代表入りに意欲

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2025年05月31日 15:24  TBS NEWS DIG

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陸上競技のアジア選手権は5月27日に韓国クミで開幕。大会2日目の28日に行われた女子400mでは松本奈菜子(28、東邦銀行)が52秒17で金メダルを獲得した。

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静岡国際(5月3日)で出した52秒14(日本歴代2位)の自己記録には惜しくも届かなかったが、昨秋から屋外400mでは7レース連続の52秒台と安定した強さを見せている。Road to Tokyo 2025(標準記録突破者と世界ランキング上位者を1国3人でカウントした世界陸連作成のリスト)のポイントも出場資格獲得圏内だ。女子400mのアジア選手権優勝は09年大会の丹野麻美(当時ナチュリル。51秒75の日本記録保持者)以来16年ぶり。松本が東京2025世界陸上に出場すれば、09年ベルリン世界陸上の丹野以来の代表となる。

まさかの外側レーン選手の侵入

大会初日の予選2組で52秒24と、予選全体のトップタイムで通過していた。「決勝も同じレース展開を」と考え、前半を1つ外側のアミナット・カマルディーン(17、アラブ首長国連邦)が飛ばしても、6レーンの松本は予定通りのペースで走っていた。

“あり得ない事態”が起こったのは第4コーナーを抜けてホームストレートに入ったところだった。カマルディーンが松本のレーンに入ってきたのだ。オーバーペース気味に飛ばした反動で、疲労が大きく冷静さを欠いていたのは間違いない。だが、侵入された方はたまったものではない。

「一瞬、自分がレーンを間違えたかと思いましたが、いやいや、6レーンだよなと。その選手が自分のレーンの外側の方にいたので、内側から抜くタイミングを見計らっていましたが、内側の白線を踏んだら自分も失格になってしまう。それだけは気をつけながら抜きました。落ち着いて対応できたと思うのですが、コーナーも良い感じで抜けて来られたので、あそこはもう少し思い切って行きたかったですね。惜しかったな、と思いますが、そういった中でも52秒1台を出せたことは自信になります」

カマルディーンは失格になったが、51秒台を出す好機を逃してしまった。だが今回のレース展開や走りの内容が良かったことを、今後につなげられれば無駄にはならない。

何より、アジア選手権のタイトルを取ったことに、松本自身が違いを感じている。「自分の陸上人生において、勝ちきって『やったな!』と思えるレースが、これまであまりありませんでした」。アジア選手権での勝利が、今後の国際大会で活躍するステップになるのではないか。

52秒台を安定して出すことができるようになった理由は?

収穫として安定して52秒台を出し続けていることと、レース展開に進歩があったことの2つが挙げられる。

松本は22年に52秒台を2回(52秒74と52秒56)出したが、23年、24年と大きな故障が続いた。「23年に疲労骨折した舟状骨も、昨年の肉離れも左だったんです。特に昨シーズン前半で肉離れを2回して、走り方を変えようと2カ月半、徹底して取り組みました」

リハビリトレーニングが功を奏した。ケガの影響で速い動きができなかったが、ゆっくりした動きの中で目指す動きを正確に行った。


「脚が流れるクセ(蹴った後の脚を素早く引き戻せないこと)を直すことと、腕振りと重心に乗るところのタイミングを、作用反作用を生かしながら作ることをしてきました。速いスピードではそのタイミングがズレやすいので、まずはスピードが制限されるリハビリの練習の中できちんと行ったんです。必然的に段階を追って身につけることができたと思います」

昨年9月の全日本実業団陸上で52秒29の自己新、同月のAthletics Challenge Cup、10月の田島記念と故障が明けてから全て52秒台をマーク。今年も5月3日の静岡国際で52秒14と自己記録を更新すると、木南記念52秒88、アジア選手権予選52秒24、決勝52秒17と、屋外の400mは7レース続けて52秒台だ。その間、昨年10月の国民スポーツ大会300mで36秒93の日本新、室内でも今年2月に53秒41、3月に53秒15と室内日本新を連発した。

「冬期もインドアの試合に出て、走りの感触やスピードを維持した状態で冬期練習に励むことができました。それでシーズン序盤の試合でも出力を上げられたのだと思います」

日本記録保持者の丹野は51秒台を5レースで出している。その域にはまだ及んでいないが、松本にはまだノビシロが残っている。

200mから300mのスピードアップが成長の証

52秒台を連発しても、レース展開的には思い通りに走ることができなかった。静岡国際は自己新だったが、前半を速く入りすぎて終盤に失速した。その反省から木南記念は前半を抑えたが、後半も思ったほど上げられなかった。「2大会の反省をアジア選手権では生かせて、レース展開が徐々に(正しいところに)落とし込めるようになりました」

昨年の全日本実業団陸上は、100m毎の通過とスプリットタイムが判明している。
100m:12秒3
200m:24秒3(12秒0)
300m:37秒3(13秒0)
400m:52秒29(15秒0)

アジア選手権はまだ、松本陣営も正式な分析ができていないが、200m通過がこのときより少し遅かったようだ。しかし200mから300mは13秒を切っていた。日本記録保持者の丹野麻美と比べ、カーブの走りが課題だったが、その課題克服の兆しが見えている。

「全体的なスプリント能力は上がっていましたが、(静岡国際のように)前半で出す走りができる分、200mから300mの上げたいところが上がってきませんでした。前半でスピードコントロールをしつつ、200mから300mのところを切り換える部分を、ずっと練習してきました。それをレース展開に落とし込むことが、予選からできたことが大きかったです」

決勝は外側レーン選手の侵入があったが、それがなければ300mまでのスピードアップをホームストレートに生かせたはずだ。

「日本記録を出したい気持ちもありますし、近づいている手応えも今シーズンは一番感じられています。気負わず、自分の最大限のパフォーマンスができたら実現できる。スピードが足りないところや、レース構成ももう少し自分のものにできれば、日本記録更新や、それよりももっと速いタイムもイケるんじゃないかと思っています」

チームの先輩・丹野との共通点

日本記録を出した08年に丹野が所属していたナチュリルは、福島大学監督だった川本和久氏(故人)が、同大学の卒業生メンバーを中心に立ち上げたチーム。11年からは東邦銀行がチームを受け継いだ。松本は筑波大出身だが、19年に東邦銀行に入社して川本氏の指導を受けた。丹野は松本にとって同門の先輩にあたる。

川本氏の後を継いだ東邦銀行の吉田真希子監督(400mハードルの元日本記録保持者で03年のパリ世界陸上代表)は、昨年の全日本実業団陸上の際、2人の違いと共通点を以下のように話していた。

「前半のスピードはあまり変わりませんが、後半は丹野さんの走りの効率が高く、差がついています。タイプが似ているところもありつつ、似ていないところもあるので、参考にするところは参考にしますが、松本は松本の進め方でやっています。川本先生のコンセプトを振り返ることも多いですし、色々と整理して取り組んでいます」

自己記録もアベレージも丹野がまだ上だが、その差を松本が徐々に詰めている。丹野の09年アジア選手権優勝記録は53秒32で、今回の松本はそれを上回った。同じ09年のベルリン世界陸上が、丹野の個人種目代表最後の大会だった。松本が今年の東京2025世界陸上の代表入りをすれば、五輪を含めても丹野以来の女子400m代表となる。

松本も22年オレゴン世界陸上男女混合4×400mリレーなどの代表経験はあるが、個人種目で出場することが目標だ。

「個人で世界と戦いたい、日本代表になりたいと、常々思ってきました。地元開催ということももちろんありますし、東京世界陸上は個人種目の代表になることが一番優先されますが、出場するだけではつまらないので、世界陸上でも戦っていけるようになっていきたいと思っています」

丹野は07年の大阪世界陸上で準決勝に進出した。同じ地元開催の世界陸上で、松本が偉大な先輩の業績に迫る。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
 

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