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かつてファミリーレストランや居酒屋、カフェといえば、社員である店長のもと若い学生アルバイトたちが働いている──というイメージが強かった。「初めてのアルバイト先はチェーンの飲食店だった」という読者も多いのではないだろうか?
しかし最近は、これらのお店で外国人や高齢の従業員もよく見かける。すかいらーくグループの各店も同様で、働く人の国籍は日本以外に56カ国を数え、年齢もバックグラウンドもさまざまな従業員が共に働いている。
多様な人材が活躍できる現場には、どのような工夫と仕組みがあるのか、前記事に続いてすかいらーくホールディングスの下谷智則さん(人財本部 デピュティマネージングディレクター)に聞いた。
●店舗で働くシニアは4000人以上、外国人は56カ国の約3500人に
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今でも、すかいらーくグループのパート・アルバイトの過半数は学生だ(大学生・専門学校生が38%、高校生が17%)。しかし、3年以上在籍しているパート・アルバイトの割合は33%と比較的高く、これは学生に次いで多い主婦(24%)が長期で働いているためと推測される。
また、すかいらーくグループではパート・アルバイトの年齢上限を75歳としている。東京都主催の「シニア仕事EXPO」で就労体験の場を設けるなど、シニアの採用にも積極的だ。その結果パート・アルバイトの7%が60歳以上で、実数では4000人以上にのぼる。
さらに、障害のある人が約630人(パート・アルバイトの約1%)、外国籍の人は56カ国の3500人弱(同4%)在籍するなど、働き手の多様性が増している。
「全体で1人しかいないという国の方もいらっしゃいますが、かなり多くの国の方にお仕事していただいています。今のところ一番多いのはネパールの方で、外国籍の方々のうち21%です。続いて中国の方が15%、ミャンマーの方が12%いらっしゃいます」(下谷さん)
すかいらーくグループではパート・アルバイトの友人紹介制度があり、紹介された人が働き始めると、紹介者と紹介された人の双方に食事券をプレゼントしている。特に都心の店舗では、この制度を利用する外国人従業員が多いそうだ。同胞の友人にも紹介しようと思えるくらいに働きやすい職場であるということだろう。
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「例えばミャンマーの方を採用すると、その後はそのお店でミャンマーの方が増えていく、というような傾向もあるんです。職場に友達がいるということも、さまざまなバックグラウンドを持つ方が定着しやすい一つの要因になっているのではないでしょうか」(下谷さん)
●外国人材が働きやすい環境、どう実現?
これだけ多くの国の人が集まる理由の一つに、採用Webサイトにおける工夫がある。外国人向けのページでは簡単な日本語のみを使い、主要な文章の漢字には全てふりがなを振るほか、中国語、英語、韓国語、ベトナム語にも対応している。
「昔はあえてカタカナ語を使っていました。ですが外国籍の方にヒアリングすると、カタカナは理解のハードルが高く、日本語だけの方が分かりやすいしGoogle翻訳にも適しているんだ、という声があったんです。それ以来、応募される方がGoogle 翻訳を使うことを想定し、非常に簡単な日本語表現を使うようにしています」(下谷さん)
アルバイトへの応募を検討する段階からこのような配慮が感じられれば、外国人にとっても応募のハードルがぐっと下がるだろう。
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入社後は、25カ国語の動画マニュアルを提供し、それ以外のガイドなども原則5カ国語で表示している。これは、採用する外国人に高い日本語力を求めてはいないということだ。
「働いているうちに日本語が堪能になる方は多いですね。ただ、最初にある程度の必要なことを覚えてしまえば、それほど日本語が堪能でなくても仕事上の支障はないように思います」(下谷さん)
受け入れる側の店長や従業員にも、それほどの英語力は必要とされていない。特に外国人の多い店舗に限り、面接や初期のトレーニングに携わる外国人インストラクターを配置している。それ以外では、店舗に備えているAI翻訳機の「ポケトーク」やスマホの翻訳アプリなどを活用してのコミュニケーションでこと足りているそうだ。これも、店舗運営の標準化やマニュアル整備がしっかりなされているからこそだろう。
●シニアの「何度も質問するストレス」も低減
高齢者の働く場としてはどうだろうか。立ち仕事ばかりのファミリーレストランは高齢者向きではないと考える人もいるだろう。しかし、多くの人はそれを分かった上で応募するため、年齢によって採用基準を変えるというようなことはしていないという。加えて、「配膳ロボットやセルフレジ、テーブルターミナルの導入などのDXやオペレーションの単純化により誰もが働きやすい職場づくりを推進していることも、シニアの方が応募するハードルを下げているのでは」というのが下谷さんの見立てだ。
ちなみに、応募を考えるシニア層からの質問で一番多いのは「どんな方が働いているのか」。周りが若い人ばかりでは浮いてしまうのではないかと心配する人が多いようだ(※)。
※参照:労働政策研究・研修機構 かいらーくホールディングスの取り組み
確かに、他の従業員との年齢ギャップを感じたりすれば働きづらくなりそうだ。しかしその点は、店舗に備え付けのタブレットや自らのスマホですぐに閲覧できる動画マニュアルが助けになっているという。
「もちろんトレーナーから対面で直接トレーニングを受けることもあるのですが、その後何度も『あれ、どうでしたっけ?』と聞かなくても、自分で動画を見て『あ、そうだった』と復習できるんです。それがシニアの方にとってのストレス軽減につながっているのではないかと思っております」(下谷さん)
なお、動画マニュアルは入社直後に必要な初歩的な内容だけでなく、その後のステップアップに応じて必要な内容が網羅されている。トレーナー役の従業員が他の従業員に教えるためのポイントや、パート・アルバイトの各等級で必要とされる知識やスキルなどの説明動画もあるという。
●多様性を生かす店舗経営に見えた大企業の底力 「徹底的な標準化」が重要に
すかいらーくグループの店舗を訪れると、どの店でも同じレベルのサービスを受けられることに気付く。これを「いつでも同じ味と接客を体験できて安心」と評価する人もいれば、「少し人間味に欠けて寂しい」と感じる人、「標準化によってリーズナブルな価格が実現されている」と理解する人もいるだろう。
だが今回の取材で明らかになったのは、この徹底的な標準化が単なるコスト削減や品質管理の手段にとどまらないということだ。これが、多様な人材が活躍できる土台として機能しているのだ。
力仕事や複雑なオペレーションが少ないことは、どんな人にも働きやすい職場の実現につながる。また、サービスの品質が維持しやすい状態は顧客からのクレームの低減、感謝を伝えられる機会の増加にもつながり、働き手のモチベーションを向上させることにもなるだろう。
補足すると、これは「パート・アルバイト従業員は何も考えずにマニュアルに従えば良い」という話ではない。その証拠に、オンラインで定期開催される研修「感じの良いサービス勉強会」には年間でのべ3万人ほどのパート・アルバイト従業員が参加し、より良いサービスについて意見や情報を交換しているという。全国の店舗で顧客に直に接する人たちのリアルな声を受け止め、さらなる改善に生かしているわけだ。
本部主導で誰もが働きやすい職場づくりを支援しつつ、顧客と働き手の多様で多量なリアルな声を聞いて改善を進める。これは、全国に2900店以上を展開するすかいらーくグループならではの優れた経営の在り方だと感じた。
著者:やつづかえり
コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立。2013年より組織に所属する個人の新しい働き方、暮らし方の取材を開始。『くらしと仕事』編集長(2016〜2018)。「Yahoo!ニュース エキスパート」オーサー。各種Webメディアで働き方、組織、イノベーションなどをテーマとした記事を執筆中。著書に『本気で社員を幸せにする会社』(2019年、日本実業出版社)。
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