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「君は何歳までアイティメディアで働くの?」――。
【画像】HRに次ぐ第2の柱として、サイバーセキュリティ領域に挑む
2009年に即戦力人材と企業をつなぐ転職サイト「ビズリーチ」を立ち上げた南壮一郎氏。創業したビズリーチがVisionalグループとして経営体制を移行した後、現在はグループ経営を支えるホールディングカンパニーであるビジョナル(東京都渋谷区)の社長を務める。
同社は、企業の採用者から求職者に直接スカウトが届く「ダイレクトリクルーティング」で企業の人材採用の在り方を変え、事業を拡大してきた。その一方で、物流やサイバーセキュリティといった領域でも新規事業を立ち上げている。
南社長は、新規事業に乗り出す際に、既に同様の事業に取り組む国内外の企業を訪問し、社員も含めて関係者の話を聞き、徹底的にリサーチした上で市場を見極めるという。そんな彼の社会の変化を読み解く視点について、 ITmedia ビジネスオンラインの新人記者が、初めてのインタビューに挑んだ。
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●「一次情報が一番大事」“確実な未来”をどう見つけるか
――事業を展開する際に大切にしていることを教えてください。
一次情報が1番大事です。インターネットに書いてあることは、誰かが意図を持って発信しているんですよ。誰かにとって都合のいい情報なんですよね。
でも、一次情報を突き詰めると必ず真実が見つかります。ポジティブなこともあれば、ネガティブなこともある。事業もそうなんです。徹底的に調べると、世の中で10年後にどんなことが起こるか、大体は分かるんですよ。
――一次情報を徹底的に集めて、確実な未来を知るということですね。具体的には、どのように考えるのですか?
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例えば、日本の人口は増えますか? 減りますか?
――減ります。
うん、なんで?
――少子化が進むからです。
ですよね。だって、2024年は約68万人しか生まれていないんですから。このままでは、絶対に少子化は止まらない。
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――確かにそうですよね。少子高齢化は日本の確実な未来ですよね。
次に、世の中って今後デジタル化していくと思う? していかないと思う?
――していくと思います。
そうだよね。ITによって利便性が高まる一方で、リスクも必ず高まっていきます。だから、サイバーセキュリティの領域は絶対に広がっていく。世の中の流れの中で、既に決まっていることがあるんです。そうした拡大していく社会課題を、当社は事業のテーマにしています。
●未来から逆算する──ビズリーチ立ち上げ時の視点を聞いた
――ビズリーチを立ち上げた当時も、そのような視点で転職市場が拡大していくことを見越していたのでしょうか?
例えば、米倉さんの世代の場合、40年後も同じ会社で働いている人は少ないと思う。僕もよく、就職活動をしている大学生に「40年後、うちの会社で働いていると思う人は手を挙げて」と聞く。もちろん、残ってくれたらうれしいよ。だけど、何も考えることなく、40年うちの会社にいることしか思わずに、手を挙げた人は採用しない。
――昨年、就活をしていた人間からすると、思わず「働きます!」と答えたくなってしまいますが、確かに40年後も同じ会社で働いているとは限らないですよね。転職が当たり前になった背景には、どんなことがあると思いますか?
ビズリーチを起業(2009年)した16年前は、まだまだ終身雇用の仕組みが残っていたんです。ただ、今の若い世代のほとんどは、1社のみで働き続けることはないんです。その理由の一つとして、DXによって競争が激しくなっていくから。情報が可視化されればされるほど、ビジネスモデルなどがまねされやすくなるわけですよ。
――インターネットなどによって情報が公開されるようになったことで競合他社などにまねされやすくなり、競争が激化したのですね。
そうです。例えば、食べログを使ったことはありますよね?
――はい。
昔は、食べログのサービスはありませんでした。だから、知る人ぞ知るお店がたくさんあったんですよ。だけど多分、今は日本のほとんどの名店が食べログに載っている。そうすると、良い店は人気になる。駄目な店は潰れる、または良い店のまねをする。
だから、どんどんレベルが上がって、競争も激化していくわけです。まねをしまくるので、ビジネスモデルの寿命が短くなるんです。
――1社に長くとどまる働き方が現実的ではなくなったのですね。
ところで、米倉さんは何歳まで生きると思う?
――えっ、100歳以上生きたいです!
素晴らしい。でも、今の日本人の平均寿命って何歳なの?
――85歳くらいだったと思います。
そうだね。平均寿命は今後、伸びていくでしょう。米倉さんが100歳以上生きるとしたら、何歳まで働きますか?
――80歳くらいでしょうか。
あれ? 日本って今、定年退職は何歳だっけ?
――65歳です。
あらら。また不都合な真実が起こっているね。何で定年が65歳なのかというと、社会保障が維持できないから。60歳でみんなが引退したら、その後の30、40年分を年金で支えるのは、難しい。だから、80歳以上まで働きたいというか、働かなきゃいけない。
僕が社会人になった時、定年退職は60歳だったんです。「大学を卒業して、38年働けばいい」って言われていたんですよ。だけど、知らないうちに、働く期間が60年とかになっている。社会人になってからまあまあ働いていたけれど、「あれ、まだスタートラインだった……」みたいな。
だから、雇用が流動化するのは当たり前。これまでの日本の大企業では、人があまり辞めないから新しい人もあまり入ってこなかった。経営陣と人事部長だけで、社員がどんな働き方をしているのか、だいたい把握できていたんです。
でも、今後は人がどんどん入れ替わるから、誰が働いているのか分かんなくなっちゃうわけですよ。だから“人材活用の仕組み作り”に対するニーズが高まっていく。
【2025年6月16日午後4時00分 南社長への追加取材をもとに、より適切な表現に修正しました】
●これからの必然を考えつくさないと「やる気が湧かない」
――少子高齢化という社会課題から、“1つの会社で働き続けることが当たり前でなくなること”を予想し、ビズリーチをはじめとする人材事業を展開したのですね。同じ考え方で、他にも多くの事業を手掛けてきたのですね。
だから全ては必然なんですよね。一次情報から予測して、その市場が大きくなるのか、課題が大きくなるのか。そのような観点で、事業領域を選んでいるのが自分のスタイルであり、好みにも合っているんです。言い換えれば、“癖”ですね。このくらいまで考えないと、やる気が起きないんです。
よく「思い付きでやっているんですか?」と聞かれることがあります。HR、セキュリティ、物流は関係のない領域に見えるかもしれませんが、僕からすると全て同じ考え方でやっているんです。
――確実に社会課題が拡大していく領域を選び、それをより良くしていく。そうやって未来を予測して事業を展開してきたのですね。最後に、これからの時代を担う若手へのメッセージをいただけますでしょうか?
10年後から逆算して、30代で米倉さんがアイティメディアをしょって立つような人材になるためには、まずはとことん失敗することだと思うよ。そして、チャレンジすること。先輩にも感謝すべきだし、いつか自分が先輩になったときには、そのリレーをつないでほしい。ぜひたくさんチャレンジして、失敗してください。
私にとって大きな挑戦だった、今回のインタビュー。私の目を真っすぐに見て語る、南社長の姿が印象的だった。どんなに確かな未来を見据えていても、その裏にはきっと、私には想像もつかないような葛藤や決断があったのだろうと思う。そうした積み重ねが、言葉に静かな重みを与えていた。私も失敗を恐れず、今できることをひとつずつ確実に積み重ねていきたい。
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