「檀家からのカスハラ」に苦しむ僧侶の嘆き。四十九日を“タイパで処理”しようとする罰当たりも

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2025年07月04日 09:21  日刊SPA!

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飲食店や小売店に対して、無理難題の押し付けや恫喝など、カスタマーハラスメント(カスハラ)と言われる事象が目立つようになってきた。SNSの普及により、迷惑行為が拡散されやすくなったのは間違いない。
また、東京都が2025年4月に通称「カスハラ防止条例」を施行したことで定義づけが進み、認識しやすくなったのかもしれない。

さて、カスハラはどんな業界にも一定数存在するはず。寺の家系に育ち、現在も寺社仏閣に関する仕事に携わる筆者の耳に「檀家から寺に対するカスハラもある」という話が飛び込んできた。

さっそく僧侶の方に直接話を聞いてみたが、“寺ならでは”の大変さがひしひしと伝わってきた。

◆「心霊写真」をお祓いしてほしいという依頼が

「無宗教」を自覚する人が多い日本では、仏教に触れる機会は稀ではないだろうか。メディアでセンセーショナルに取り扱われる部分の知識しか持っていない人も珍しくない。その煽りを食ったような出来事を経験したのは、中部地方に暮らす浄土真宗の僧侶・近田さん(仮名)。

「真宗では行わない『祈祷』や『お祓い』を求められるケースはかなり多いです。心霊写真など、いわくつきのアイテムを持ってきて『お祓いしてください』と。お断りしても、祈祷料のつもりなのか、心霊写真と一緒に小銭を置いて行っちゃう。もう、ただの不法投棄ですよね」

なかには、心霊写真がマシに思えるようなものを持ちこんで除霊を要望する人もいるという。

「『この子が部屋に来てから、毎晩うなされるようになったので除霊してほしい』と、人間サイズの人形を持って来られたことがありました。いつものように『真宗では除霊というものはないんですよ』と伝えたのですが、引き下がっていただけず。『お経を上げてくれるまで帰らない』との一点張り。居座られても困るので、仕方なく要望に応えてあげることに。その時ばかりは、私もお経をあげながら笑いそうになりましたけどね(笑)」

◆葬儀社にクレームの電話が

家族や親類が亡くなった時、作法がわからず、あたふたした経験はないか。遠田さんは、昨今のリテラシー低下と同時に「タイパ至上主義」の広がりが感じられるとため息をつく。それにより、これまでの慣例が通用しなくなっているようだ。

「葬儀は、枕経から初七日まで数日かかるものでした。ですが、最近は遠方から参列する方への配慮もあって、葬儀の続きで初七日法要まで済ませることも増えました。ここまでは理解できますが、『葬式から四十九日法要、初盆法要まで全部まとめて1日でやってくれ』と言われたことがありましたね。長時間かけて説得をして、なんとかご理解いただきましたが、とにかく骨が折れました」

また、時代の変化とともに寺と檀家という繋がりがなくなり、葬儀社が地元のお寺を紹介することが増えている。遠田さんもその流れで、葬儀社からの依頼を受け、とある家の葬儀を執り行い、四十九日法要まで終えたのだが……。

「忌明け(四十九日法要)のあと、私からご遺族に『この後は、初盆・百か日・一周忌という流れになります。ご希望の日にちが決まりましたら、お寺にご連絡くださいね』とお話ししました。すると、葬儀社に『お前のところが紹介した坊さんが、営業かけてきたぞ! どういうことだ』とクレームの電話がかかってきたそうです」

◆墓の管理費を滞納、挙句の果てに「好きにしてくれ」

少子高齢化や核家族化が進み、さらには宗教やお墓に対する価値観の変化も重なって「墓じまい」を選択するケースが増加している。関東地方でお寺を運営する大杉住職(仮名)は、この「墓じまい」に関する困りごとを話してくれた。

「うちのお寺に墓地を持っていらっしゃる方が、管理費をずっと滞納されていまして。その旨をご連絡したところ『そんなの、親父たちが勝手に契約したものだから知らない。好きにしてくれ』と言われてしまいました」

墓じまいは本来、墓主が役所・業者・お寺に連絡をして手続きを踏むのが一般的だが、それを寺院に丸投げする残念な事例といえる。

さらに、「好きにしてくれ」と言われてもそうできない法的な事情もあった。お墓は、その土地はお寺のものだが、墓石は個人の所有物である。そのため、寺院側が墓じまいをした場合、墓石の保全責任を問われる可能性もあるのだという。このように、リスクが大きいこともあって、困惑している寺院も多い。

飲食店や小売店のような、「その時だけのお客様」ではなく、お寺と檀家であったり法要を続けていく「継続的な関係性」があるぶん、強く出にくいお寺の事情が見えてきた。そういった背景も含めて、お寺とも「健全な関係」をもって暮らしたいものだ。

<取材・文/Mr.tsubaking>

【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。

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