
夏休みシーズンが近づくと、肝試しスポットとして人気の廃墟に若者が集まる機会が増えます。そうした中2025年4月末、愛知県岡崎市の廃墟となったホテルで肝試しをしていた若者グループが白骨化した遺体を発見する事件が発生しました。
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肝試しに訪れた先で遺体が発見されるという同様の事例は昨年にも富山県高岡市で起きており、廃墟の管理問題とともに、「肝試し」目的の侵入行為の法的リスクが改めて注目されています。
SNS上では「肝試しくらい大目に見てほしい」「怖いスリルを味わいたいだけ」という声が見られる一方、法律の専門家からは「廃墟への無断侵入は明確な犯罪行為」との指摘も。肝試しとして廃墟に侵入することで、どのような法的リスクが生じるのでしょうか。刑事事件や家事事件から企業顧問まで広く案件対応している、弁護士の伊奈さやかさんに聞きました。
廃墟で白骨遺体を発見!
2025年4月、愛知県岡崎市の廃墟となったホテルで若者グループが肝試し中に人間の白骨遺体を発見する事件が発生しました。この若者たちはSNSで話題になっていた「心霊スポット」を訪れ、友人同士での肝試しを行っていた際に、ホテルの2階の客室で白骨化した遺体を発見したといいます。
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警察の調査によると、年齢や性別はわからないものの成人とみられ、遺体の身元や事件性については現在も捜査中とのことです。
この事件をきっかけに、「なぜ廃墟に簡単に入れるのか」「肝試しは犯罪なのか」といった疑問が広がっています。若者の間で人気の「肝試し」や「廃墟探索」。しかし、その行為が法律に触れる可能性があることをご存知でしょうか?
廃墟と一言で言っても、それは誰かの所有物であり、無断で立ち入ることは法的な問題を引き起こす可能性があるのです。
廃墟への立ち入りは法的に問題ないの?
この問題について、弁護士の伊奈さやかさんに聞きました。
「入口に柵があるような廃墟に侵入すると建造物侵入罪(刑法130条前段)に、そのような侵入防止策がない廃墟でも立ち入ると軽犯罪法1条1号に該当する可能性があります」と伊奈さんは説明します。
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▽Q.立ち入り禁止の看板がない廃墟に侵入しても罪になる?
「立ち入り禁止の看板がないから大丈夫」と考える人もいますが、実はそう単純ではありません。
伊奈さんによると、「立入禁止の看板がなくても、侵入を防止する措置が取られている場合は、建造物侵入罪となる可能性があり、正当な理由なく廃墟に立ち入ることで、軽犯罪法1条1号に該当する可能性があります」とのこと。
特に、明らかに使用されていない建物であっても、扉が施錠されている、窓ガラスを壊して侵入するなどの行為があれば、所有者の意思に反した侵入と判断される可能性が高くなります。
▽Q.肝試し目的での廃墟への侵入は不法侵入罪に該当する?
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「肝試しだから」という理由は、法的には正当な立ち入り理由にはなりません。
「肝試し目的で、鍵がかかっていたり柵でふさがれていたりする廃墟に侵入すると、正当な理由がないのに人の建造物に侵入したとして建造物侵入罪(刑法130条前段)に該当する可能性があります。
また、人が住んでいなくて看守していない建物に正当な理由がなくひそんでいた者は、軽犯罪法1条1号に該当しますから、肝試し目的でも廃墟に入ることは軽犯罪法に該当する可能性があるのです」と伊奈さんは警告します。
また、単に侵入するだけでなく、建物内の設備を壊したり、落書きをしたりすれば、器物損壊罪にもなり得ます。
肝試しで不法侵入罪に問われたケースはあるの?
実際に、肝試し目的での空き家への侵入が法的な問題になったケースもあります。
2023年には、世田谷一家4人殺人事件の現場となった、東京都世田谷区にある立ち入り禁止の住宅の敷地内に侵入した高校生グループが補導され、軽犯罪法違反として書類送検された事例があります。
さらに、岡山県倉敷市にある心霊スポットとして知られる廃墟となったホテルでは、過去2年のあいだに不法侵入などで30人が摘発されたといいます。実際に2022年3月にはサバイバルゲーム目的で侵入した3人が現行犯逮捕される事件もありました。
廃墟への安易な立ち入りは危険!
廃墟探索や肝試しの魅力は理解できますが、法的リスクと身体的危険の両面から考えると、安易に立ち入るべきではないことがわかります。
伊奈さんは次のようにアドバイスしています。「肝試しや廃墟巡りという目的で廃墟に立ち入ることは、建造物侵入罪や軽犯罪法に該当する可能性があり、実際に逮捕された事例もあります。
また、廃墟内の物品を壊すと、器物損壊罪に該当する可能性もあります。廃墟とはいえむやみに立ち入ることは控えるほうがいいでしょう」
肝試しや冒険心を満たしたいなら、代わりにオフィシャルなホラーイベントやお化け屋敷、あるいは公開されている史跡や廃線跡などを訪れることをおすすめします。法的に認められた形で、安全に冒険を楽しむ方法はたくさんあります。
心霊体験を求める気持ちが刑事罰や重大な事故につながってしまう前に、一度立ち止まって考えてみてください。本当の恐怖は、幽霊ではなく、法的責任や身体的危険かもしれません。
◆伊奈さやか(いな・さやか) 東京弁護士会登録。中央大学法学部を卒業後、2006年弁護士となる。東京および仙台の法律事務所に勤務後、ITおよびWEB関連のスタートアップ企業で社内弁護士を務め、現在は弁護士法人リーガルジャパン東京事務所に所属。刑事事件、家事事件から企業顧問まで広く対応し、女性ならではのきめ細かい視点を生かした案件対応を心掛けている。