旅館で「夕飯の時間が早くて、ゆっくりできない」 常識くつがえす新プランで、問題解決…その案は?

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2025年07月01日 07:10  まいどなニュース

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「温湯温泉 佐藤旅館」の玄関(佐藤旅館提供)

 「夕飯の時間に縛られて部屋や温泉でゆっくりできない」ーー旅館宿泊客のこんな悩みを解消しようと、東北地方にある旅館が新しい取り組みを始めました。きっかけは「時間に追われず旅館滞在を楽しんでもらいたい」という思いからでした。

【写真】名物のイワナを使った定食メニュー

好きな時間、好きなメニューが選べる

 宮城県の栗駒山麓にある「温湯(ぬるゆ)温泉 佐藤旅館」(宮城県栗原市)が6月からスタートした「わがままお食事プラン」。

 通常、午後6時から8時までの夕食時間が、新プランでは午後3時から午後11時までという幅広い時間帯から指定可能。旅館到着後に決めてもよく、希望時間の30分前までにフロントに伝えればOKです。メニューは従来のプランとは別で、5つの定食の中から選べます。

 「定食スタイルにすることで柔軟性と提供スピードを上げることができます。とはいえ、どこでも食べられるようなメニューだとお客さまもご満足いただけないかと思うので、当館名物のイワナを使ったメニューをメインとして、5種類からお選びいただける形です」(担当者)

 同旅館では、時間に縛られたくない一人客や、仕事で到着が遅くなっても夕食も温泉も楽しみたいビジネス客などを想定しており、子ども連れの家族の場合は「お子さんを先に食べさせ、親御さんはあとでゆっくり食べることも可能です」(担当者)。

 6月初旬、旅館の公式Xで告知したところ、「ありがたい」「そんなわがまま許されるのか」などの反応が。数日で予約が入り始め、今後さらに増える手応えを感じています。

「旅館側の都合」は旅行者の心理的プレッシャーに?

 企画の背景は。

 「旅館側が食事時間を決めるのは旅館側の都合であって、好きな時に食べたい人もいるのでは、という思いからです。夕食時間が決められているがために『何時までに旅館に着かなくては』という見えない心理的プレッシャーを感じ、観光を諦めたり、人を会う時間を短くしたり、というのは本来の観光業が目指す方向とは反対かと思います」(担当者)

 従業員の負担が増える可能性は。

 「ワークライフバランスを崩しては本末転倒ですので、プランの開始にあたっては従業員に過度の負担がかからないように、提供メニューを限定し、通常の厨房オペレーションよりも簡易なフローを構築しております」(担当者)

 同旅館ではこれまでも、旅館では敬遠されがちだった一人客の歓迎や、客が到着前に布団を敷いておくなど、新しい取り組みを続けてきました。

 最近の旅行者が旅や旅館に求めているものは「あらかじめ決められたスケジュールで動くのではなく、その時の体調や気分に応じて過ごし方を決められる『自由気ままな旅』」だと感じているそうで、このニーズは今後も増えていくのではないかといいます。

 「皆が同じ時間に到着し、同じものを同じ時間にみんなで食べる、という時代は古くなりつつあります。それが良いことか悪いことかは分かりませんが、時代の変化にあわせて柔軟に対応していかないと生き残れないとは感じます。旅館側に求められているのは新しいサービスの開発だけでなく、資材、食品、光熱費の高騰や人件費の上昇、人手不足と解決が難しい問題に、業務効率化やDXの活用で顧客のニーズに応えつつ、顧客満足度を上げていくことだと思います。そのためにはこれまで行われてきた『上げ膳据え膳』ではなく、利用者のご理解、ご協力も必要かと考えております」(担当者)

 「わがままお食事プラン」の料金は2食付き1人11870円(1〜4人同一料金)。「土曜日等の多客期以外はなるべく一人旅を応援するため、お一人様料金を設けない形で提供することにしました」(担当者)。夕食メニューは全5種(イワナの塩焼き定食、イワナのミニ漬け丼と醬油ラーメンまたはうどん、イワナの一夜干し定食、牛タン定食、日替わり定食)の中から1つ選べます。詳細は「温湯温泉 佐藤旅館」公式サイトで。

旅館の夕食、なぜ時間が決められている?

 旅館の夕食時間は一般的に、午後6時前後からが多く、SNS上には「旅館の夕食は早い」「夕方5時に夕飯」「あんまりお腹すいてない」などの声が並んでいます。

 観光庁「旅館Q&A あなたの疑問に答えます!」では、旅館の食事に時間帯が設けられている理由について「旅館で用意する食事が、その土地の特産物や、その時期に旬な素材を使った郷土料理であることが多く、準備が必要だから」と説明。

 少数ながら時間に制限を設けていない旅館もあるとしながらも、「時間を過ぎてしまいますと、食事が取れなくなる可能性があります」「旅館では食事以外にも、温泉や他の館内施設を楽しんだりする場所でもありますので、ぜひチェックインは早めに済ませ、食事前の時間も楽しんでください」と案内しています。

(まいどなニュース・金井 かおる)

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このニュースに関するつぶやき

  • 旅もどんどんわがままになって行きますが、いずれそんなサービスも出来ない時代になった時には、それが当たり前の人たちは困るのでしょうね
    • イイネ!6
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