縦型洗濯機の内部クリーニング前/後暑い日が続くと、当然ながら大量に汗をかく。そこで気になってくるのは、汗を吸った衣服からただよう独特のニオイ。電車、バス等の密室で思わず鼻をつまみたくなるようなシチュエーションは珍しくない。そして、人の振り見て我が振り直せとばかりに「自分は臭くないかな……」と疑心暗鬼に陥ってしまった経験はないだろうか。
根深い衣服の“ニオイ問題”。これを防ぐには、煮沸や漂白剤のつけ置きが有効だが、実は「洗濯機そのものをクリーニングする」手段も効果てきめんらしい。
そう教えてくれたのは、洗濯機クリーニング専門店「洗濯機のまじん」を運営する東海エネテック株式会社の取締役・増田穂孝(ますだ ほだか)さん。「クリーニングしないとどうなるのか?」といった素朴な疑問に答えてくれつつ、「クリーニングのコツ」など、実践的なノウハウを伝授してくれた。
◆洗濯機を「開けてビックリ!」から事業がスタート
東海エネテック株式会社は2018年に創業し、家庭用エアコンの修理事業を主に事業展開。現在の洗濯機クリーニングを開始したのは2年ほど前で、そのきっかけは事務所の洗濯機を技術スタッフが興味本位で分解してみたところ、内側があまりにも汚れていて驚いたことであった。
「2年くらいしか使ってないし大丈夫だろうと思ってたら、びっくりするほどメチャクチャ汚れてまして(笑)。そこで(洗濯機クリーニングの)需要があると思ったのが理由の一つです。それに洗浄後は本当に新品のようになって嬉しかったので、洗濯機だけでなく気持ちもキレイになるような感動をお客さんに味わってほしいというのも、すごく強い部分ですね」
◆洗濯機の形式によって汚れ方も変化
表面はピカピカなぶん、内側の汚れた部分を意識しにくいのが洗濯機の難点。実際のところ、汚れた洗濯機はどうなっているのか? 見たいような見たくないような実情を増田さんに質問した。
「洗濯機は主に縦型とドラム式がありますが、縦型は内部の湿気からカビ汚れが付いて、それが“ワカメのような膜”として定着することが多いです。ドラム型のほうは乾燥機能によって縦型よりも湿気を抑えやすい傾向です。でも、その乾燥機能は諸刃の剣でもあって、衣類から出たホコリが乾燥経路に溜まったり詰まったりしてしまうことも」
こうした汚れが溜まると、縦型の場合は“ワカメのような膜”が千切れて衣類に付着。これをわざわざ取り除くのは煩わしいし、時間の浪費にもなる。また、ドラム式のホコリ汚れも乾燥機能の低下につながるから用心したい。さらに、多くの洗濯機に付いている洗剤自動投入機能にも注意が必要だという。
「直接的な汚れの原因となることは少ないですが、投入部の手入れがしにくいことと、『(洗剤なので)手入れしなくてもいいか』と思いがちなので、放置しすぎて投入部に汚れが溜まることはあります」
なんにせよ、油断は禁物である。
◆乾燥機能を使っていなかった洗濯機の末路
もっとも壮絶だった現場のエピソードを聞いてみたい。話を振ると、某TV番組スタッフとともにある個人宅を訪れた時の出来事を振り返ってくれた。
「そのお宅ではドラム式を使用されていたんですが、なんと乾燥機能を使っていなかったんです。そうすると恐ろしいほど湿気が溜まってしまい、そのぶんカビ汚れもスゴイんですよ……。もちろんドラム型でよくあるホコリ汚れもありますから、ダブルで汚れが溜まってしまっていました」
ドラム式の洗濯機は扉の奥にゴムパッキンやカバー部分、さらに奥にシルバーの脱水槽があるが、カバーにはホコリが、脱水槽には想像もつかない……というより想像したくないほどのカビ汚れが密集していたのだ。スタッフ2人がかりで対応したものの、分解と洗浄はなんと4〜5時間に及んだらしい。
「汚れのレベルを10段階で表すなら、まさに最上段のレベル10ってくらい凄まじかったです……。しかし、その分お客さんにはとても喜んでもらえましたし、TV番組側も『撮れ高が良かった』とのことで、結果オーライですね(笑)」
◆汚れのせいで人間も機械も不健康に
洗濯機をクリーニングしないまま使い続けると、衣類のニオイや不快感以外にどんな弊害が出るのか。増田さんはまず、健康上のトラブルについて指摘する。
「まず、カビによる健康被害が起こり得ます。特に小さいお子様がいらっしゃるご家庭ですと、アトピー性皮膚炎などの肌荒れ・肌トラブルやアレルギー反応に繋がる懸念がありますね」
加えて、不具合や故障に繋がる可能性も。4〜5年程度しか使っていない洗濯機でも、エラーを起こして動かなくなる場合があるそうだ。
「エラーが出たら反射的に『洗濯機が故障した、買い替えよう』と判断する方もいらっしゃいますが、実はクリーニングでカビ汚れやホコリ詰まりを解消すれば直ることも多いんです。そうした意味でも定期的なお掃除は必要ですね」
また、洗濯機の不具合にあたってはメーカー側へ対応を問い合わせることも一般的だが、部品交換や直接の修理は行うものの、汚れトラブルの解決は対応範囲外なことも多い。こうした時、専門業者への依頼で不具合が解決するケースもあるらしいので、緊急時のために覚えておくと良いだろう。
◆汚れ対策のコツは「乾燥」と「小まめな洗浄」
それでは、洗濯機の汚れを洗浄する時は、どういった点に気をつければよいのか。またはそもそも日常生活において汚れを抑えるコツはあるのか。これについては、増田さんいわく「とにかく乾燥させることが肝心!」だと断言する。
「湿気を溜めないということがスゴく大事ですね。使用後にフタをある程度開けておくだけでもいくらか効果はありますし、洗濯後には必ず槽乾燥機能を使いましょう。また、洗剤の自動投入口も小まめに手入れすると良いですよ」
加えて重要なのが、洗濯槽クリーナーを2週間から1ヶ月程のなるべく短いスパンで、かつ定期的に使うことである。クリーナー用の洗剤は高くても1,000〜2,000円、安ければ数百円で購入可能。転ばぬ先の杖としては、高い出費ではないはずだ。
「スーパーやドラッグストアで買い物をした時に『そういえばやらなきゃ!』みたいな感じでやるよりは、月1回など日を決めてしっかり行うことが、清潔な状態を保つ上で大事ですね」
また、洗濯槽クリーナーを使う時に適量を守ることも忘れてはならない。過剰に投入すると、余剰分が石鹸カスのように洗濯機内部に蓄積し、かえって汚れの原因となってしまうのだ。
「あと、クリーナーは塩素系と酸素系がありますが、汚れをしっかり落としたいなら塩素系、肌への影響を気にするなら酸素系が推奨されます。値段によっての効果差はさほど無いですね。例えば1,500円の洗剤で3ヶ月に1回洗浄するより、500円の洗剤で毎月1回こまめに洗浄するのをおすすめします」
◆自前での洗濯機分解は「絶対NG」
なお、洗濯機の洗浄方法は多くの場合、取扱説明書にしっかり明記してある。隅から隅まで読み込むのも大変だが、自己流(最近のネットミームで言えば『オリチャー』だろうか)でやるよりも、基礎的な情報に基づいた方が無難だろう。
「メンテナンス方法に関する問い合わせは時おり来ますし、お客様のお宅へ伺った際にお教えすることもできますが、お客様ご自身でできることは取扱説明書に結構載っているんです。まずはそこをチェックしてほしいですね」
逆に良くない洗浄方法を尋ねてみると、「自分では洗濯機を分解しないでください!」とのことであった。洗濯機は実はすごくデリケートな機械。それをネット情報のみを頼りに独力で分解しようとして、途中で頓挫してしまい、分解前の状態にも戻せず手詰まりに陥る場合があるらしい。
「自分で手入れをしようとして、ガシガシ割り箸でホコリ詰まりを取ろうとして、逆に傷が付いて故障して、こっちに問い合わせが……という事例もありましたね。いざ行ったらご自身では『触ってない』っておっしゃっているんですけど、明らかに誰かが手を加えた跡があって。それだとどうしても直せなくなっちゃうので、できれば当社のようなプロに任せてほしいです」
◆“夏にこそ”注意したいポイント3つ
最後に、今後もしばらく続くであろう猛暑シーズン特有の注意点を増田さんに尋ねたところ、次の3つのポイントが要注意のようだ。
(1)洗濯物の詰め込みすぎに注意!
「夏は洗濯物が増えがちですが、洗濯容量の約7割を目安にご使用ください。詰め込みすぎると汚れ落ちが悪くなり、機械への負荷も大きくなります」
(2)糸くずフィルターの清掃頻度アップ!
「高温多湿な環境によりゴミの蓄積が早く、ニオイの原因になりやすいです。こまめな清掃をおすすめします」
(3)洗濯物の入れっぱなしはNG!
「洗濯終了後、洗濯物をそのまま洗濯機に放置すると、湿気がこもってカビやニオイの原因になります。すぐに洗濯カゴ等に移すようにしましょう」
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言い方によっては傷つけてしまう懸念があるからこそ、親しい間柄でもニオイについては指摘しにくいもの。それゆえに洗濯機の正しいメンテナンス方法を把握・実行する心がけは忘れないようにしたい。衣服も洗濯機も清潔な状態を保ち、しんどい猛暑を乗り切ろう。
<取材・文/デヤブロウ>
【デヤブロウ】
東京都在住。2024年にフリーランスとして独立し、ライター業およびイラスト業で活動中。ライターとしては「Yahoo!ニュース」「macaroni」「All Aboutニュース」などの媒体で、東京都内の飲食店・美術館・博物館・イベント・ほか見所の紹介記事を執筆。プライベートでも都内歩きが趣味で、とりわけ週2〜3回の銭湯&サウナ通いが心のオアシス。好きなエリアは浅草〜上野近辺、池袋周辺、中野〜高円寺辺りなど。X(旧Twitter):@Dejavu_Raw