海外でも“Reijo(令嬢)”が熱い…「伸びしろしかない!」未開拓の北米マンガ市場、Senpai・Isekaiもあえて英訳しないワケ

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2025年07月31日 08:40  ORICON NEWS

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Reijoモノ、海外でも人気?(『Anime Expo 2025』MangaPlazaブースの様子)
 『Anime Expo 2025』が史上最高の来場者数を記録し、北米での日本のポップカルチャー人気が止まらない。牽引役となっているのはグローバルヒットが相次ぐアニメで、マンガも長らく“ジャンプ一強”時代が続いていた。ところがここへ来て、北米のマンガ市場でとある意外なジャンルが急激に拡大しているのだという。北米向けのデジタルマンガストアとしてローンチから3年、今や全米最大規模に成長した『MangaPlaza』は、どのように新規のマンガファンを掘り起こしてきたのか。現状と成長を見据えた課題を聞いた。

【漫画】意外!北米で大ウケのReijoモノって?市場を切り開いた作品

■ロス開催『Anime Expo』は過去最多41万人来場、アニメ人気に留まらない変化も

 日本のポップカルチャーに特化した北米最大級のイベント『Anime Expo 2025』が7月3日〜6日に米・ロサンゼルスで開催され、31回目となる今年は過去最多の41万人が来場した。

 かねてより「日本のアニメが人気」と喧伝されてきた北米市場だが、『Anime Expo』の来場者が10万人を突破したのは2016年。日本のコンテンツに興味を持つ人が爆発的に増えたのは、この10年未満のことなのだ。

 人気を牽引しているのはやはりアニメで、デジタル動画配信サービスから続々と生まれているグローバルヒットアニメが、『Anime Expo』の来場者数に拍車をかけているのは想像に難くない。

 2022年より『Anime Expo』にブース出展している北米向けデジタルマンガストア『MangaPlaza』の丹羽良太さんは、「近年はIPに対する熱気が高まっている」と証言する。

 「日本では原作マンガから火がついて、アニメやゲームなどIP展開されるケースが多いですが、北米ではアニメで作品を知り、原作マンガが読まれるケースが主流。なかでも、日本でヒットしたメジャータイトルは非常に人気です。ただ、今年度の『Anime Expo』などでは、ヒットアニメにとどまることなく、ゲームやグッズ、そして原作マンガを含めてコンテンツを楽しむ方が増えたように思います。メジャータイトルはもちろん、メジャーでない作品についてもファン自らが見つけてくれるような“熱”を感じましたね」(丹羽さん)

 『MangaPlaza』は14万点以上のマンガを配信している全米最大級のデジタルマンガストアであり、アニメ化されていない作品も数多く取り扱っている。そうした作品の受容実態はどうなのだろうか。

 「アニメの影響力が大きい北米では、これまで女性向けマンガの翻訳点数が極めて少なかったのが実情です。しかし様々なアンケートからも、女性向けマンガに対する潜在需要は確実にあることはわかっていました。MangaPlazaは女性向けマンガが充実したコミックシーモアが母体である強みを生かし、取扱点数からプロモーションまで女性を意識して展開。その成果として、ローンチから3年経った今、かつて米国市場になかった女性向けマンガの“某ジャンル”の熱いファンダムが形成されつつある手応えを感じています」(『MangaPlaza』香月大地さん)

 バトル系少年マンガが盤石な人気を博す北米マンガ市場で、最近、急速に盛り上がりを見せている女性向けのあるジャンル。それが「Reijo(令嬢)」だ。

 「日本では数年前からすでに定番人気の令嬢/悪役令嬢モノですが、英語圏では配信作品数が多くはありませんでした。きっかけは昨年配信を開始した『拝啓見知らぬ旦那様、離婚していただきます』の爆発的なヒットです。これを機に私たちも配信作品数を拡大し、現在は約250タイトルを配信しています」(香月さん)

■「Senpai」「Isekai」「Reijo」そして「Manga」…あえて英訳しない理由

 今や“#Reijo”は『MangaPlaza』のタグ別売上で毎月、ランキング上位を誇るという。

 「今年のAnime Expoには令嬢のコスプレをしたファンもブースに来訪するなど、Reijoジャンルの盛り上がりを肌で感じることができましたね。もともと日本では“なろう系”から派生し、男性読者から火がついた令嬢ジャンルですが、MangaPlazaでは女性向けにPRしてきたこともあって、Reijoジャンル読者の90%以上が女性です」(香月さん)

 令嬢(=高貴な若い女性)を意味する単語を英訳せず、そのまま「Reijo」として普及を試みていることにも注目したい。

 「例えばIsekai(異世界)はすでに日本語のまま海外でもジャンル名として定着しています。他にもSenpai(先輩)など、マンガきっかけで世界に広まったワードは増えています。そもそもマンガもComicではなく、Mangaとして定着したことに意味があったのではないでしょうか。令嬢も安易に英訳して意味を狭めるよりも、Reijoというコンテキストを含めて読者に解釈してもらえるジャンルに育てていきたいと考えています」(香月さん)

 女性向けマンガのトピックスとしては、『デブとラブと過ちと!』(シーモアコミックス)が日米でアニメ化が決定したことも挙げておきたい。日本ではコミックシーモアのオリジナル作品として人気を博し、ドラマ化もされた同作だが、『MangaPlaza』でもローンチ当初から大人気作品の1つだという。

 「今年のAnime Expoのブースにも熱烈なファンの方がいらっしゃって、どれだけこの作品が好きかを語ってくださいました。またブース内で壁面いっぱいにマンガのコマを掲示し、作品の中身の一部を読めるような展示をしたところ、じっくりと見入っている方もたくさんいましたね」(丹羽さん)

 同作は、ぽっちゃり体型にコンプレックスを抱いていた主人公の女性が、事故で記憶喪失となったことをきっかけに、超ポジティブな性格に生まれ変わるストーリー。北米では、「ボディポジティブ」のメッセージとして高く評価されている側面もあるそうだ。

 「この反応は意外でした。日本では、主人公の自己肯定感の高さが自分も周囲も幸せにしていく姿に『勇気をもらった』という声が多く、体型にフォーカスされることは少なかった印象です。着目ポイントは違えど、日米の読者どちらからも『こういう作品を待っていた!』という声は多く寄せられており、作品としてのポテンシャルは十分。アニメ化以降の更なる人気拡大も期待できそうです」(香月さん)

■電子コミックが普及した現在も、「9:1」で圧倒的に紙のマンガが読まれる北米

 新たな読者が掘り起こされつつある北米マンガ市場だが、アニメと比べたら規模はまだまだ小さい。そんな中でも熱を帯びる北米のマンガファンとは、一体どういう人たちなのだろうか。

 「ある程度、可処分所得がある人たちと言えるかもしれません。というのも、北米では現在も9:1で圧倒的に紙のマンガが多く読まれていて。紙の単行本は15〜20ドルが平均と、高価にもかかわらずです。電子コミックは比較的安価に提供されていますが、『電子も読むけど紙で持っておきたい』という方も多くいらっしゃるようです」(香月さん)

 こうした市場背景から、『MangaPlaza』でも今後はオリジナル作品の紙展開を視野に入れているという。とはいえ、アニメ化作品が盤石人気の北米市場で、新規IPやアニメ化されていないマンガ作品を成長させるには、何が必要なのか。

 「日本のように『ヒットしたマンガがアニメ化される』という、現在の北米市場とは逆の流れを生み出したいですね。ユーザーのタッチポイントを大きく広げられるデジタルファーストの特性を生かして、マンガがIPのファンダムを生み出す中心的存在になることを目指しています。そのためにも、電子コミックのさらなる普及に務める必要があると考えています」(香月さん)

 『MangaPlaza』の配信作品数は14万点以上と北米最大級だが、「まだまだ少ない」と自己評価する。

 「市場の活性化には、ラインナップの充実が欠かせません。日本の出版社は長らく、海賊版の問題から海外での電子コミック販売に慎重な姿勢をとられていました。ですが、MangaPlazaの売上も2年連続で300%成長しており、正規版の電子コミックがしっかりと売れることを実感してくださるようになりました。作品の供給も爆発的に伸びており、それと足並みを揃えるようにリーチできるユーザーも確実に広がっています」(香月さん)

 北米のマンガファンを高可処分所得層だけでなく、ライト層にまでを広げていくためにも、電子コミックの普及は欠かせない。もちろん課題はある。中でも大きな壁は翻訳のスピード感だ。

 「日本と時差のない同時配信は、海賊版対策においてとても重要です。すでに大手出版社では実現していますが、翻訳の労力やコストは決して小さくありません。それだけに日本のマンガ業界が、競合ではなく、オールジャパンで北米市場を開拓するという意思を共有することが大事だと思います。当社はデジタルマンガストアですが、同様に日本のマンガ文化を世界に届けるプレイヤーがもっと増えてほしいと期待しています。北米のマンガ市場は伸びしろしかありません!」(香月さん)

 北米市場は日本のマンガコンテンツにおいて、今なお開拓の余地が大いにあるフロンティア。『MangaPlaza』をはじめとするデジタルプラットフォームの挑戦が、日本のマンガの新たな未来を切り開くことに期待したい。

(文:児玉澄子)

このニュースに関するつぶやき

  • 「異世界」を訳すと「another world(アナザー・ワールド)」だけど、ありふれた単語だし、あまり良くないイメージがする。日本の“異世界”ものは、もっとユルい感じw
    • イイネ!6
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