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2025年06月04日 15:11 ITmedia PC USER
ミニPCなどで有名なMINISFORUM(ミニズフォーラム)から、プロセッサにZen 5アーキテクチャの「Ryzen AI 9 HX 370」を搭載する「Minisforum AI X1 Pro」(以下、AI X1 Pro)が登場した。実売価格は直販で14万9590円からだ。
Ryzen 7000シリーズと同じZen 4アーキテクチャを搭載していた「Minisforum A1 X1」(以下、AI X1)の上位モデルという位置付けだが、プロセッサが最新世代になることで、パフォーマンスにどのような影響を及ぼすのか。ベンチマークテストや実際にAI機能を手元で実行することで、AI X1 Proの詳細を掘り下げてみよう。
●他のミニPCと比べると一回り大きいが、電源内蔵はうれしい
AI X1 Proも十分にミニPCに分類されるとは思うが、MINISFORUMの主要製品と比べると、約195(幅)×195(奥行き)×47.5(高さ)mmという本体サイズは一回り大きい。旧型のIntel Mac miniやM2 Mac miniとほぼ近しいサイズとなる。
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(※)M2 Mac miniの本体サイズ:約197(幅)×197(奥行き)×35.8(高さ)mm
先日レビューしたAI X1と比べると、縦と横の長さは一回り大きくなっているが、高さは5mmほどAI X1が大きい。とはいえ普通のデスクトップPCと比べればAI X1 Proであっても十分コンパクトなPCなので、卓上に設置しても問題ないだろう。
AI X1 Proは本体にも特徴がいくつかある。天板にはボタンが配置されているが、これは電源ボタンではなく生体認証機能「Windows Hello」に対応した指紋認証センサーだ。Windowsをセットアップした後に、Windows Helloの設定を済ませることで、TPMにパスワードが保存され、Windowsのログインなどに指紋認証を利用できる。ミニPC単体で指紋認証を利用できるのはユニークだ。
企業ユーザーであれば「Windows Hello for Business」も利用できる。Windows Hello for Businessは、Windows Helloと違って非対称キーペアを使ってログインするため、ログインパスワードがPC内に保存されないパスワードレス認証の環境を実現できる。
●Copilot+ PC認証を受けているため、PC本体にCopilotボタンを搭載?
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本体前面には、10Gbpsに対応したUSB 3.2 Gen 2 Standard-A端子が2基、15WのUSB PD(Power Delivery)出力と映像出力に対応したUSB4端子が1基、さらに3.5mmコンボジャックが1基搭載されている。
それに加え、今まで発売されてきたデスクトップPCでは見たことないボタンが1つ用意されている。それが「Copilotボタン」だ。
AI X1 Proに搭載されているRyzen AI 9 HX 370は、NPUの性能が最大50TOPS(1秒間に50兆回演算できる)となっている。Microsoftが定めるCopilot+ PCの要件は40TOPS以上であることから、AI X1 ProはミニPCながらCopilot+ PCの認定が付与されている。それもあってか、Copilotボタンを搭載しているようだ。
Copilotボタンを押してみると、Copilotアプリが立ち上がる。何か特殊な機能が用意されているわけではなく、あくまでショートカット機能のような立ち位置になっている。昨今のCopilotキーを搭載したAI PC(ノートPC)と似たようなものだ。
Copilotキーを押した際の動作はカスタマイズ可能で、タスクバーの検索をアクティブにする「検索」か、カスタマイズアプリを割り当てられる「カスタマイズ」を選択できる。
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ただ、選べるアプリは記事執筆時点で「Microsoft 365 Copilot」か「Copilot」の2択となる。よってMicrosoft 365 Copilotライセンスを保有する企業ユーザーであれば、Microsoft 365 Copilotを選択すると良いだろう。
●AI X1 ProもOCuLinkに対応し、拡張性もバッチリ
本体の背面には、USB 2.0 Standard-A端子が1基、PCIe 4.0 x4で動作するOCuLinkが1基、画面出力に対応したUSB4端子が1基、DisplayPort 2.0(8K/60Hz出力対応)端子が1基、HDMI 2.1 FRL(8K/60Hz出力対応)端子が1基、そして2.5GBASE-T(2.5Gbps)に対応した有線LAN端子を2基、それぞれ用意している。
HDMI 2.1 FRLという見慣れない表記の端子があるが、これはHDMI 2.1向けに新しく開発された伝送技術で、帯域幅が48Gbpsに対応していることで高い解像度やリフレッシュレートに対応している。
なお、電源はAI X1ではACアダプターの利用が必要だったが、AI X1 Proは電源が内蔵されている。メガネケーブル1本で済むためデスクの上がすっきりする。
外観のチェックはこれくらいにしておいて、ベンチマークテストやLLM(大規模言語モデル)を動作させて、AI X1 Proの実力をチェックしていこう。
●各種ベンチマークテストでRyzen AI 9 HX 370の実力をチェック!
ベンチマークテストを実施する前に、AI X1 Proに搭載しているRyzen AI 9 HX 370について少し掘り下げてみよう。
Ryzen AI 9 HX 370は最近のIntel CPUと同じく、Zen 5コアとZen 5cコアと呼ばれる異なるコアで構成されるヘテロジニアス構成となっている。
Intel CPUは負荷の高い処理に対応したPコアとバックグラウンド処理に対応した省電力のEコアで構成されており、PコアとEコアはそれぞれアーキテクチャが異なる。一方で、Zen 5コアとZen 5cコアは同じZen 5アーキテクチャが採用されている。
違いはZen 5コア1つあたりのL3キャッシュが4MB、Zen 5cコア1つあたりのL3キャッシュが1MBという部分で、それ以外のアーキテクチャについては同一だ。
アーキテクチャが同一であるメリットを1つ挙げると、Intel CPUの場合、AVX-512に対応しているのがPコアのみであるのに対し、Zen 5コアとZen 5cコアはアーキテクチャが同一であることから、どちらもAVX-512に対応している。よってAVX-512を使った複雑な演算処理が必要なアプリケーションを動かした際に、全てのコアを活用できるRyzen AI 9 HX 370であれば、高いパフォーマンスが期待できるというわけだ。
Ryzen AI 9 HX 370はZen 5コアが4コア、Zen 5cコアが8コアの合計12コアで、どちらもハイパースレッディングに対応しているため、モバイル向けのCPUながら24スレッドと驚異的なコアとスレッド数を誇る。なおベースクロックは2.0GHzで、Zen 5コアが最大5.1GHz、Zen 5cコアが最大3.3GHzで動作する。
内蔵グラフィックスは「Radeon 890M」で、AI X1で採用されていた「Radeon 780M」よりさらにパフォーマンスが高い。Radeon 780MもGeForce GTX 1650とほぼ近しいパフォーマンスを発揮していただけあって、Radeon 890Mのパフォーマンスがどれくらい高いのか非常に気になる。
内蔵グラフィックスを含めたRyzen AI 9 HX 370のパフォーマンスをチェックするために、各種ベンチマークを実行してみたので、ぜひ期待してご覧いただきたい。
テストで使用したのはメモリが32GB、ストレージは1TB SSDのモデル(14万9590円)だ。他に64GB/1TB(16万6390円)、96GB/2TB(18万6390円)のモデルが用意されている。
CINEBENCH R23
まずは、3DレンダリングによってCPUの性能をテストする「CINEBENCH R23」を実行し、Ryzen AI 9 HX 370の実力を測ってみた。結果は以下の通りだ。Ryzen 7 260を搭載したAI X1で測定した結果と比較しているので参考にしてほしい。
・マルチコア
・Ryzen AI 9 HX 370:2万1687ポイント
・Ryzen 7 260:1万6226ポイント
シングルコア
・Ryzen AI 9 HX 370:2018ポイント
・Ryzen 7 260:1790ポイント
マルチコアスコアに関しては、Ryzen 7 260は8コア16スレッドに対して、Ryzen AI 9 HX 370は12コア24スレッドではあるものの、Zen 5コアとZen 5cコアの最大クロック周波数に差があることもあってか、約1.3倍程度の向上で収まっている。
シングルコアのスコアについては、どちらも最大クロック周波数が5.1GHzと同じでありながら、Ryzen AI 9 HX 370は約1.1倍のスコアをマークしており、Zen 4からZen 5へのアーキテクチャ変更だけでも、その恩恵は十分に得られそうだ。
PCMark 10
続いて、さまざまなアプリケーションを実行して総合的なパフォーマンスを測定できる「PCMark 10」を実行し、AI X1 Proの総合的な実力を試してみた。結果は以下の通りだ。
・総合スコア
・AI X1 Pro:7373ポイント
・AI X1:6871ポイント
・Essentials
・AI X1 Pro:1万531ポイント
・AI X1:1万120ポイント
Productivity
・AI X1 Pro:9804ポイント
・AI X1:9119ポイント
Digital Content Creation
・AI X1 Pro:1万970ポイント
・AI X1:9538ポイント
Webブラウジングやビデオ会議、アプリ起動時間などから一般的なPCなどで利用時のパフォーマンスを測定するEssentialsテストでは大きなスコア差は発生しなかったものの、グラフィックス性能に依存する一般的なオフィス作業や、簡単なメディアコンテンツ制作時のパフォーマンスを計測するProductivity、写真編集やビデオ編集、3Dレンダリングなど、よりグラフィックス性能に依存するDigital Content CreationテストについてはAI X1 Proに軍配が上がった。
この差はやはりRadeon 890Mのパフォーマンス向上が影響しているものと考えられる。そこで記事執筆時点でシステム要件が高いゲームのベンチマークテストを実施してみた。
●モンスターハンターワイルズ ベンチマークテスト
発売当初からシステム要件が高い「モンスターハンターワイルズ」のベンチマークテストの結果は以下の通りだ。なお、AI X1 Pro、AI X1共に、解像度はWUXGA(1920×1200ピクセル)に設定した上で、フレーム生成をオフにしてテストしている。
・グラフィックプリセット:低
・AI X1 Pro:1万2006ポイント(問題なくプレイできます)
・AI X1:1万1213ポイント(問題なくプレイできます)
グラフィックプリセット:中
・AI X1 Pro:8889ポイント(設定変更を推奨します)
・AI X1:8500ポイント(設定変更を推奨します)
グラフィックプリセット:高
・AI X1 Pro:7211ポイント(設定変更を推奨します)
・AI X1:6688ポイント(設定変更が必要です)
グラフィックプリセット:ウルトラ
・AI X1 Pro:5853ポイント(設定変更を推奨します)
・AI X1:5404ポイント(設定変更が必要です)
こうして結果を見てみると、AI X1 ProとAI X1ともにグラフィックプリセットが低であれば、WUXGA(1920×1200ピクセル)でも問題なくプレイできる判定となったことに驚きを隠せない。とはいえ、グラフィックプリセットを低以上にあげると、さすがに動作は厳しくなってくる。
例えばグラフィックプリセットを高にすると設定変更が推奨されるとの評価となり、平均FPSは21.15FPSに落ちる。これではかくつきが目立ってくるため、WUXGA(1920×1200ピクセル)でプレイする場合は、グラフィックプリセットを低に指定した方が良いだろう。
思ったよりスコアが振るわないように感じられるかもしれないが、AI X1 Proに搭載されているRadeon 890Mが内蔵グラフィックスということを考えると、このスコアは驚異的だ。
●AI X1 Proの推論パフォーマンスは? Copilot+ PC認定を受けたNPUの性能はいかに
ここまでは主にAI X1 Proを一般的なPCとして利用した場合の性能について評価してきた。もちろん「外部グラフィックスがなくてもAAAタイトルのゲームをプレイできる」という大きな強みはあるが、メインはRyzen AI 9 HX 370に搭載されているNPUにある。
果たしてCopilot+ PCの認定を受けたAI X1 Proは生成AI機能を利用するにおいて、どのような強みがあるのかもう少し掘り下げてみよう。
Ryzen AIを利用する上で、開発者がAI推論アプリケーションを構築し、Ryzen AI APUの性能を最大限に活用できる統合環境として「Ryzen AI Software」がリリースされている。
現在公開されている最新バージョン1.2では、基本的にAMD Ryzen AI 300シリーズがサポート対象となっており、前回レビューしたAI X1に搭載されているRyzen 7 260では、そもそも対応していなかった。
その点、Ryzen AI 9 HX 370はAMD Ryzen AI 300シリーズのプロセッサなので、Ryzen AI Softwareを最大限活用してAI推論アプリケーションの開発が可能だ。
とはいえ、Ryzen AI 9 HX 370のNPUのパフォーマンスを比較するには、Ryzen AI Softwareでは現状簡単に計測できないことや、LMStudioなどのサードパーティーツールでは、現時点ではNPUが利用できない。
そこでAMD Ryzen AI 300シリーズを搭載したPCであれば、LLMエージェントを実行できる「AMD GAIA」を使って、Llama-2 7B Chatモデルを実際に動かして深い推論が必要となるプロンプト(命令)を実行した際の動きを確認してみた。
●生成AI機能を使うからといって、必ずNPUが利用されるわけではない
深い推論が必要なプロンプトを実行する前に、ローカルPCにおけるNPUの利用方法について軽く触れておきたい。
NPUが搭載されていると「生成AI機能がさらに効率的に利用できるようになる」というイメージから「生成AIに関する処理を全てNPUで実行する」と思われる方もいるかもしれないが、これは誤りだ。
現状、ローカルPCにおけるNPUの利用は、生成AIモデルを使って推論する、つまり何らかの論理的な規則に基づいて、既知の事柄から未知の事柄を予想、推理する時にのみに限られる。
よってプロンプトを実行した際に生成AIモデルが回答を思考する際にNPUが利用され、その後はプロセッサやGPUで演算処理を行うため、NPUの使用率がずっと高止まりするということはない。
これを踏まえた上で、Llama-2 7B ChatをAI X1 Proと参考までに筆者のメインPC(LMStudio)で動かした上で、下記のプロンプトを実施し、1秒あたりに出力されるトークン数を比較してみた。
1秒あたりに出力されるトークン数が多い方はパフォーマンスが高い、と判断してもらえれば幸いだ。なお出力される結果はどちらも日本語ではなく英語で出力されている。
参考用に用意したメインPCの構成は下記の通りだ。
・CPU:Ryzen 7 9700X
・メモリ:DDR5-3600 32GB×4
・GPU:Radeon RX 7700 XT
プロンプトA
あなたは架空の国の首相です。経済成長率が2%で停滞し、失業率が5%に上昇し
ています。財政赤字も拡大傾向です。経済成長を加速し、失業率を下げ、財政健全化を同時に達成するための政策パッケージを3つ提案し、それぞれの政策がどのように相互作用するか、メリット/デメリットも含めて説明してください。
プロンプトB
ある都市で新型の感染症が流行し始めています。感染症の基本再生産数(R0)は2.5で、人口は100万人、初期感染者は100人です。ワクチンの接種率が50%の場合、感染拡大を抑えるためには追加でどれだけの人がワクチンを接種する必要がありますか?また、感染拡大を防ぐための他の公衆衛生対策を3つ挙げ、それぞれの効果と課題を論理的に説明してください。
プロンプトA実行結果
・AI X1 Pro:毎秒14.1トークン
・筆者メインPC:毎秒8.38トークン
プロンプトB実行結果
・AI X1 Pro:毎秒15.5トークン
・筆者メインPC:毎秒7.42トークン
結果として、AI X1 Proの方がはるかに1秒あたりに出力されるトークン数が大きいことが分かった。もちろん、生成AIモデルを動かしているアプリがそれぞれ別であることや、グラフィックスメモリの割り当て方法がそもそも違うなど、正確な差を判断する上ではあまり適した比較方法ではない。それにしてもAI X1 Proの結果出力の早さには目を見張る物があった。
GAIAを使っている間、特に廃熱の温度が高くなることもなかったことを考えると、大きなデスクトップPCを用意しなくとも、AI X1 Proを用意するだけで快適に利用できる点は非常に大きなメリット言えよう。
ただ、現状はLMStudioがRyzen AIのNPUに対応していないため、Windowsユーザーが気軽に手元でNPUをフル活用して生成AI機能を利用することはまだ難しいが、昨今の時流やCopilot+ PCの機能拡充など大いに期待できるので、エンスージアスト向けの製品としてAI X1 Proは非常に心躍る製品だと感じた。
新しいもの好きや、生成AIアプリを開発しようと考えているならAI X1検討の価値があるだろう。
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