「セキュリティ、他人事じゃない」──ドワンゴ夏野社長、ニコニコのAWS移行と、サイバー攻撃を振り返る

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2025年06月28日 12:11  ITmedia NEWS

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 2024年、日本のIT・セキュリティ業界やサブカルチャーに大きな衝撃を与えた、KADOKAWAグループへのランサムウェア攻撃。ニコニコ動画など、ほとんどのサービスはすでに復旧したが、当時の混乱やSNSで飛び交った臆測、メディアの盛んな報道は記憶に新しい。


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 6月25〜26日にかけて、AWSジャパンが幕張メッセで開催した年次イベント「AWS Summit Japan 2025」には、ドワンゴの夏野剛社長が登壇。「ビルダーのためのAWSテクノロジー:その深化と進化」セッションで、ニコニコが進めていたAWS移行と、そのさなかに起こったサイバー攻撃について振り返った。夏野社長が語ったこととは。以下、講演の全文。


●夏野社長が語ったサイバー攻撃とAWS移行


 皆さんこんにちは。今日僕、この後荒れそうな株主総会なので、こういう格好をしております。皆さんご存じのように、ドワンゴとニコニコ、去年(2024年)サイバーアタックを受けてもう大変な思いをしました。


 先ほど巨勢さん(注:直前の講演者でAWSジャパン常務執行役員の巨勢泰宏さん)の話を聞いて、多くの方が「セキュリティ大事だよね。AWS良いよね」──人ごとじゃないですよ、皆さん。マジで大変です。


 どこからマルウェアを仕込まれて、どこからランサム(攻撃に)につながっていくか。本当にどれだけの準備をしても、準備をしすぎるということはないと、われわれ身をもって体験しました。今日の株主総会でもその話題になると思います。


 われわれ実は3年間ぐらいかけて、ニコニコのサービスのクラウド移行をやっていたんですね。もう1年早くしときゃよかったなって思ってるんですけど。


 ニコニコというサービスは一部で“オワコン”と言ってる人もいますが、オワコンではありません。ビデオのデータ量が多いこともありますが、トラフィックでいえば、恐らく日本国産サービスとしては最大だと思います。


 ずっとオンプレで、内製でやってきました。これをクラウドに移行しようというプロジェクトが始まったのが、実は3年前です。


 今、ニコニコがどうなっているかというと、課金流通額でだいたい年間60億円で、1億人ぐらいが使う形になっています。これをクラウドに移行するっていうのは、もう相当大きなプロジェクト。経営者として見れば、財務的にもものすごい大変ですし、ヒューマンリソース、つまりエンジニアも、大幅な組み替えが必要になるわけです。


 ニコニコの場合はずっと内製で作ってきたので、本当にたくさんのエンジニアを抱えている中で、このクラウド移行をなんとか成し遂げた。途中でサイバーアタックを受けながら成し遂げた──というのがこれまでのプロセスです。


 プロダクトビルダー数が250人、そしてVM(仮想マシン)の数が5000以上、システムは70以上に及び、累計の動画量は6PB(ペタバイト)ですね。これだけの規模のものをクラウドに移行するのがどれだけ大変かというのは、ここにいらっしゃる方はお分かりいただけると思います。


 全てのシステムをクラウドに移行したのが今年の3月です。3年越しの大規模プロジェクトでした。正式には22年の4月にスタートしましたが、さらにその前1年間ぐらい検討しているので、4年ぐらいはかかっています。その間、いわゆるオンプレとクラウドの“二重期間”があるので、経営的にも非常に大きな決断になります。しかし、これをやらないと、クラウドのメリットを享受できない……というのがこの後出てくる話です。


 だいたい去年の4月にニコニコ動画と生放送、それから動画を支える配信基盤をAWSに移行し、今年の4月には(他のシステムを)全て移行したということになります。


 この間、去年の6月にサイバー攻撃(を受けた)ということです。(サイバー攻撃について)皆さんにお話ししたいことは山ほどありますが、詳細を話せば話すほどわれわれ自身が危険になり、攻撃者にものすごい情報を与えてしまうことになるので、ちょっと言えないんですけども。内製のエンジニアにものすごい奮闘してもらって。


 もうオンプレミスで持ってたサーバを使えなかったので、全部スクラッチから立ち上げ直して。(結果として)AWSへの移行を早めたという効果があります。


 サイバーアタックもあって、AWSには大変お世話になりました。支援がなければ、こんなに早く移行できなかったと思いますし、それができたことは本当に素晴らしかったなと思います。やはりAWSというサービス自身がわれわれを助けてくれたという風に思ってます。頼まれて宣伝してるわけじゃないですからね、皆さん。われわれは本当にそう思ってます。


 一つは堅牢性。これは皆さんもご存じの通り。それから柔軟性。やっぱりAWSのアプリケーションを使うことで、課金も含めて、柔軟に動画サービスのいろんなパーツを組み立てることができました。従量課金制になっていることで、かなり柔軟に組み立てができる。


 それから献身性。本当に皆さんアカウント支援体制が素晴らしくて、われわれを担当している皆さんに感謝を申し上げます。


 そして多様性ですね。技術的選択肢が非常に多い。実はわれわれ、もちろん他社さんのクラウドも含めて徹底的な比較検討しましたが、やはりサービスの多様性については、AWSが一番優れていたといえると思います。


 ニコニコ動画のサービスのレベルも一気に上げることができましたし、サイバー攻撃を受けた3日後に仮バージョンをリリースしたり、サービスの開発スピードも一気に上がったと思います。


 われわれ当初は「AWS Elemental MediaLive」(注:AWSの動画処理サービス。「ニコニコ生放送(Re:仮)」に活用したという)をこんなに早く使うことになると思っていませんでした。しかしサイバー攻撃から復旧する道のりで使い、多様なサービスを作ってきました。


 セキュリティに関しても、たくさんの基盤が整備できました。うちのエンジニアが別のセッション(注:ドワンゴは、会期中に別のセッションでもセキュリティに関する講演を行った)で詳しくお話しすると思いますので、ご興味ある方がいたらご覧ください。


 移行プロジェクトを総括すると、単にインフラをオンプレからクラウドに切り替えたにとどまらず、事業上の戦略の多様性が、幅が広がったと思います。皆さんにもぜひ参考にしていただいて、皆さん自身のシステムのクラウド移行につながればいいかなと思います。


 そして、私はドワンゴの社長でもあり、そしてKADOKAWAグループの社長でもあります。僕が目指しているのは、KADOKAWAを日本で一番のテックメディアカンパニーにすることです。そういう意味では、全てのKADOKAWAのサービスをこれからフルクラウド化していく。これを目標に頑張っていきたいと思っています。


 そのためにわれわれは開発者、エンジニアを全部ドワンゴに集中して、そしてこのKADOKAWA全体のフルクラウド化、それによる事業の選択肢の多様化、そしてさらなる成長を目指していきたいと思います。この話が少しでも皆さんの参考になればうれしいです。今日はどうもありがとうございました。



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