140円の入場料支払いで「なんだそれ、ふざけんじゃねえ!」と逆ギレ。現役鉄道員が明かす「理不尽な利用客」の実態

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2025年07月23日 09:20  日刊SPA!

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サービスを受ける顧客から従業員に対して向けられる理不尽な言いがかりを指す「カスタマー・ハラスメント(カスハラ)」という言葉が、近年広く知られるようになってきた。老若男女を問わず誰もが日々利用する駅は、とくに「カスハラ」が起こりやすい場所の一つ。国土交通省の発表によれば、鉄道係員に対するカスハラ行為は、’22年は1124件だったのが、’23年は1568件と、1年で400件近く増えている。
今回は某鉄道会社に勤務し、駅員業務の経験も持つ「鉄道員K」さんに、自身がこれまで遭遇してきた「カスハラ」エピソードを聞いた。

◆駅で働くと、人間の色んな側面を見せられる

鉄道員Kさんは現在20代の男性。大学卒業後、関西のとある鉄道会社に5年ほど勤務し、関東の鉄道会社へと転職。駅係員(駅員)業務を経て、現在は車掌としてドアの開け閉めや、車内放送業務などを担当している。

「小さい頃は電車に乗ると、最前列の車両で運転の様子をかぶりついて見ているような子どもでした。そこから自然と電車の運転士を目指すようになり、就職活動のときも、鉄道会社を中心に受けていました。ただ、入社した会社はいわゆる『総合職採用』で、乗務員の仕事ができる期間が限られていたんですね。どうしても運転士の仕事を続けたかったので転職をすることにしました。今は、運転士試験を受けるタイミングを見計らっているところです」

とくに駅員として窓口で接客をしていた時には、利用客から理不尽な言いがかりをつけられることも多かったと話す。

「転職後の会社で、最初に配属されたのが関東のいわゆる『ターミナル駅』でした。一日の乗降客数も多かった分、人間の色んな側面を見せられ、よく言えば退屈しない環境でした」と、苦笑いしながら振り返る。

◆140円の入場料支払いに突っかかる人々

Kさんによれば、「カスハラ」に発展しやすいケースで最も多いのが、入場料の支払いをめぐるトラブルなのだという。

鉄道旅客運送事業を行う会社は、原則として『旅客営業規則』と呼ばれる約款を持ち、トラブルへの対処について定めている。 Kさんの会社の場合、駅に入場してから一定時間が経過して再度同じ駅から出場しようとした場合は、原則として入場料を取るという決まりだ。

「とくに大きな駅ほど、道に迷われてからなのか改札口から別の改札口への通り抜けを試みる方が一定数います。その場合、約款の内容を説明した上で入場料をいただかなければいけません。初乗り運賃相当、額にすると140円〜160円程度ですが、皆さんたとえ少額でも『払いたくない』という気持ちがあるようで……。9割方は支払いに応じてくださいますが、1割程度の方は突っかかってこられます」

加えて、入場後に一度電車に乗ってそのまま引き返してくるケースなどもあり、そうした場合は乗車相当の運賃を徴収する必要がある。そのため詳細を聞いたうえで、入場料を取るかどうかの判断は、最終的に駅員の裁量に委ねられているという。

「約款の内容を1から説明していると待ち客の列が長くなるので、同僚の中には入場料を取らず、どんどん客を通してしまう人もいます。ただそうすると、結果的に運賃を支払っている人が損をすることにもなってしまうので、自分はなるべくやらないようにしていました」

過去のトラブルで、特に記憶に残っているケースを挙げてもらった。

「ある日、中年の男性2人組が改札に近づいてきたんです。丁寧な表現になりますが、お酒を召した方々でした。時間帯は真っ昼間、かつ私服だったので、昼から飲んでいたんだと思います。
事情を聞くと、駅構内を通り抜けようとして、改札を抜けられなくなってしまったと。それは『駅構内の通り抜け』に該当するので入場料をいただきますと伝えると、『なんだそれ、ふざけんじゃねえ』と、向こうが逆ギレし始めてしまいました」

Kさんが毅然とした対応を取ったところ、相手はさらに激高してしまったという。

「『支払ってもらえないなら、呼ぶもの(警察)呼びますよ』と伝えたんですが、それが気にくわなかったみたいです。この時は『ICカードの処理ができなければカードをお返しできないし、処理をしなければ他社の路線を使うこともできない』と再三伝え、しぶしぶ支払ってもらうことができました。こうしたことはよくあるので、埒が明かない場合は、基本的には警察を呼ぶようにしています」

◆使命感に支えられている

カスハラに限らず、乗務員や駅員は何かと苦労の多い仕事でもある。会社にもよるが、新卒で入社した場合の初任給は平均20万前後で、手取りにすると10数万。土日に関係なく出勤が発生し、勤務上の拘束時間も長い。「今の会社に入ってから、辞める人を何人も見てきました」とKさんは話す。自身は、仕事を辞めようと思ったことはないのだろうか。

「大多数の方にとって、電車とは時刻通りに発車するもので、ダイヤがちょっとでも乱れると皆さん過敏になってしまう。心理的負担を感じることは日々山のようにありますが、『辞めたい』まではないかもしれません。
何だかんだ言っても、私たちがいないことには鉄道は動かないので、使命感に支えられている部分が大きいです。数として少数ではありますが、中にはこちらが戸惑うぐらいの感謝を向けられることもあります。それはやはり嬉しいし、仕事を頑張ろうという気持ちになりますね」

過酷な面も大きい鉄道の仕事だが、乗務員の「やりがい」は顧客の態度一つで変わってくることは忘れずにいたいものだ。

<鉄道員Kさん>
20代の現役鉄道員。大学卒業後に、西日本の鉄道会社で乗務員として数年勤務した後、関東の鉄道会社に転職。鉄道員としての日常について、自身のnoteで発信中。

【松岡瑛理】
一橋大学大学院社会学研究科修了後、『サンデー毎日』『週刊朝日』などの記者を経て、24年6月より『SPA!』編集部で編集・ライター。 Xアカウント: @osomatu_san

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  • あなたの様なふざけた客が居るから入場料が要るのでは。
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