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皇族数の減少という“危機的状況”を打開するため、今国会では一定の結論を出すべく与野党間の議論が本格化している。メディアも盛んに専門家らの論考や意見を紹介したり、世論調査の結果を報じているが、毎日新聞は5月27日付朝刊で全国世論調査の結果で、女性天皇を容認する声が70%に達したことを報じた(実施は5月17日・18日)。この結果について、皇室担当記者はこう話す。
「共同通信が昨年に実施した世論調査では、約9割が女性天皇を容認したという結果が注目を集めてきました。今回の毎日新聞の調査では、自民党を支持政党とする人の72%が女性天皇を容認したという結果が出ており、政治的に保守的な立場な人々にも、こうした考え方が広がっていることを示しています。
天皇皇后両陛下の唯一のお子さまである愛子さまの、成年皇族としてのご活動の幅が広がっている部分もあるでしょうが、読売新聞が5月15日付朝刊の一面トップで大々的に展開した提言の影響も無視できないように感じています」
読売新聞による提言は、《皇統の安定 現実策を》との見出しで、「皇統の存続を最優先に」「象徴天皇制 維持すべき」「女性宮家の創設を」「夫・子も皇族に」と4本の柱を軸に、今国会の会期末まで一定の結論が出される議論に、具体的な方策を示した形となった。ある宮内庁関係者によれば、庁内にも驚きが広がっていたという。
「なかでも注目すべきは、《皇統を安定的に存続させるため、女性天皇に加え、将来的には女系天皇の可能性も排除することなく、現実的な方策を検討すべきではないか》とはっきりと明言していたことです。もとより読売は女性宮家の創設などは“社論”としていて、内容自体は決して目新しいものではないにせよ、今国会の会期末までに一定の結論がまとまろうとするなか、タイミングを計っていたものと思われます。
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しかし、“結婚後も女性皇族が皇室に残ること”“旧宮家に連なる男系男子との養子縁組を可能にすること”を主要な論点としていますが、皇位継承のあり方については、事実上棚上げして与野党の協議が進んでいます。
読売の提言は、こうした皇位継承の問題を先送りにするべきではないという前提で構成されており、宮内庁内では“かなり思い切った提言”と評する声も上がっています」
与野党間で折り合いがついていない論点の一つが、女性皇族が結婚した夫と子を皇族とするか、一般国民とするかという部分だ。
麻生太郎最高顧問が議論をリードしている自民党は、女性皇族が旧宮家の男系男子と結婚した場合以外は皇族身分の付与を認めるべきではないと主張。野党第一党の立憲民主党は原則として皇族の身分付与を認めつつも自民案に譲歩し、皇室会議にその可否を委ねるという案を示しているが、まだ議論の着地点は見えていない。
■元宮内庁長官も“提言”に賛意
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読売新聞は、女性皇族が当主となる女性宮家の創設を可能にし、その夫や子に皇族の身分を与えるべきという提言を示している。“自民党寄り”とみられる立場を示すことが多い同紙がこうした提言に踏み切ったのは、どういった背景があったのか。同社の関係者はこう明かす。
「昨年12月に亡くなった渡邉恒雄代表取締役主筆の“遺言”だと一部で報じられていますが、たしかに今回の提言は主筆がご存命だったころから社説などで展開してきた内容で、そうみられても無理はないのかもしれません。
しかし、民意とかけ離れつつある自民党の姿勢にしっかりと意見しなければならないという共通見解が社内にあったからこそ、“いつ報じるべきか”などと社長も含めた経営陣や編集幹部で議論が行われてきたのです。
自民党などは旧宮家の男系男子による養子縁組案を積極的に打ち出しています。ただ一方で、“旧宮家の人々の意思確認については制度創設後”という意見が示され、さらに2022年に亡くなった安倍晋三元首相も生前に養子縁組の実現性に対して懐疑的な考えを水面下で漏らしていたことも没後に報じられています。
自民党が推し進める同案は、皇室が直面する危機的な課題に対しては明確な解決策を提示しているわけではなく、““問題の先送りにすぎない”という社内の議論の結果があの提言としてまとまったと聞いています」
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神道学者で皇室研究家の高森明勅さんは、今回の提言には大きな意味があると語る。
「新聞として国内最大の発行部数を誇る巨大メディアが長い取材期間を経てここまで大々的に提言した影響は大きいと言わざるをえません。ほかの主要紙も歩調を合わせており、産経新聞のみが反論記事を展開し孤立している現状です。毎日新聞による5月の世論調査でも7割が女性天皇容認に賛成し、反対は6%。読売新聞による提言は、国民の大多数の気持ちに合致しています。
また約12年にわたり皇室に仕えた羽毛田信吾・元宮内庁長官も、5月19日付の読売新聞で、『男系か女系で二分される論点も民意に沿って集約されるのが自然』と語っています。羽毛田元長官は平成のころ、上皇陛下、天皇陛下、秋篠宮殿下が月に一度集まられた“三者会談”に立ち会ってきた人物ですから、お三方のお考えも熟知しているのは間違いありません。
その羽毛田元長官がこれまでの各種の世論調査で女性天皇や女系天皇の容認が7割から9割という多数となっていることを踏まえて『民意に沿って』と発言しているわけで、お三方にも同様の合意があったと考えるべきでしょう」
読売の提言に呼応するかのように、同紙で論説主幹などを歴任した政治ジャーナリストの小田尚氏が、5月23日に「PRESIDENT Online」上で、侍従長や宮内庁参与を務め上皇さまから厚い信頼を寄せられていた渡辺允氏が「男系の継承を主張するのは、皇室を途絶えさせることになる。女系を認めるべきだ」と語っていたことを明かしている。
「これらの方向性は、2005年に小泉政権下で出された『皇室典範に関する有識者会議』の報告書に沿ったものといえます。側室不在の一夫一婦制で少子化という条件下にあって、安定的な皇位継承を図る唯一の方策として、女性天皇・女系天皇の容認、長子による皇位継承、女性宮家の創設など、すでに20年前に結論が出ているのです。
またこの報告書には、『今後、皇室に男子がご誕生になることも含め、様々な状況を考慮したが、現在の社会状況を踏まえたとき、中長期的な制度の在り方として、ここで明らかにした結論が最善のものであると判断した』と明記されており、その後の悠仁親王殿下のご誕生も折り込まれたものでした。
上皇陛下もその年のお誕生日の記者会見で、記者が女性天皇・女系天皇を認めることは“皇室の伝統の一大転換”になるとの認識を示したのに対して、それに同意されないで『国民と苦楽を共にすることに努め、国民の幸せを願いつつ務めを果たしていく』在り方こそが『皇室の伝統』であるという、男性・女性、男系・女系にこだわらないお考えを明らかにされています。
こうした事実を鑑みると、天皇陛下をはじめ皇室の方々が憲法上の制約のために直接言及されることはなくとも、女性天皇と女系天皇の容認は、皇室の方々のお考えに沿ったものと考えるのが自然なのです」(前出・高森さん)
政府・自民党は、いったいいつまで国民の総意から目を背け続けるのだろうか。
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