「新郎新婦はマッチングアプリで出会い……」と、結婚式の口上でさえ隠されることがなくなったほど、アプリでの出会いは定番化した。
とはいえ、他己評価を簡単には知ることができないマッチングアプリでは、交際後に思わぬ一面を垣間見ることもあるようだ。
今回、マッチングアプリ経由で出会い、婚約までしたAさんとのエピソードを話してくれたのは、都内の外食産業系の会社に勤める町田明美さん(仮名・20代)。町田さんはなぜ、“ハイスペ”婚約者との別れを選んだのだろうか?
◆30代男性と交際4か月でスピード婚約
「Aさんは、大手企業に勤める5歳年上のイケメンでした。彼は真剣に結婚相手を探していて、料理が上手で家庭的な人を理想としていたそうです。私は、いまの会社ではお店で出す新メニューの開発をしているため、シェフではないにせよ、食のプロです。そうしたことをマッチングアプリのプロフィールでアピールしていたことから、Aさんは私に興味を持ったようでした」
何度かデートを重ねて、結婚を前提とした交際につながった町田さんとAさん。すでに30代だったAさんは、都内に住んでいる町田さんの両親と顔合わせをしたこともあるのだとか。
「Aさんは結婚願望が強くて……交際をはじめてわずか4カ月ほどで指輪を贈ってくれ、婚約することになりました。私の両親とも食事会を済ませ、結婚に向けて話がトントン拍子に進んでいったんです。
私としては、同棲もしていないし、もう少し彼のことを知ってから結婚したいと思っていたものの、Aさんの押しに負けて婚約することになりました。
ちょっと強引なところがあるのは引っかかりましたが、将来も安定しているし、私を大切にしてくれる気持ちは毎日感じていたので、婚約に異を唱えませんでした」
◆スポーツカーで迎えに来た姿に困惑……
ハイペースで結婚準備を進めるAさんは、次いで自分の両親との顔合わせの日付けをセッティングしたという。
「Aさんの実家があるのは名古屋。なので、週末を使ってレンタカーで小旅行も兼ねて行こうということになりました。Aさんは車を持っていなかったのですが、運転には自信があるとのことで、名古屋までの移動は任せることになったんです。
当日、私の家までレンタカーで迎えに来てくれたのですが、借りた車を見て少し困惑しました。というのも、いかにもスピードが出そうなスポーツカーだったんですよ。
しかも、わざわざ自宅から遠いお店に行ってまで指定したと言うんです。車好きだとは聞いていましたが、レンタカーの車種すらこだわるんだと、驚きでした」
◆渋滞に直面し、徐々に様子がおかしくなっていった
そもそも、Aさんとのドライブデートはこの日が初めてだった町田さんだが、彼の「運転は得意」の言葉を信じており、特に不安は感じていなかったそう。しかし、いざ高速を走り出すと……。
「大型連休の影響も受ける週末だったので、高速道路はもうそれはそれは大混雑していて。それでも当初は、楽しい会話をしながら走れていたんです。けれどAさんの口数は徐々に少なくなっていき、苛立ちが伝わってくるようでした。その程度ならまだ我慢できたかもしれませんが、Aさんの機嫌はどんどん悪化していったんです。ただでさえ渋滞しているのに、前の車との車間距離をギリギリまで詰めたりと、おかしな運転をするようになっていきました。
空気を変えたいと思い、途中のサービスエリアで休憩を取ることにしましたが、まあ混んでいますよね。駐車場の空きスペースすら奪い合いしないといけないほどでした。やっとの思いで駐車できても、一緒に喜ぶなんてもってのほか。そんな素顔を見たことがなかったので戸惑いました」
◆ハンドルを握るとキャラが変わるタイプだった
だが幸いにも、休憩を挟んだことで高速道路の混雑具合は改善された。ようやく落ち着いた道中になると思った町田さんだったが、その考えは脆くも崩れ去る。
「予定の時間より遅れているからと、法定速度を大幅にオーバーした速度を出し始めたんです。スポーツカーだからすごい勢いで加速するし、助手席に乗っているのがもう怖くて……。
さらに、また前の車との車間距離を異常に詰める、あおり運転までするようになったんです。ハンドルを握るとキャラが変わる人がいるとはよく言いますが、まさにAさんがそうしたタイプ。あおり運転は名古屋の直前まで続いて、その間はまるで生きた心地がしませんでした」
◆実家に到着した瞬間、別れを告げた
運転中に激変したAさんを見て、一気に冷めた町田さん。結婚するのは無理だと悟ってしまう。
「Aさんの実家に到着し、車を降りたところで『別れよう』と告げ、タクシーを呼びました。Aさんは呆気にとられていましたが、私はおかしな運転をする人とは結婚できないと理由を説明し、彼の両親とは会わずに新幹線でひとり帰ったんです。何度もAさんから電話が来ましたがすべて無視。指輪も返すから、結婚はなかったことにしてほしいとLINEを送りました。
その後もしつこく弁解と和解を求める連絡が来ましたけど、完全に幻滅しているので一切返答しませんでした。ただ、このままでは埒が明かないと思って、郵送で指輪を返すことで、婚約をなかったことにしました」
「あおり運転男」とうっかり結婚するところだった町田さんは、マッチングアプリで出会う男には長距離の運転をさせてみるべきと強く主張する。
「やっぱり運転には人柄が出ますよね。とくに、渋滞している高速道路や、複雑な裏路地を走らせるとよいのかも。結婚生活を営む上では、ピンチにどんな対応をするのかが、間違いなく重要なポイントだと思いますし。
Aさんのように事が思い通りに運ばないからと、イライラして周囲に当たり散らす人は、結婚後にはDV男に豹変したところで、なんら不思議はないじゃないですか。寂しさや後悔は微塵もなく、婚約破棄で済んでラッキーだったなと、安堵しています」
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結婚前には長距離ドライブ。手垢のついたアドバイスのようだが、その実用性を侮ることはできなさそうだ。
<TEXT/高橋マナブ>
【高橋マナブ】
1979年生まれ。雑誌編集者→IT企業でニュースサイトの立ち上げ→民放テレビ局で番組制作と様々なエンタメ業界を渡り歩く。その後、フリーとなりエンタメ関連の記事執筆、映像編集など行っている