
中学受験を終えた子どもたちの間では、「受かったけど行かない」「特待をとったけど辞退した」といった話が交わされることがあります。中には事実かどうか疑問を抱くような内容も含まれ、保護者の間で違和感を覚える声も聞かれます。二人の子どもの中学受験を経験したMさん(東京都・40代)も、そのひとりです。
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公立中高一貫校を目指す子どもたち
Mさんが暮らす地域には、都立の中高一貫校が複数あります。そのため、子どもが通う公立小学校では、私立ではなく公立中高一貫校を志望し、中学受験に臨む家庭が多く見られます。これらの学校では、国語や算数といった教科ではなく「適性検査」と呼ばれる独自の試験が行われ、読解力や論理的思考力、表現力などが求められます。そのため、多くの家庭では、公立受験専門の塾に通わせて対策を行っています。
公立中高一貫校の受験には、小学校から提出される「調査書」も大きく影響します。欠席日数のほか、児童会やクラブ活動、作文や図工のコンクールでの受賞歴など、あらゆる「実績」が点数となって合否に関わってきます。高学年になると、子どもたちは皆勤を目指して多少体調が悪くても登校したり、児童会や係活動の長に立候補したりと、まるで小学生の就職活動のように過ごすようになります。
それでも倍率は毎年非常に高く、合格できるのは学年で2〜3人ほど。ほとんどの子どもたちは不合格を経験し、それぞれの道を歩むことになります。
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「本当に受かったの?」という違和感
Mさんが気になっていたのは、Bくんという存在でした。朝の登校時間にほとんど間に合わず、給食の時間になってようやく登校する日もありました。雨の日はほとんど休みがちで、年間の欠席日数も多め。休み時間に気分で帰宅することもあり、「受験組」とは距離のあるタイプに見えていました。それでも受験塾に通い、公立の中高一貫校を受験すると聞いていました。
中学受験シーズンが終わったある日、Mさんの息子がオンラインゲームをしていたところ、しばらく登校していなかったBくんがゲーム内に現れたそうです。雑談の中で「そういえばBくん、受験どうだったの?」と尋ねたところ、Bくんは「都立H校に受かったけど、地元の中学に行くことにした」と答えたといいます。都立H校は非常に高倍率で進学実績も高く、難関校として知られています。Mさんの息子が通う小学校からは、今年は男女あわせて3人が合格したと聞いていましたが、その中にBくんの名前は含まれていませんでした。
もちろん、家庭の事情で進学先を変えることもあります。ただ、Bくんの出席状況やこれまでの言動を思い返すと、Mさんには少しだけ違和感が残りました。
「合格してたけど、行かない」は定番フレーズ?
中学受験後には、こうした「合格の物語」が少なからず耳に入ってきます。
ある子は、「A中に特待で受かったけど、雰囲気が合わなくてC中にした」と話していました。受験経験のある保護者たちの間では、「A中には特待制度はなかったはず」「C中はA中に比べて偏差値もかなり低い。A中に受かったなら普通は行くのでは?」といった声があがっていました。
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また別の子は、「D中に合格したけど、入学金を期限までに納め忘れてE中に行くことになった」と話していたそうです。最難関のD中は誰もが憧れる学校です。入学金を納め忘れるというのは、保護者の立場から見ると現実的ではなく、意図的にそう話しているのではと感じる部分もあったといいます。
合格したけど、あえていかなかったわけ
こうした話に共通するのは、「合格はしたけれど、別の理由で進学しなかった」という語り方です。「不合格だったから行けなかった」のではなく、「行こうと思えば行けたけれど、あえて自分の意思で行かなかった」というかたちにすることで、自分を守ろうとしているのかもしれません。
中学受験は、12歳の子どもたちにとって大きな挑戦です。努力した結果が合否という形で突きつけられ、納得できない結果に終わったとき、自分なりの物語を作ってしまうのは、自然な心の働きなのかもしれません。それは見栄やプライドだけでなく、自尊心を守るための防衛本能ともいえるでしょう。
小さな嘘の奥にある気持ちを想像する
Mさんの子どもも、第一志望の私立中学校には届かず、第三志望として受験した中学校に進学することになりました。悔しさを抱えつつも現実をきちんと受け入れ、今では新しい中学校生活を前向きに楽しんでいます。ただ、周囲から聞こえてくる“謎の合格エピソード”には、やはり複雑な気持ちになることもあるようです。
けれど、こうした小さな嘘の奥には、「頑張ったけれど報われなかった」「認めてほしかった」「悔しかった」といった、子どもたちの切実な気持ちがあるのだと思います。
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中学受験という小さなドラマの終わりに、子どもたちが語る「物語」。たとえそれが事実と違っていたとしても、その言葉の奥にある気持ちを受け止めることで、大人にできる優しさがあるとMさんは感じています。
(まいどなニュース特約・松波 穂乃圭)
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