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なぜ部下は同じミスを繰り返すんだ……。
企画書に工程表を入れてくれと言ったはずなのに、また忘れている。
2時間で終わる仕事に3日もかかっている。「前にも言ったよね?」「時間がかかりすぎじゃない?」と、つい口から出そうになる。
しかし、このフレーズを使った瞬間、部下の表情が曇る。やる気を失い、関係が悪化する。
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そこで今回は、部下を傷つけずに主体的に動かす言い換えテクニックを解説する。部下のマネジメントに悩んでいる上司は、ぜひ最後まで読んでもらいたい。
●なぜ「前にも言ったよね」は禁句なのか
「前にも言ったよね」というフレーズ。これはリスキーだ。上司なら誰でも使いたくなる瞬間があるだろう。しかし、この言葉には大きな問題が潜んでいる。
まず、この言葉を聞いた部下の心理を考えてみよう。「前にも言ったよね」は「何度も言わせるな」「ちゃんと聞いていたのか」という非難のメッセージだ。部下は委縮し、言い訳を考えることに必死になる。
「時間がかかりすぎじゃない?」も同様だ。「仕事が遅い」「能力が低い」と暗に批判している。部下の自尊心は傷つき、モチベーションは大幅にダウンするだろう。
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私は20年以上コンサルティングをしてきたが、このような指摘で部下が成長した例を見たことがない。むしろ関係が悪化し、ひどい場合は離職につながるケースさえある。
ある営業部長から聞いた話。優秀な若手社員が突然退職を申し出た。理由を聞くと「上司から『前にも言ったよね』『何度言ったら分かるんだ』と言われ続けて、自信を失った」という。部長はがくぜんとした。指導のつもりが、逆効果だったのだ。
●単純な言い換えは嫌味にしか聞こえない
では、どう言い換えればいいのか。ちまたではさまざまな言い換えテクニックが紹介されている。
例えば「前にも言ったよね」を「今やっていることに集中しているんだね」と言い換える。「時間がかかりすぎじゃない?」を「丁寧な仕事を心がけているんだね」と言い換える――といった調子だ。
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一見、優しい言い方に見える。しかし現実はどうか。ほとんどの場合、単なる嫌味にしか聞こえないだろう。
私がコンサルティングしていた企業で、実際にこのような言い換えを試した課長がいた。部下の反応は冷ややかだった。それはなぜか?
言葉だけ変えても、上司のいら立ちや不満は声のトーンや表情に現れるからだ。部下は敏感にそれを察知する。
若い世代は、タイパ(タイムパフォーマンス)を重視する。回りくどい言い方より、ストレートな表現を好むケースもあるのだ。「はっきり言ってくれた方がいい」という意見も多い。
●相手の性格に応じて対応を変える
ここで重要なのは、部下の性格を見極めることだ。人は大きく2つのタイプに分けられる。
1. ポジティブで鈍感なタイプ
2. ネガティブで敏感なタイプ
それぞれに適した接し方がある。画一的なアプローチでは失敗する。
まずポジティブで鈍感なタイプについて解説しよう。このタイプの特徴は、失敗を深刻に捉えない。注意されてもケロッとしている。忘れっぽく、同じミスを繰り返す傾向がある。
このタイプには、はっきりと、しかし優しく伝えることだ。「うっかり」と「てっきり」という2つのキーワードを活用する。
「前の打ち合わせで工程表の話をしたけど、うっかり忘れちゃった?」
「てっきり2時間で終わると思ってたけど、何か困ってることある?」
このように、相手を責めずに事実を確認する。ポイントは繰り返すことだ。1回では忘れる。2回、3回と優しく伝える。「ああ、すみません。うっかりしてました」という反応が返ってくる。
上司はイラッとするかもしれない。しかしこのタイプは悪意がない。単純に忘れているだけだ。根気強く接することが重要だ。
●「マイフレンド・ジョン」テクニックの威力
次に、ネガティブで敏感なタイプへの対応を解説する。このタイプは批判に過敏に反応する。自己肯定感が低く、すぐに落ち込む。直接的な指摘は逆効果だ。
ここで有効なのが「マイフレンド・ジョン」というテクニックだ。私の友人ジョンの話をするように、第三者のエピソードを活用して伝える方法である。
例えばこんな具合だ。
「私の知り合いの部長が悩んでてさ。部下に仕事を依頼しても、いつも認識がズレるんだって。本人は一生懸命やってるみたいだけど、なかなか改善しない」
ここで重要なのは、必ず自分を下げることだ。
「実は私も社長によく言われるんだよ。『君は本当に認識が合ってないね』『前に言ったじゃないか。何度言ったら分かるんだ』って。気を付けなきゃと思ってるんだけど、なかなか難しくて」
このように自己開示することで、相手の警戒心を解く。すると部下から「課長、実は私もそういうことがあります」という反応が返ってくる。
マイフレンド・ジョンの効果は絶大だ。直接的な批判ではないため、相手は素直に受け入れる。自分事として捉え、改善への意欲が生まれる。
ただし、使い方を間違えると逆効果になる。「こういう人がいて、ダメなんだよね」という批判的な話し方はNGだ。「それって私のことですか?」とかんぐられるからだ。
●認識のズレを防ぐ3つの確認ポイント
上司としては、そもそも「前にも言ったよね」「時間がかかりすぎ」などと注意する状況を作らないことが理想だ。認識のズレを防ぐには、以下の3つのポイントを意識しよう。
目的の共有
この仕事の目的は何か? 最終的に何を実現したいのか。背景も含めて説明する。
期待値の明確化
どのレベルの成果物を求めているのか。具体例を示しながらゴールイメージを共有する。単なる指示だけだと、意外と伝わらない。
期限の設定
いつまでに完成させるのか。中間報告のタイミングも決める。少し時間がかかりそうであれば、マイルストーンも決めよう。そうすればお互い進捗を確認しやすくなる。
これらをテキスト化することも重要だ。口頭だけでは忘れる。メールやSlackなどのビジネスチャットで残しておく。後から確認できる状態にすると、認識のズレは大幅に減るはずだ。
ある製造業の部長は、この方法で部下のミスが激減したという。「確認の手間はかかるが、やり直しの時間を考えれば効率的だ」と語る。
●部下の主体性を引き出す質問術
最後に、部下の主体性を引き出す話し方を紹介しよう。指示や注意ではなく、質問によって気付きを促すやり方だ。
「この仕事の目的は何だと思う?」
「どんな進め方が効率的だと思う?」
「何か困っていることはない?」
このような開かれた質問(オープンクエスチョン)を投げかける。部下自身に考えさせ、答えを導き出させる。上司は聞き役に徹する。
質問のコツは、詰問調にならないことだ。「なぜできなかったの?」ではなく「どうしたらできると思う?」と未来志向で問いかける。
部下が答えに詰まったら、選択肢を提示する。「AとBの方法があるけど、どちらがいいと思う?」このように誘導する。
主体性は一朝一夕には身につかない。しかし質問を重ねることで徐々に育っていくものだ。部下が自ら考え、行動するようになる。
上司であれば「前にも言ったよね」と言いたくなる瞬間は必ず訪れる。しかし、そういった言葉を言わなくてもいいようにすることが、上司の役目でもある。
部下の性格を見極め、最適なアプローチを選ぶ。時には我慢も必要だ。しかし、その努力が部下の成長につながり、チーム全体の成果となって返ってくる。マネジメントに悩む上司こそ、これらのテクニックを実践してもらいたい。
著者プロフィール・横山信弘(よこやまのぶひろ)
企業の現場に入り、営業目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の考案者として知られる。15年間で3000回以上のセミナーや書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。現在YouTubeチャンネル「予材管理大学」が人気を博し、経営者、営業マネジャーが視聴する。『絶対達成バイブル』など「絶対達成」シリーズの著者であり、多くはアジアを中心に翻訳版が発売されている。
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