イオンは二刀流、ヨーカドーは一時撤退も 群雄割拠のネットスーパー、各社の戦略

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2025年07月26日 06:40  ITmedia ビジネスオンライン

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各社が参入している「ネットスーパー」の将来性を探る(出所:ゲッティイメージズ)

 ネット上で食材を購入できる「ネットスーパー」に各社が参入している。国内では西友が2000年に始めた「西友ネットスーパー」が一番手と言われ、スマホの普及後に各社の参入が相次いだ。イオンやイトーヨーカドーなど小売各社のほか、Amazonや楽天など大手ECも参入している。


【画像】さまざまなジャンルの商品を販売しているAmazonフレッシュなど(全3枚)


 コロナ禍以降は地場の食品スーパーも参入が続いたものの、米中と比較すると日本の食品におけるEC化率は低く、開拓の余地はまだ大きいとされる。イオンも2023年から新たなネットスーパーを開始しており、既存のサービスと両軸で攻勢をかける方針だ。各社が展開するサービスの特徴から将来性を分析していく。


●市場規模は3500億円超に


 ネットスーパーを二分すると「倉庫出荷型」と「店舗出荷型」に分けられる。倉庫出荷型は家電や衣類品などを扱う通常のECと同様、一つの物流拠点から各地に配送するネットスーパーである。


 一方の店舗出荷型は、実際に営業している食品スーパーの各店舗から配送するサービスである。倉庫出荷型は配送地域が限られる一方、実店舗で扱わない商品も陳列できるため、商品数が多いのが特徴的だ。また、キャパシティも巨大であり、食品スーパー数十店舗分の容量を有する。


 店舗出荷型は、食品スーパーの店舗網を活用できる点がメリットだ。イオンのような大手チェーンの場合、全国に展開できる。実店舗で販売している商品に限られるため、倉庫出荷型より商品数は少ないが、店舗で調理した弁当や総菜類も販売している。当日注文→受け取りできる点が消費者側のメリットである。


 大手ECは倉庫出荷型を手がける一方、地場の食品スーパーは店舗出荷型を展開している事が多い。国内のネットスーパー市場は2023年に3000億円を超え、2025年は3500億円超と推定される。


●倉庫&店舗出荷型の両軸で攻めるイオン


 イオンは2008年に店舗出荷型の「イオンネットスーパー」を開始した。実店舗を活用しており、2024年末時点で32都道府県、約280店舗でサービスを展開する。配送料は店舗、エリアによって異なるが、買物額によって変動することが多い。


 商品はイオンの実店舗と同じく、食品や洗剤などの消耗品を取り扱い、冷凍食品にも対応している。具体的な会員数などは公表していないが、コロナ禍では毎年2ケタのペースで売り上げが伸びた。巣ごもり需要で利用者が増え、その利便性に気が付いた消費者が継続して利用するという背景がある。


 2023年にはイオンネットスーパーとは別のサービスとして「Green Beans」を開始している。こちらは倉庫出荷型で、対応エリアは東京23区内や千葉県の東京寄り、神奈川県横浜市や川崎市など都心部に限られる。配送料は110〜770円で、最低でも税別4000円以上購入する必要がある。


 弁当は冷凍のものしか対応していないが、地域の特産品など珍しい商品をそろえるのが特徴だ。サービス開始以来、利用者は増えており、特徴的な黄緑色の配送車も昨今ではよく見かけるようになった。現在は千葉県に物流拠点があるが、今後は東京・埼玉にも拠点を新設し、首都圏での対応エリアを拡大する方針だ。


●「ダークストア」を開店したヨーカドー


 イトーヨーカドーは2001年に葛西店で店舗出荷型のサービスを開始した。北海道、東北、関東、関西など、店舗付近で対応し、店舗数の拡大に伴い、売り上げが伸びている。2015年には、ネットスーパー専用店舗として西日暮里店を出店した。同店は一見すると通常店舗に見えるが、一般客は中に入れない。出荷件数は1日2000件と既存店の5倍の能力だ。


 このようなネット専用店舗のことを「ダークストア」と呼ぶ。出荷のために作られた店舗であり、配送用に特化できるため内装や外観に凝る必要がない。大規模倉庫を置けない人口密集地に出店できるメリットもある。ヨーカドーが西日暮里を選んだのは、周辺に実店舗がないためだ。ダークストアは倉庫出荷型と店舗出荷型の良いとこ取りをした店舗といえる。


 だが、店舗出荷型は欠品や配送の手間など、運用面での欠点も多い。そのため、2023年から倉庫出荷型のサービスに切り替え、西日暮里店も閉店した。倉庫出荷型では横浜を拠点にして実店舗の負担軽減を狙い、千葉にも拠点を構えようとしたものの、2025年2月に終了している。収益化の見通しが立たなかったことが要因である。


 2025年2月からはスタートアップ企業のONIGOと手を組み、ヨーカドー系列の約90店舗から配送するサービスを開始している。店舗型→倉庫型→店舗型と苦戦しており、一筋縄ではいかないようだ。


●大手ECは地場のチェーンと手を組む


 Amazonは直営の「Amazonフレッシュ」ほか、食品スーパー各社とも提携しており、ライフや成城石井と協業する。


 Amazonフレッシュは2017年に開始したサービスで、倉庫出荷型。首都圏の1都3県が対象エリアだ。通常のスーパーのように野菜や精肉も販売し、チルド食品や冷凍食品も取り扱う。最低注文金額はGreen Beansと同じく税別4000円。プライム会員の場合、通常配送料は490円だが、1万円以上の買い物で送料が無料となる。


 関東・関西の一部で展開するライフのネットスーパーでは、商品を実店舗から配送する。店舗で調理した総菜のほか、PBブランド「スマイルライフ」の商品も販売している。同様に愛知県地場の「バロー」とも手を組み、PB商品や店内調理のパンを販売している。


 Amazonが地場のチェーンと手を組むのはエリアを拡大するためだ。直営のAmazonフレッシュはエリアが関東に限られる。国内のネットスーパーは黎明期を抜け出したばかりであり、Amazonでも拠点を構えてこなかった。楽天も同様に直営の倉庫出荷型ネットスーパー「楽天マート」を運営するが、対象エリアは関東・関西の一部に限られる。なお独自プラットフォーム「楽天全国スーパー」内では「コモディイイダ」や「ベイシア」の店舗出荷型サービスを提供している。


 経済産業省によると2022〜23年におけるBtoC物販全体のEC化率はいずれも9%だが、食品のEC化率は4%台にとどまる。食品のEC化率が低いのは、スーパーやコンビニ、ドラッグストアなど食品を販売する実店舗の密度が大きいためだ。


 食品の選好はその日の気分で変わるため、見通しが立たないことも関係しているだろう。市場規模は伸びているが、ヨーカドーが苦戦するように前途洋々とはいえない。ネットスーパーを普及させるには、実店舗から客を奪う必要があり、場合によっては既存事業との共食いにもなりかねない。国内でネットスーパーは定着するのか、各社の動向に注目したい。


●著者プロフィール:山口伸


経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。



このニュースに関するつぶやき

  • これって顧客の取り合いをするだけなんよね。市場規模が広がる訳じゃない。利用者の選択肢が増えるだけ。
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