
『おひとりさま時代の死に方』(井上治代著)では、死後に起こる大事なことについて、尊厳ある死と葬送の実現を目指すNPO法人 エンディングセンター理事長である著者が紹介しています。
今回は本書から一部抜粋し、死後にかかる想定外の費用について紹介します。
「直葬=格安」の落とし穴
最近でこそ、身元保証や死後事務委任が少しは知られるようになってきたが、まだまだ知らない人は多い。よくあるパターンは、一つの契約で自分の老後から死後までのことを委任できると考えていたり、お金はそんなにかからないと思ったりしていることだ。エンディングサポート希望者が相談にみえたときのこと。
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「これは、葬送儀礼をおこなわないという直葬で見積もった料金です。葬儀をしないからといってお金がかからないというわけではありません。病院にご遺体をお迎えに行く寝台車や移送料、柩代、ドライアイスや火葬までのご安置の代金、その他、供花代等、それに人件費がかかります」と言うと、納得された。
安い葬儀料をうたって宣伝しているところの提示金額ぐらいでできると考えている人がいる。その安い葬儀社も、実際はそれ以上の費用がかかることがほとんどだろう。
そのほか、エンディングセンターのスタッフが家族の代わりとなってさまざまに動くことに対する人件費(工程管理費)がかかることを想定していなかった人がいるようだ。そこで、儀式をおこなわないという直葬でも、「ご遺体の引き取り、安置、柩、供花等、そして遺骨の持ち帰りの交通費等がかかります」と説明している。
「待機も仕事」という現実
「かつて、妻が病気になって1カ月も入院することになり、その間、子どもも小さかったので家政婦さんを頼んだら、家事だけで1カ月35万円もかかったと、驚いた夫がいました」という話をし、「家族が無償でやってきたことを、家族以外の者がおこなうと、それだけお金がかかります」と伝えている。
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夜、緊急電話で死亡の知らせが入ると、勤務時間外でも、担当者の自宅から契約内容を確認できるようになっている。当然、緊急電話代やコンピュータでのシステム構築にもお金がかかっている。
ここで何が言いたいかというと、現代の高齢者にとって、これまでの社会では想定してこなかったことが起こっていて、家族が無償でやっていた時代と違って、老後資金がますます必要になっているということである。
「後見人」に潜む費用
死後事務委任契約だけではない。実は、認知症になって後見人がつくと、後見人にお金を払うだけだと思っている人がいるが、後見人のおこなうことを監督する後見監督人にもお金を払うことになっている。後見人が本人の財産を悪用していないか監督する必要があるからだ。親族が後見人になる場合等は、親族以外の第三者が後見監督人になる。成年後見監督人は自由に解任できないし、また基本的には被後見人が生存中、ずっと報酬の支払いが必要となる。任意後見契約は任意後見監督人が選任されたときから効力が生じるため、必ず任意後見監督人が選任される。
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井上治代(いのうえ はるよ)プロフィール
社会学博士。東洋大学教授を経て、同大・現代社会総合研究所客員研究員、エンディングデザイン研究所代表。研究成果の社会還元・実践の場として、尊厳ある死と葬送の実現をめざした認定NPO法人エンディングセンターで、「桜葬」墓地と、墓を核とした「墓友」活動を展開している。
(文:井上 治代)